戦国時代に迷子！？

大きな飛躍

　「千代女さん！？そんな大事な事は早くに教えてほしかったよ！？」

　「申し訳ありません。殿方のそういう服はまだ分からない事が多いので・・・」

　恥じらいながら物を言う千代女さん・・・不謹慎ながら少し可愛いと思ってしまう。いや、いかんいかん！千代女さんは俺の第一の家臣の娘さんだ！

　「ここは・・・・黄泉の国か・・・」

　「忠次！ワシが見えぬか！？黄泉の国ではない！三方ヶ原だ！お主が武田を討ったのだぞ！」

　「殿・・・？殿ッッ！！！！御無事で！！！！」

　「「「「おぉ！！！」」」」

　徳川軍は歓喜である。酒井さん自身の人望もあるだろう。厳しい一面を持つ人だとは思う。それでも違う隊の人達も涙流しながら喜んでいる。1番喜んでいるのは意外にも北条さんだ。

　「徳川殿・・・相すまぬ。ワシを逃した酒井殿が討たれるとは思わんかった。だが良かった・・・あのまま目を覚さなかったら自害しようと思っていたくらいだ」

　「いやそれには及ばん。現に酒井は生きて戻って参った。北条家とは後程色々と取り決めを行いたいと思うのだが・・・」

　「そうだな。お手柔らかに頼もう」

　この時代の人に関して氏康さんは物腰が柔らかい。小田原もいずれ観光で行ってみたい場所の一つだな。

　「徳川様？上杉様に武田を引き合わせたいと思いますが・・・」

　「あ、あぁ。すまぬ。うむ。其方が上杉謙信殿・・・か！？」

　「うむ。我がそうだ。この形（なり）が本来の我だ」

　「そ、そうか。さぞ大変であっただろう。ゆるりと語らうとよろしい。皆の者！見張りの者以外外せ！」

　徳川さんがそう言うと本来の本陣の方に戻っていった。俺も一礼して戻ろうとしたが呼び止められた。

　「大橋殿は横にいてもらいたい。其方に聞きたい事が山程ある」

　まぁ、死者を甦らせたり俺も斬られたが死ななかったしな。そりゃ疑問も多いだろう。

　「小雪？勝頼はどうなっている？」

　「はい。北条様が退路を断つ直前、道を塞ぎ切る前に甲斐に向かい、数騎だけで離脱しております。私は敢えて見逃しました」

　「ここは史実みたいになるんだな。それで何で見逃したんだ？」

　「暁様の心が戦から離れ内政に向いていたからです。本来、私達が居た世界でも敵の本拠地まで攻める事はしなかったでしょう？暁様は内政がお好きな方。私が1番よく知っています」

　小雪の優しい目だ。そうだ。ここで俺を知ってるのは小雪、セバスチャン、勘助だ。喜助と佐助も居るがあれ等は頭のネジがぶっ飛んでるからな。

　戦をした方が話は早いのは分かる。だがすぐに戦を仕掛け武で制圧すれば禍根が残る。相手にも戦を起こさせる気力すら湧かないくらい大きくなれば良い。

　ここでもそうだが敵の本拠で戦をすれば後始末が大変だ。この世界の人達は違う国の農民なんか知らん顔するからな。俺はそんな事できないからどうしても助けてしまう。

　俺もこの時代に慣れたとはいえ、この感情だけは変えたらダメだと思っている。

　「大橋・・・其方は何者ぞ？」

　「上杉様、信じるか信じないかはあなた次第ですが俺は違う世界から来ました。正確には違いますが簡単に言うと未来からです」

　「は！？」

　まぁ妥当な反応だな。

　それから俺達の事を簡単に教えた。未来であなたは非常に有名だと。織田信長に次いで2番3番目に有名だと。そして、この世界で今この時1番強いのは誰かと問い掛ければ、あなたの名前が上位にあるのは間違いないと。

　「我が1番とな！？本庄！聞いたか！？上杉の名が未来では有名ぞ！」

　「はっ。それは殿の無類の強さ故の事ででしょう！然も当たり前にございますれば」

　「後程ゆるりと語らいたい。安心せよ。未来とやらで我は強いと言っても負けは負けだ。どんな強者でも勝ち続ける事は困難だ。今一度再起やら裏切りは絶対にせぬ！」

　ここに関してだけは多分1番信用できるな。これでも義の人としても有名だからな。

　「越後にお送りして一日お話しましょうか」

　「うむ。其方は織田家では中々に自由を許されているのだな」

　「確かにあまりは言われません。ただたまに無理難題を言われますけどね」

　「あの男はできぬ事は言わんはずだ。これからも支えてやれ。器としても戦にしてもこんなに清々しい負けは初めてだ！気分が良い。我が宿敵は腑煮えくり返り旅立っただろうがな」

　「そこに関してはお二人にしか分からない事だと」

　「此奴も中々の強敵であった。川中島での事だ・・・」

　そこから謙信の回想だ。確か何回も川中島で戦ってたよな。有名なのは第四次川中島の戦いだったな。

　「八幡原での事だった・・・我が宿敵は茶臼山・・・我は妻女山にて相対・・・山本勘助が我を誘き出すために出張ってきておったな・・・」

　「後世ではそれを啄木鳥戦法と呼ばれています。あなたは、それを察知して濃霧を利用し、真正面に陣取ったのですよね？そして時間差にて武田の別働隊が現れ、犀川を渡河して善光寺にーー」

　「「敗走した」」

　「殿・・・まさか本当にーー」

　「本庄も薄々思っているであろう。大橋殿は本物だ。間違いなく八幡原に大橋殿は居なかった。多少人から聞いたとしてもこんなに詳しく知ってるはずがない」

　「では殿は未来から来たと言うのを信じるのですか！？」

　「うむ。そうすれば空飛ぶ鉄、地を這う鉄虫も納得いく。これで線が繋がった」

　女とはいえ本物の上杉謙信・・・この人もキレ者だ。多分どうすれば上杉家がこの先大きくなれるか考えているな。

　「一つ・・・後学のため聞きたいのですが一騎打ちしたのは本当ですか！？」

　「うむ。あの影武者ではなく我が手薄となった此奴の本陣に向け単騎で向かい、3合程だが仕合った。中々に手強かった。小豆長光にて斬りかかったが此奴め・・・軍配にて防ぎやがってな・・・」

　「小雪！聞いたか！？一騎打ちは本当だったんだな！」

　「確か未来では一騎打ちはなかったと言われておりましたが意外な事実ですね！」

　「いったい誰が我が宿敵との血闘がなかったと記したかは分からぬが本当だ。あれ程血が滾る戦はなかった。お互いが死力を尽くし、どちらが勝つか・・・だがそれももう終いだ。此奴もこの事を聞けば納得するであろう。上杉謙信と武田信玄の戦いは唯一無二とな」

　カチャン

　そう言うと、うっすら涙を浮かべ謙信は腰の一本を信玄の亡骸に預けた。

　「このままお送りしても？」

　「あぁ。小豆長光だ。我はまだあの世には行くつもりはないがいずれ向かうだろう。それまで預けておく。いずれ我に返してもらうためにな」

　2人にしか分からない事なんだろう。お互いが戦いあってこそ分かり合える事なのだろう。そこにオレは入れない。現場を見たわけでもないし聞いただけだから。

　乱暴狼藉を犯したとはいえ、相手は名門武田家・・・礼を以て死者を送らないといけない。多分史実と同じで勝頼が後継者だろう。平和路線になるかこのまま東北勢と手を組み敵対するかは分からない。だが確実に言える事はこれで織田家は大きくなるという事だ。