また死にたがりおじいさん

 次の日の早朝、両軍が整列を始める。そしてこの日見たのは北条軍の面々だ。


 始まりの合図は北条軍からだ。うん。実にやりにくい。


 「小雪?全軍に空砲で撃つように!実弾装備してもいいけどあからさまに地面に撃つように指示して!戦車隊は今日は温存!声出しと、歩兵の予備隊に混ざるように!」


 「そんな芸当徳川軍ができますでしょうか?」


 「やるしかないだろ!?これで北条軍を傷つけてみろ!?俺は会わす顔がないぞ!?」


 「畏まりました。私も歩兵の指揮に入ります」


 やはり難しいよな。傷付けず攻撃なんて可笑しい話だ。だがやるしかない。


 ホォホォ〜 ホォホォ〜


 「やぁ〜ッ!!!」「どぉぉぉ〜〜ッ!!!」


 北条軍の人も掛け声の割に到達が遅いし、何で長槍隊を温存してるのだろうと思う。勘の良い奴なら気付くと思うのだが!?


 ドンッ ドンッ パンッ パンッ パンッ パンッ


 「グハッ!やられた・・・」 「クッ・・・俺もやられた・・・」


 バタン バタン バタン


 「暁様?あれは・・・」


 「望月さん?あれ明らかに演技だよね!?さすがに武田や上杉でも気付くんじゃない!?」


 「確かに某でも気付くぐらいですので・・・」


 「撃てッッ!!」


 ドォォォーーーーンッ!


 俺達が北条軍の酷い演技を見いると1発、ソ連 重戦車is7から120ミリ砲が放たれた。明らかに北条軍の手前も手前に着弾したが火薬と土煙りにて辺り一面が見えなくなる。


 鳥型カメラで確認しているが小雪がスモークグレネードを投擲しながら北条軍に近付いているのも分かる。


 「何かするつもりか・・・」


 「小雪様に指示されたので?」


 「いや今日は何も言っていないけど・・・って・・・え!?血糊か!?」




 「殿!?こんな演技でよろしいのでしょうか!?さすがに武田にはバレると思いますが!?」


 「大丈夫だ!大橋殿がなんとかしてくれる!今はやられたふりをするのみ!いいか!皆の者!声を大きく突撃ッッ!!!」


 ドォォォーーーーンッ


 「殿!鉄の虫から弾が来ます!!」


 「なんだと!?まさか大橋と徳川が謀ったか!?うん?手前に落ちた?」


 シュゥーーーーーー シュゥーーーーーー


 「ごきげんよう?中々の演技ですね?氏康様?」


 「其方は・・・奥方殿か?その格好はなんだ!?女だというのに随分と立派な甲冑ではないか!」


 「あら?嬉しい事言ってくださるのね?これはミスリルでできている甲冑ですので防御力が高いのですよ。今度プレゼントしてあげますよ?」


 「みすり・・・ぷれぜ?何を言っているのか・・・」


 「まあ詳しくまた今度お話ししますわね?とりあえず今はこれを浴びて殺られた振りを!」


 「これは血か?」


 「偽物の血ですよ。一度戻って凡戦をするようにしましょう。明日武田上杉が来なければ私達が総攻撃を仕掛けます。その時はーー」


 「大丈夫だ。最悪武田だけは逃さぬ」


 「ふふ。良かったわ?じゃあよろしくね?あっ、一応その赤いのはトマトジュース・・・飲んでも身体に害はなく、むしろ健康に良い物だから口に入っても大丈夫ですからね?」


 「殿!甘塩っぱくて美味いですよ!」


 ドガンッッ!!


 「馬鹿か!それを先頭にぶっ掛けてこい!」



 うん。なんとか大丈夫そうだな。だが死んだ真似してどうするんだ?後で回収してあげないとな。


 「すずちゃん?彩葉ちゃん?後で北条軍を回収してあげて?腕章があるから分かるだろう?」


 「了解です!」


 「大橋殿?これは・・・」


 「おっ!来ましたか!今2日目ですよ!」


 遅れて来たのは六角さんだ。勘助に言って武器の弾薬類を持って来てもらうように言ったのだが六角さんが引き受けてくれてお願いしたのだ。


 「いやあの旗印は・・・後北条か・・・三軍相手に手加減しているのですかな?」


 「いやいや、実は北条軍は内応しているのですよ。望月さん?ここ最近の事教えてあげて!」


 「ははは!大橋殿!おはよう!」


 「徳川様おはようございます。紹介しましょう。六角義賢さんです」


 「なに!?誠か!?」


 「うむ。如何にも。ワシが六角義賢である」


 「話は聞いていたが本当に配下にしたのだな」


 「それは言葉が悪いですよ。配下になってくれたのですよ。このように小荷駄隊みたいな事を引き受けてくれたのですよ?弾薬類お渡ししておきますので各隊にお渡しください」


 「大橋様!至急救援を!!」


 「は!?救援!?どこよ!?って・・・佐久間隊ですか!?」


 「はっ。申し訳ありません!上杉軍が横脇から強襲してきて、銃で応戦していましたが更に前方からも強襲されたかと思いきやまたもや横脇から・・・。殿は後方に下がりつつ応戦しておりますが馬防柵突破され、一陣の寺西秀則様が重傷を負いこちらに退かせています」


 「は!?マジで!?誰だよ!?敵は!?チッ。市華ちゃん!?寺西さんの手当てをしてあげて!俺が救援に向かう!小雪が戻ればここの指揮は任すと伝えて!」


 「あっ、殿!我等も!」


 「了解!急いで準備して左軍の佐久間隊に合流!接近されてると思うから遠慮せずにSTGを撃つように!」


 「おう!暁!こんな慌ててどうしたんだ?」


 「信治さん!?今はそんな余裕ないです!じゃあまた!」


 「お、おい!?なんだ!?」


 俺が急いだのは理由もある。まさか本当に接近されるとは思わなかったのと、武器を取られれば俺達のアドバンテージがなくなるからだ。弾の装填なんかは分からないだろうが撃ち方は弾が入ってる間は撃てるだろう。


 数発であろうが敵に連射されるのは危険だ。俺が佐久間隊に向かっている途中で寺西さんとすれ違った。片腕が無くなっていた。


 「と、殿!気を確かに!あっ、大橋様!申し訳ありません!」


 「なに!?大橋様か!?申し訳ない!上杉を侮っていたわけではないが突破されてしまい・・・」


 「そんな事はどうでもいいのです!大丈夫です!?早く本陣に向かってください!治療の手筈は整っています!」


 「いやこれは某の責。どうか腹を掻っ捌かせていただきたい」


 「いや、これくらいで切腹とか要らないから!早く腕治して!そしてチョコでも食べてまた前線復帰してくれればいいから!」


 俺は言いたい事だけ言って足早に別れた。本当にこの時代の人は切腹大好きだよな。要らないよ。あの人もいい歳だろ!?甘い物食べて余生を過ごさせてあげたいくらいだわ。



 「殿!良かったですね!大殿ならば斬首でしたよ!」


 「いやワシに生き恥晒して生きよと申したのか・・・どちらにしてももう一度頭を下げる。このような装備で負けるとは有ってはならない事なのだ」

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