昨日の敵は今日の友

 話の分かる武田軍秋山信友が呼ばれる。俺も本陣に戻り家康さん、信忠君、信治さんの横だ。復活した酒井さんは薬生成のため髪の毛を俺が少し切らせてもらったが、切ったところを触っている。


 「う〜む・・・心なしか髪の毛が少なくなったように思うが大橋殿はお分かりか?」


 「いえ、とんでもございません。以前と変わらないと思います!!!」


 「そうか・・・」


 もしここで『あっ!薬作るのに必要だったので切りましたよ!』なんて言えばこっぴどく怒られそうだ。


 「その方が秋山信友か」


 「如何にも」


 「其方は表立って軍事行動を起こしてなかったな?それは何故だ」


 家康さんが珍しくドスの利いた声で問いかける。


 「お屋形様や、高坂殿、内藤殿には悪いが初めから此度の戦には反対であった。某1人が動こうが動かまいが変わらなかったであろう」


 「其方はなかなか胆力がある。信長殿が一目置くだけの事はあるな。沙汰を申し付ける!武田信玄公を甲斐に連れて帰れ」


 「うん!?斬首では?」


 「殺す事はすぐにできる。実は信長殿だけではなく大橋殿も其方に一目置いておる。そんな男を易々と殺してはワシの器が小さい事が露見してしまうではないか」


 「「「はははは!」」」


 「よっ!殿!それでこそ我が殿ですぞ!!」


 「チッ!黙らぬか!康政!お主まで茶化すな!!」


 この和やかな本陣はなんなんだ!?確かに開戦前に家康さんに秋山さんも後世でそこそこ有名だと言った気はするけど・・・。


 まあでも誰かが甲斐に運ばないといけないからな。もどかしいな。


 「許すなら・・・我が甲斐に赴こうか」


 「うん!?上杉殿がか!?」


 「うむ。負けたとはいえ、未だ同盟は生きておる。それに今後武田の四男坊が仕切るであろう」


 「四男坊・・・諏訪の者か?」


 「うむ。若く気高く武に関してはそこの3人に負けず劣らずだ」


 意外に謙信の勝頼に対しての評価は高いな。


 「信忠様の今後のお考えをお聞かせ願えますか?」


 「はい。徳川殿と同じかと思います。某は父上ではありませんのでもしかすると意見の食い違いがあるやもしれません。ですが個人的に武田とは・・・これより争いはしたくありませぬ」


 うん。恋だな。間違いなく松姫の事だろう。なんだろうな・・・むず痒い!青春か!?


 「ならば・・・織田の嫡男殿・・・いや、信忠殿よ。我が甲斐に赴く事の御了承を願う。見張りも一緒でいい」


 「良きに計らいましょう。大橋殿を付けましょう。例の空飛ぶ夢幻兵器ならば早いでしょう」


 結局俺かよ!?早く帰りたかったのに・・・。まあいいか。一度勝頼とも話さないといけないし、信忠君のお嫁さん連れて来ないといけないしな。


 残りの捕らわれた名のある人達は家康さんと信忠君に任そう。結果を聞かなくても多分本人達が分かっている事だろう。斬首、切腹。晒し首なんかはされないと思う。


 それと残った雑兵の人達は家康さんが吸収するだろう。国境の城やなんかの始末もあるだろう。そこまで手は貸さない。物資は売ってあげるが俺は織田軍だ。仲は良いと言っても徳川軍ではない。浅井や朝倉の方をどうにかしないと信長さんの身入りがない。


 「では明日にでも出発しようかと思います。信忠様、よろしいですか?」


 「良きに計らってください。あのう・・・夜に少しお話願えますか?」


 「お考えの事分かりますよ。お任せください。小雪もその事を考えております。なぁ?小雪?」


 「(クスッ)はい!信忠様はドシッと構えてお待ち下さい!果報は寝て待て!ですよ!」


 「え!?あ、あぁ、そうですか・・・よろしくお頼み申し上げます・・・」


 やはり青春だな。俺と小雪がキューピットになってやろう。そして信忠君の口添えで信長さんに『大橋殿にはそろそろ格に似合う城を用意した方がよろしいですよ』と言ってもらおうか。



 この日は皆を交えて一風変わった飯を食べる事にした。家康さん達は城に戻ったが俺はいつものゲルテントだ。城の人達は歓喜に満ち溢れているだろう。


 新しい顔は武藤さんブラザーズ、上杉謙信、本庄繁長、信治さんとすずちゃん。そして・・・


 「クックックッ・・・下郎!跪け!我が主の下僕共がーー」


 スパコンッ!!!!


 「馬鹿たれが!!!何が下郎だ!お前が1番の下郎だよ!!佐助!謝れ!今すぐに、これまで見た事ないスーパーウルトラミラクルジャンピング土下座をしろ!!」


 「佐助?この事は録画致しましたので岐阜に戻ればセバスチャンにお見せしましょうか」


 「い、いやすいません!調子に乗りました!!皆々様方・・・お見苦しいところを・・・我は暁様の忠実なる僕、小雪の忠実なる下僕にございます」


 「ふぁふぁふぁ!誠に面白い男ではないか!若い頃の我を見ているようだ!」


 え!?謙信もこんなだったのか!?んなわけないだろ!?


 「う、うむ。某は武藤喜兵衛と申す。よろしくお願い申し上げる」


 「俺はこの者の兄の真田信綱だ」


 「同じく俺は真田昌輝と申す」


 「おい!佐助!分かったか!?こうやって挨拶するんだ!覚えておけ!」


 「わ、分かりました!ですのでセバスチャンには・・・」


 「諦めなさい!もう送信しましたよ」


 「そ、そんな・・・」


 「まあとりあえず・・・佐助はこんな奴です。皆も城で寝泊まりしたいやもしれませんが俺の一存にてここで今日は寝泊まりを。城方より快適に過ごせますよ」


 「うむ。我も文句は言うまい。して・・・これは酒・・か?」


 「昨日の敵は今日の友。意味は、昨日までは敵だった者たちでも、事情が変わって今日は味方同士になること。人の心や運命がうつろいやすく、あてにならないものであることの例えです。ありきたりな言葉ですが二度と敵にはならないようにしたいものです」


 「そうそう。特に上杉様には若い織田家に頭を下げるのは許されないでしょうが頭を下げた方が良い事もありますよ?米や酒、甘味などもこれより私達と同じ物を食す事になるのですから」


 「確かに・・・岐阜米とやらは甘かった」


 「あら?もう口にした事がございましたか。では話は早い。越後を・・・米の一大生産地とし、越後米を作りましょうか」


 「小雪?少し早い。それに腹ペコだ。まずは今できる最大のもてなしをしてあげよう」


 「すいません。そうでしたね」


 パンパン


 俺が手で拍手すると望月さんや千代女さん、彩葉ちゃん達だ。事前に飯を作るように言っていた。メニューは、最大限今作れる豪華な飯・・・未来では安く手早く食べれる物だがこの時代では相当豪華だろう。


 「まずは俺の好物の牛丼!ビール!フライドポテトです!さすが千代女さん!美味しそうだよ!」


 「あ、あ、ありがとうございます!!!!」


 照れやがって!中々可愛い一面だな。


 ビールはアイテムから出した物だが米や肉、玉ねぎ、ジャガイモに関してはこの世界の物だ!謙信の酒だけ特別に大吟醸酒を注いであげている。


 「あ、兄者・・・これは・・・」


 ゴグリ・・・


 武藤さん今唾飲んだよな!?そうだろう。匂いだけで米食えそうなレベルだ!味付けは間違いなく焼肉のタレベースで作っただろう!甘い牛丼は俺は嫌いと言ったから醤油と味噌、酒、少しの砂糖、味醂、後は玉ねぎの甘味だけでいいのだ。


 「これは・・・肉か?」


 「はい。上杉様は信心深い方と思われます。ですが騙されたと思い食べてください。どうしても食べれないと言うならば他にお出しします」


 「三種の浄肉・・・殺されるところを見ていない。自分に供するために殺したと聞いていない。自分に供するために殺したと知らない」


 「仏教の教えですね」


 「我が崇拝するは真言宗・・・加行の折は精進料理しか食せぬが存外に肉も食らうものぞ。あれやこれやと難癖はつけぬがな」


 「へぇ〜!初耳だ!ちなみに俺の居た世界では敢えて肉を食べない人も居ますがここ日の本では食べる人が多いです。それは栄養に良いからです。まあこれは追々教えます。まずはお食べください!」


 謙信が恐る恐る口に入れる。それを真田ブラザーズ達も見届けた後に口に運ぶ・・・


 さぁ!驚き慄け!未来の食だぞ!!


 「暁様にはこちらにございます。小雪様が健康に気遣い、サラダから先に食べてくださいとの事です!」


 またドヤ顔で皆を眺めてたら俺の大嫌いなブロッコリーとカリフラワーのサラダがてんこ盛りにやってきた。小雪が俺を思って作ってくれたのだろう。勘弁してほしい。今は肉だけ食べたかった・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る