第2話

中学校から柔道を始める子には勝てるだろう。

それをきっかけに、これまで負けていた子にも勝てるようになるはずだ。

そう思っていた。


ところが、中学校の柔道部に入って練習を始めると、始めて柔道をする子にも簡単に負けてしまった。


「もう勝てないだろう」と思った。

それからも、彼らとの差は広がる一方だった。


それに体育でも柔道がある。

そこでも、柔道をやったことがない子にすんなり投げられてしまう。


家では部活の話になると、父は「学校での練習だけじゃなく、帰ってからももっと練習しなさい」と叱った。

ただでさえ、嫌で仕方ないのを我慢してやっているというのに。


仕方なく家でも練習をした。

柔道を後から始めた子に追いつくために。

父が家の柱にゴムチューブを括りつけ、僕はいつも一人でそれを引っ張り、技をかける練習をしていた。


この頃、昇段試験にも行くようになったが、一度も勝てないままだった。



中学校最後の試合。

相手は一年生だったが、負けてしまった。

技はかけたけど、あっさりひっくり返されて、押さえ込みで負けた。

そうして、不貞腐れて帰ってきた。


父に試合の結果を知られ、「帰ってからも練習をしたのか」と問いただされた。

もちろん、練習していると答えた。


すると、「どんな練習をしているのか見せろ」と言われた。


ゴムチューブを使って柔道技の形の練習をしている所を見せると、父は言った。


「ちゃんとした形を身に付けるのが目的なのに、一つ一つの動きがどれもいい加減なんだよ!」


例えば、膝を曲げて伸ばす勢いで投げる技がたくさんあるけど、僕はその技に膝を伸ばしたまま入っていた。


いくら練習したと言っても結局いい加減な技だから、実際の試合では使い物にならない。

時間をかけていい加減な技を体に染み込ませてしまったから、正しいやり方を覚え直すのは返って大変だ、と怒られた。


「柔道はもう辞めたい」


そう言うと、父は怒りを露わにして言った。


「続けなさい。今辞めたら、逃げたことにしかならないんだから!」


この時、僕は思った。父は自分の都合で僕に柔道を続けさせようとしているだけだ、と。

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