望月の仇

 オレは馬場信房という猛将を乗せて走っている。馬場隊の人達は呆気に取られて何故か自然と一本の道が出来上がっている。


 「小雪!戻るぞ!上手く捕縛できた!」


 「分かりました!残念ね?あなた達の相手もこれまで。20人程死んだかしら?墓前によろしく言っておいてね?2回目も3回目も遠慮なく殺してあげるってね?」


 「お前達は卑怯だ!いきなり現れて部隊を掻き乱してただで帰れると思うなよ!?」


 ドドドッ


 「小雪?そんな雑兵放っておけ!戻るぞ!」


 戦に卑怯も糞も何もないだろう。あいつは一応指揮官級だったのかな?口を動かす前に敵を倒す。当たり前の事だと思うのだけどな。まあ相手が小雪ならそうもいかんだろうけど。


 そのまま一気に本陣に戻った。時間にしてみれば1時間も経っていないだろう。もう夕方になっている。今日はここまでかな?だが、初日も初日。


 お互い探り合いと思っていたが上杉はあまり突出しなかったな。徳川兵の一つ後ろに戦車隊を配置していたが初日は戦車砲の音が聞こえなかったな。明日から本番か。まあけど上杉武田の兵は夜は寝ささないけどな。


 本陣に戻ったオレと小雪は呆気な顔で迎え入れられる。


 「も、もう戻って来たのか!?」


 「はい。実に簡単でしたよ?馬場隊は統率が取れていた分、歩兵、騎馬隊、長槍隊、弓矢隊、馬廻りと揃っていましたので飛び道具にだけ気をつければこのように・・・。この人が馬場信房だと」


 「間違いない!だがよくぞこうも簡単に」


 「簡単っちゃ簡単でしたけどそれなりに度胸は必要ですよ?信治さんは大人しくしていましたか?」


 「は!?抜かせ!ちゃんとここで待っておったわ!」


 不安だから聞いたんだが?勝手にSTG44片手にブッパしてそうだからな。


 「ではこの人は個人的にというか私の配下の仇なのでいただいていきますね。徳川様?構いませんね?」


 「うむ。何も言う事はない」


 その後は軽く被害の方を聞いた。上杉軍を相手していた岡田元保隊、杉浦久勝隊、平岩元重、平岩基親隊の面々は少々削られているみたいだった。


 上杉は全力じゃないのは確実に分かっているがそれでも徳川家の人達は両手を上げて喜んでいた。やはり上杉家というブランドは凄いんだなと思う。


 「すずちゃんと風華ちゃん達が率先して怪我人を治療してあげて。持って来ている薬類は遠慮なく使っていいから」


 「畏まりました!」


 「望月さん?千代女さん?後方に来てくれます?」


 神妙な面持ちで2人が来る。俺は約束は果たしたぞ。後は望月さん達次第だ。


 「まさか・・・もう約束を・・・ぐふっ・・・」

 

 「この者が母上の仇・・・」


 「今は眠っているだけです。すぐに目は覚ますかと。望月さん?涙拭ってください。一応後ろ手に縛ってはあります。後の判断は任せますので」


 「ありがとうございます!暁様!この望月信雅、死んでもお仕えさせていただきとうございます」


 「ははは。死んでまで仕えてもらわなくてもいいかな?早く望月さん達が毎日、酒飲んで美味い飯食って娯楽がある世界を信長様に作ってもらわないといけませんね」


 「うっ・・・なんじゃ?ここはどこだ?徳川の旗印し・・・そうか。この歳で縄目の恥辱を味わうとは・・・」


 もう目が覚めたのか。ゲームでは1時間程は眠るのだけど猛将たる所以かな?


 「貴様!馬場信房ッッ!!今日という日をどれだけ待ち侘びたか!」


 「わぬしは・・・望月か?それに巫女の千代女か?ふむ。やはりお屋形様の言うとおり敵に寝返っておったか。あれほど重宝され恩を与えられながらも貴様の答えは仇か」


 「知れた事。この望月信雅・・・家族を殺され素知らぬ顔で居れる程甘くない。我が手だけで貴様を引っ捕える事は叶わなかったが我が主に出会いこのような千載一遇な機会に恵まれた」


 「どうせ殺すだろう?少し話をさせてくれないか?お主の主とやらとな?」


 はぁ〜。俺は話す事ないのだけどな。違う形で出会ったならば川中島の戦いとか聞いてみたかったけど。


 「なんです?別に俺は話す事なんてないですよ。昔の小競り合いの最中とはいえ、部下の家族を嬲り殺しにした仇が居るなら目の前に連れて来てやる事くらいはしてやるのが主としての役目と思い捕らえた。ただそれだけ」


 「お主は何故矢が刺さっても死なんかった?」


 「それは甲冑の特徴。俺の甲冑は特別製でしてね?柔らかいけど鋭利な物は刺さらない」


 「ならあの見えぬ所から味方が倒れたのは!?」


 「私の優秀な部下ですよ。時代は銃が主流になるでしょう。馬に乗り突撃しかできない裏切りの武田は時代遅れ。けど武田上杉と言う二つの名は大きいですからね?織田と徳川は武田上杉を喰いますよ。そして更に大きくなり時代の覇者となる」


 「お主は何を言うておるのだ!?」


 「大局ですよ。まずは武田四天王の1人。馬場信房あなたは落ちました。次は山県昌景。その次は内藤昌豊、最後に高坂昌信。武田は地に落ちる」


 「そんな事なるはずかない!局地的にワシは負けた!だが他の者はーー」


 「もういいですよ。吠えるだけ無駄」


 「貴様ッッ・・・・」


 俺は反対に向き、望月さんを見ながら軽く頷いた。


 「地獄で貴様を我が同胞が討ってくれるのを待っている」


 ズシャッ  ぽろん


 確認してないが首を切ったのだろう。ここは声高らかに言うべきか。自分でも言った通り武田四天王の1人を討ったんだからな。


 「望月さん!悲願を達成して泣いてる場合じゃありません!千代女さん!馬場信房の首を!」


 「は、はい!」


 「す、すいません!」


 「すぅ〜・・・・」


 すかさず黙って見ていた小雪がメガホンを渡してくれた。


 「馬場信房が首ッッ!!!望月信雅が討ち取ったッッ!!!えいえいお〜ッ!えいえいお〜ッ!」


 「「えいえいお〜ッ!!」」


 「「「「「えいえいお〜ッ!!!!!」」」」」


 だんだん勝鬨が大きくなり暫くすると自然と武田軍、上杉軍が退いていき1日目が終わった。


 「暁様・・・すいません。手柄を奪ってしまいました。この首は暁様が・・・」


 「いやいや要らないすよ!?むしろこちらに向けてほしくない!首だけ武田に返してもいいし晒してもいいし好きにしてください!」


 「大橋殿?終わったようだ。少し聞こえたが首が要らぬのならワシが貰い受けようか?」


 「え!?なんで!?家康さんなんもしてなくないすか!?」


 「え!?」


 いや、え!?じゃねーよ!?思わずみんなの前で名前で呼んでしまったじゃねーか!?


 「いやすいません。望月さん?徳川様に任せてもいいです?」


 「は、はい。某の私怨はこれにて終いで」


 「うむ。この首は徳川家が貰い受ける。大橋殿ほどの褒美は出せぬが其方には落ち着けば必ず褒美を渡そう」


 「はっ。ありがたき幸せ!」


 なんで望月さんだけに褒美なんだよ!?俺も何かくれるなら貰ってあげるぞ!?むしろこの時代の物とか興味があるから欲しいんだけど!?


 「とりあえず首をどうにかするかは任せます。ところで酒井さん?少し夜更かしできます?」


 「は!?」

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