第4話
三年生になり、新入部員が次々に入ってきたある日、先生が練習を中断させ、みんなを集めた。
「おい、蔵坂!お前、いつも何やってんだ!」
突然、先生が声を上げた。
「ええっ、何ですか?」僕は驚いて答えた。
「お前はやる気がみられねえ!今すぐ柔道着を脱げ!」
「どういうことですか?」思わず聞き返す。
「体操服に着替えて、畳の外で少しでも練習のためになることをやれ!」
それから毎日、他の部で練習している生徒の目を気にしながらグランドを走り込んだり、道場やグランドの隅っこで筋力トレーニングをした。
道場では練習相手が代わるたびに礼をして間を取れるが、それがない分、ずっと動き続けていて、以前より息が切れていた。
そこまでしても、先生からは練習に戻って良いという許可は下りず、試合にも出してもらえない。
そのまま高校最後の試合が終わり、部活を引退する時期になってしまった。
僕はAO入試で進学が決まった。
だけど、その大学は他の人からは全く勉強しなくても入れると言われていた。
進路が決まった柔道部員は、卒業まで再び練習に参加することになっていた。
それで道場へ行ったら先生が言った。
「おい!蔵坂!お前なんで柔道着着てんだ!?」
「ええっ・・・」
「お前の柔道禁止はまだ解除した覚えがない!勝手なことをするな!」
再び畳の外で一人練習を続ける。
大学の推薦入試は専願で受けていたから、もう他の大学は受けられない。
一般入試を受けるためにまだ受験勉強をしている生徒が羨ましかった。
僕たちの高校の柔道部では毎年三月三十一日に三年生が最後の練習をする。
この時期になるともう入部を決めている新入生も練習に来ている。
僕はこの日も畳の外側で練習した。
最後の練習が終わると、在校生も一緒にささやかなパーティーをする。
最初に、先生が三年間を振り返りつつ言葉を贈った。
「君たちは目標にしていたインターハイまでは届かなかった。だけど、練習はインターハイに行った高校と同じくらい厳しく取り組んできた。そこは自信を持って良い」
それから、卒業する一人一人の良い所を褒めた。
「お前は一年の途中から柔道を始めたのにレギュラーを取ったのは、誰よりも努力をしてきたからだ」
「お前は怪我で思ったような結果は残せなくて残念んだっただろうけど、何とかできることを探してやろうとする姿勢は本当に立派だった」
そんな感じだった。
最後に僕の番だ。
最後くらいは「よく頑張った」みたいな労いの言葉を期待していた。
「なあ、蔵坂。お前の柔道禁止はまだ終わらねえぞ!大学では柔道をしなくても、何が足りなかったのか時間をかけて考えてみろ!これは柔道だけじゃなく、生き方そのものの問題だからさあ」
パーティーが終わるのを待って、仲間と一緒にならないように先に帰った。
それから部屋に篭ってときには物に当たりながら、声を上げて何日も泣き続けた。
小さい頃からずっと柔道をしてきたというのに、自分の人生は何だったのか。
そうしている間に入学式の日になった。
先生があそこまで言うのだから、僕は大学に行ってもどうせ価値なんて無い人間なのだろう。
行く気になれなかったが、何とかスーツに着替えて大学に向かった。
途中で周りの人の視線を感じて、服装が乱れていることに気付き、直した。
そんなことが何度もあった。
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