第5話

「大学でも柔道部に入りたいんだ」と、入学式の日の晩、僕は両親に言った。


「もう、やめて」と母が言った。

「もう大学生なんだし社会勉強になるような、他の活動をしたら?」

そう続けた。


「柔道禁止を解除しないっていうことは、もうやめておけ、ということじゃないか。柔道じゃなくて、英翔にもっと向いていることをさせれば良かったね」と、父が言った。


僕は言った。

「こうなったのは今まで俺がちゃんと柔道に向き合わず、手を抜いてきたからだ。だけど、試合で一回でも勝たないと、他のことをやっても結局同じだと思うんだ。柔道だけじゃなくバイトも勉強もちゃんとするよ」


僕が入学したのは小さな大学で、柔道部も練習は週に四日ほどでサークルのような雰囲気だった。

大学に道場は無く、近くの町にある武道場を借りて、地元の愛好家や子どもたちも来て練習していた。


先輩に勧められて再び昇段試験を受けに行ったが、中学生相手でも負けてしまう。

だけど、始めて勝つことができた。

四人に勝って形の試験にも合格すると、初段を取って黒帯を締めることができる。


夏には長野県に合宿に行った。

その最終日に部内で試合をして順位を決めたが、またも最下位。

大学から初めた人にも負けてしまった。


帰りにバスは道の駅に寄った。

みんなはアイスクリームを食べているけど、僕は食欲が無かった。


自分だけ何もせずそこにいるのはみんなに悪い気がして、売店に立ち寄った。

せっかく長野に来たのだからと思ってぶどう味のキャラメルを買って、みんながいる所に戻って一粒食べた。


だけど、さっきの部内の試合のことを思い出して、何も話す気になれずその場を離れた。

バスが出発する時間まで誰もいない所に居た。


あの日から、自分には何が足りないのか、自分の悪い所って何なのか、来る日も来る日も考え続けた。

バイトで怒られたり、自分の欠点に気付くと手帳にメモするようになった。


秋学期になり、授業でよく会う女の人に声をかけられた。


「君、柔道やってるんだって?」

「うん」

「試合見に行って良い?」

「あの、それは、ちょっと・・・」

何と返事しようか言葉が見つからないまま、僕はそう返した。

「ええーっ」

そのとき、これまで柔道をしてきた中で経験した思い出したくないことが次々思い浮かび、それが無数の小さな棘のように僕の心に刺さってきた気がした。

「だから、駄目ですよ。あれは見せ物じゃない!」


「駄目だよ」

その様子を見ていた先輩がやってきてそう言った。

「どう考えてもあの娘は君と友達になりたかったのに、どうしてそんなこと言うの?」

そう問い詰められて、仕方なく話し始めた。

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