異形な敵

 そこは死体が積み上がっていた。異形な者達。上杉の兵、佐久間さんの兵が入り混じった死体を盾にして戦っている。そして佐久間隊の兵の死体が多いように思う。しかもみんなに渡していた鉄砲がやはりない。


 「望月さん!余裕がなくなった!【タクティカルアーマーベスト】を全員着て!敵は俺達の銃を奪っている!」


 「なっ!おのれ!卑怯者の上杉め!!他家の装備を奪うなどと!!!」


 黒川さんが怒っているがよその物は奪うのが当たり前なんだよな。俺が上杉でも奪っているだろう。


 俺は小回りの利く、ロシア製折りたたみ式短機関銃PP90を片手に持ち接近する。


 そして突如俺の方に聞きたくない音が聞こえる。


 ビシュビシュビシュビシュビシュ


 「みんな伏せろッ!!!!この風切り音間違いなくSTG44 7.92x33mmクルツ弾の音だ!頭に当たれば即死!気をつけるように!」


 「皆の者!暁様に従え!暁様の盾になれ!」


 望月さんがそう言うと後ろから俺の前に立ちはだかる。本当に盾となる気だ。


 「望月さん!なにしてんの!?当たれば死ぬから伏せて!!」


 「い〜や!ここは某が盾となり手本を見せる時!さあ!殿!応戦しましょう!」


 なんでこうもみんなみんな死にたがりなんだよ!!チッ。しょうがない。本当は出したくなかったけどあれを出すか。


 俺はインベントリーから【源氏の鎧】を出し、素早く装備した。この源氏の鎧・・・名前は日本名だが見た目は西洋の甲冑。色は真っ黒。かっこいい見た目だが重い。ゲーム内では上位に入る防御力を誇る鎧だ。


 飛び道具はほぼシャットアウトしてくれる。だが先も言ったように思いの外重いためこちらから攻撃できない。正確にはできないわけではないが動きが遅いためみんなからタコ殴りされるネタ防具だ。


 ちなみにもう一つマイナス効果がありこの鎧も臭い。こんなカッコイイ甲冑のくせに魅力度が落ちるまさにネタ防具だ。


 カンッカンッカンッカンッカンッカンッカンッカンッ


 「暁様!!?それは!?それはなんですか!?敵の弾を弾いておりますぞ!!暁様!ばんざーい!」


 「「「ばんざーい!!!」」」


 恥ずかしいったりゃありゃしない。あんた等が俺の前に立つから出したんだよ!一度装備したらどこか痒くなっても掻けないんだぞ!?苦行なんだぞ!?


 「出たぞ!!あの者が開発者だ!引っ捕えよ!我が殿に献上するぞ!」


 「なにが献上するぞ!だ!?舐めるな!くらえ!」


 バッバッバッバッバッバッバッバッバッバッバッバッ


 シュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュ


 俺は甲冑の中から見てるがかなり驚いた。というかかなり動揺している。敵の兵が普通に弾を避けてるからだ。人間離れした動きでだ。


 カチン カチン カチン


 「チッ。りろーどに入る!援護頼む!」


 「ふん。連射する銃とは世も変わってきておるな。だが我の前では無意味。遅いッ!!!」


 直感的にヤバイと思った。このクソ重い甲冑のせいで動きが遅い。


 「頭領!!」


 バッバッバッバッバッバッバッバッ


 「チッ。まだあるのか。めどくさいな。だが・・・これでどうだ?ここを引くと弾が出るみたいだな?お主等が使えると言う事は我等も使えるという事だ」


 バッバッバッバッバッバッ


 ブシュッン ブシュッン


 「ウッグッ・・・・なんのこれしき・・・」


 「黒川さん!?」


 「黒川ッッ!!!!おのれ!!!死ね!死ね!死ねぇい!!」


 バッバッバッバッバッバッバッバッバッバッバッバッ


 いやマジで舐めてたわ。まさかすぐに使い方までバレるとは・・・黒川さんは肩を撃たれたか。俺のせいだ・・・。ってか佐久間隊はどこまで退いたんだよ!?


 俺は源氏の鎧を脱ぎM18スモークグレネードをあるだけ投げた。そしてすかさずM72手榴弾も投擲する。


 「望月さん!黒川さんを後方に!俺はこいつを許さない!」


 「大丈夫です!某はこれくらいなんともーー」


 「ダメだ!言う事聞いてくれ!」


 「暁様すいません。必ずお戻りください。おい!黒夜叉隊!退け!!」


 この少しのやり取りをした間に敵は俺達の場所を把握したみたいで今度は刀で斬りかかって来た。


 ビシュンッ ガキンッ


 「ほう?気配を消した我の一撃を避けるでなく止めたか。我も鈍ったものよのう」


 「黙れっ!」


 ズシャンッ! シュッ


 「中々の剛の剣筋だな。怒りか。それは少々危ないな。生捕りは難しいな」


 「お前は誰だ!!なんでこのスモークの中的確に分かるんだよ!何で鉄砲を避けれるんだよ!」


 「我は小島弥太郎。謙信様の僕」


 小島弥太郎って・・・鬼小島弥太郎か!?こいつって実在人物だったのか!?ってかそんな事どうでもいい!この人間離れした動きはなんなんだよ!


 「名は分かった。お前達上杉は俺に用があるのか?」


 「謙信様はお前に興味を抱いている。武田に与して共闘はしておるが謙信様がわざわざ武田の駒になるようにと思うか?謙信様が武田を駒と見ているのだ」


 なにを言っているのだ!?


 「・・・・・・・・」


 「我の秘密を知りたくば手荒な真似はせん。少しばかりの土産としてこの連射銃はいただくが客人として招く。一度こちらに来てはくれぬか?」


 人の配下を奪った銃で撃った張本人が寝言を抜かすな!と言おうとしたが堪えた。これは好機だ。謙信の首を取れる。敢えて相手に乗ろうか。


 「確かにこんなに頑張って兵器開発しても褒美が少ししか貰えないからな。一度上杉様に会わせてくれないか?」


 「うむ。やはり調べた通りだ。これ程軍を増強する兵器を用意させながら城の一つも渡さんとは織田は人の使い方が分かっておらぬな」


 少なくともこの鬼小島は俺の事を調べてるのか。軒猿だっけ?上杉の忍びは?中々情報収集が上手いんだな。


 俺は空を飛んでいる1匹の鳥に向かい鬼小島に分からないように頷いた。小雪が見てるはずだ。小雪なら意味を分かってくれるはず。早ければ今夜に上杉は落ちる。俺が落として見せる。それがどんな男でどんな飴を用意されても俺が落とす。


 そしてこの鬼小島弥太郎。こいつの桁外れの身体能力の秘密を探る。




 「ふふふ。さすが暁様ね」


 「小雪嬢?どうしたのだ?暁は何かするのか?」


 「信治様?お喜びください。今宵・・・上杉は陥落しますよ。暁様はわざと上杉に会いに敵に捕縛されました」


 「なに!?捕縛だと!?」


 「ふふふ。何でも上杉は暁様に興味があるみたいですよ?小島弥太郎・・・通称 鬼小島弥太郎。幼少期から上杉謙信の側近として仕え、強力無双の豪傑。まさか実在したとはね?」


 「この浅黒い男か?」


 「えぇ。私達が出した銃を至近距離で全弾避けていました。並大抵ではありません。いったいどんな者なのかと思いますね」


 「こいつは人間か!?あの銃を至近距離で避けるだと!?」


 「中々面白い調べがいのある人間ですよ。それより佐久間様はどこまで退いたのでしょう?いくらあの鬼小島弥太郎相手とはいえ、見えなくなるくらい退くとは・・・」


 「確かにな。あれでは暁を見殺しにしたのと同じだ。下手すると切腹ものだ。俺からも言っておく。兄者にも伝えておく」


 「平手様は暁様に近付こうとしてましたが信忠様が止めてましたからね。信忠様も意味が分かったのでしょう。先が楽しみでもあり末恐ろしくもありますね。彼は大きくなりますよ」


 「あぁ。甥ではあるが中々のキレ者だと俺も思う。一応夜襲の準備をしておこう。退いた佐久間のところを俺が埋めてくる。六角が持ってきたAN94とMP40は借りていくぞ?」


 「ふふふ。本当にドイツとロシア、ソ連の兵器が好きですね?いいですよ?けど勝手に夜襲はしないでくださいね?向かう時は私も一緒に行きますので」


 「形が俺の好みだからな?仕掛ける時は一報を入れる」


 さて・・・上杉謙信・・・あなたが生き残るには余程の事を言わないと暁様は許してくれないわよ?私もあなたを楽しみにしていますからね。

 

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