酒井さんの大太鼓
「こ、こんな間近な窪地で何をすると言うのか!?若い者には負けぬと自負しておる!だが・・・だが!何故こんな老骨にこのような格好をさせるのだ!?」
「酒井様!似合ってますよ!」
「よっ!殿!!」
「貴様等・・・覚えておくが良い!」
俺は酒井さんと酒井さんの側近の人達を連れて武田軍の陣の手前100メートル程の窪地に居る。フクロウ型カメラにて小雪が偵察してくれているからもし武田軍か上杉軍が俺達に接近すれば伝えてもらう手筈になっている。
そして酒井さんにはとあるアイテムを使ってもらう。それは【ドンちゃんの矢刀銃太鼓!】というヘンテコな名前のアイテムだ。
某太鼓ゲームとコラボした時に発売されたアイテムで戦の時や街で新たに商いを始めた時に使えばNPCを呼び寄せたり、戦で使えば俺達にはドンッと太鼓の音だが敵には矢の音や刀の音や銃の音に聞こえるアイテムだ。
主に合戦が長引く時や、寡兵の時、夜襲されたくない時などに使うと効果的だ。ゲーム内ではただのパラメーターでしかなかったが士気や疲れ、ストレスなど顕著に表れるある意味隠れたチートアイテムの一つだ。これを酒井さんに叩いてもらおうと思ってインベントリーから取り出したのだ。
「さぁ!酒井様!遠慮なく叩いてください!太鼓を叩く時は古今東西男は褌一丁と決まってるのです!」
「大橋殿・・・生涯恨むぞ!」
なんとでも言えばいいさ!明日の合戦の1番の功労者は間違いなく酒井忠次あなただ!
「明日には効果が現れるでしょう。このモニター・・・映像にタイミングよく叩くのです!青色の時は太鼓の淵を叩いてください!」
「あぁ〜ッッ!!!やればいいのだろう!?やれば!!大橋殿!ここを押せばいいのだな!?」
「あっ!それはーー」
「もう御託は良い!やるぞ!お主等見ておれ!太鼓の基本を見せてやろう!」
酒井さんが適当にボタンを押して選曲されたのは・・・ター○ネーターでお馴染みの冒頭のBGMだった。
ドドッドッドド ドドッドッドド ドドッドッドド
しかも普通に上手い。タイミングよく叩くだけだが様になってるんだが!?
「わぁ〜!敵襲だ!」「おい!徳川軍が夜襲を仕掛けて来たぞ!!」 「起きろ!皆の者!起きろ!!」
「暁様?敵に効果大です!雑兵の人達が慌てふためいています!」
「酒井様!だそうです!酒井様の太鼓が敵軍に効果大です!」
「殿!さすがにございます!」「その調子でございます!!」
「ぐぬぬぬ!間合いを測るのが難しい!この赤い長いのは連打するのか!?」
いや酒井さん普通に【ドンちゃんの矢刀銃太鼓!】を普通に楽しんでいるんだが!?しかも完璧にルールもわかってるんだが!?
「ふぅ〜・・・大橋殿?確かに褌だけになる意味が分かる!どうだ!?中々のもんだろう!?」
「さすが歴戦の猛者です!」
「じゃじゃじゃ〜ん♪結果発表だドン!96点!あなたこそ真の太鼓マスターだドン!」
「殿!太鼓ますたーですぞ!」
「そうです!ますたーが何かは分かりませぬがますたーですよ!!」
「己等・・・ちゃかすのは大概に致せッ!!」
ゴツンッ!ゴツンッ!!
「いや酒井様?初めてでこれは凄い得点ですよ!敵はさぞ震え上がっているでしょう。敵にはこの太鼓の音が刀や銃などの音に聞こえるのですよ!」
「イマイチ分からないがまあよかった。だが少々疲れたのも本音じゃ」
「小雪?【リポビタンZ】を渡してあげて!」
「(クスッ)畏まりました!」
リポビタンZとは疲れた身体に速攻で効く栄養ドリンクだ。ゲームでは体力ゲージと気力ゲージが半回復する飲み物だ。リアルマネー100円で10本買えるゲームでは珍しいコスパ最強のドリンクだ。
「うむ。これを飲むのか?ゴグッゴグッ・・・うん?中々いけるな?薬だろう?なのにこれは美味いな?以前飲ませていただいたびーるより口で暴れんな?」
「ははは!気に入ってくれてありがとうございます。戦が終われば何本か差し上げますよ!さぁ!長居は無用!さっさと戻りましょう!」
その後は俺と小雪が監視をする。武田の兵達はすぐに隊列を作っていたがその時は俺達は本陣に戻った後だ。
そして武田の兵が引き上げたのを見計らい、すぐに本物の銃を適当に乱射してもらう。もちろんこの役目は信治さん、俺、小雪だ。
みんなには休息を取ってもらわないといけないからな。これを一晩かけて明け方まで続けた。
「うん!そろそろ白み始めたからいいんじゃないかな?信治さん?お疲れ様でした!ありがとうございました!信治様は後方で仮眠してください!」
「うん?もう終わりか?あのM60機関銃が面白すぎてまだ撃ち足りないのだがな?」
「まあそう言わずに!どうせもう少しすれば嫌という程乱射するようになりますよ!」
俺は本陣の周りに居る馬廻り達も疲弊させる行為をしている。今日の晩も同じ事をして気を休まらないように、眠らせないようにして、注意力が散漫したところで本陣急襲するためだ。
酒井さんは今日は休息してもらい、明日の夕方に一気に勝負を決める。ただ不気味なのは上杉軍だ。消耗が明らかに少ない。武田のように個が強いわけじゃないからか、雑兵1人にしても強いんだろう。少し佐久間さんに言って挑発してもらうか。少し損害を与えないと上杉本陣に急襲は危険だ。
「ゴホッ ゴホッ。クッ・・・徳川めが!夜の言葉闘いとは中々小癪な真似をしおって!」
「お屋形様!上杉様がお越しです」
「入らせろ」
「ふん。あんな虚仮威しにまんまと引っかかりおって。馬場信房が戻らんからおかしくなったのか?」
「抜かせ!だが馬場が討たれたのは誠のようだ。惜しい男を亡くした。だが作戦に狂いはない。多少の損害は出るのが戦だ」
「ほう?ワシの見立てでは1日の予想損害より些か多いように思うが?」
「今日は北条を使う。ワシの兵は休ませる。そして明日には総攻撃だ。全ての台地に全軍投入する」
「焦っておるな?」
「何がじゃ!?」
「我が越後兵の強者100名を選抜させ敵陣を撹乱するようにしている。気づかぬのか?」
「あの小島弥太郎か?」
「ははは!なんぞ狂ったわけではないようで安心した。今日は出過ぎるなよ?敵の装備をいただこうではないか。まずはあの鉄砲。連射されるのは、ちと煩い。弥太郎が万事上手く遂行してくれるだろう。しかも鉄砲隊を率いているのは織田の佐久間隊らしい。かの者は誠の男ならず、すぐに背中を見せる者だ」
「ふん。口惜しいが今日はお前に任す。高坂?皆に伝えよ。今日は一定の距離を取り兵を交代で休息を取らせ。そして北条に倅の仇を取れと伝えよ」
「御意」
俺と小雪はこの時ちょうど眠りに入ったところだったためこの会話を聞いてなかった。実際には小雪は寝てはいないが俺が眠りに落ちるまで毎日横に居るのだ。
そしてこの小島弥太郎・・・通称、鬼小島弥太郎。中々の剛な者でもあり俊敏な男でもある。武の頂に本当に近い人だとこの日に知る事になる。
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