家康の驕り

 「我が宿敵。こうも容易く城が落ちるのか?徳川の兵の士気が低いせいもあるかもしれぬがこれは異常だ」


 「お前と共闘しておるせいかワシも甚だ疑問に思うておるが、やはり浜松を決戦としておるやもしれぬ。何か仕掛けがあるやもしれぬしな」


 「うむ。だが誠、織田の夢幻兵器が見えぬな。もう浜松は目と鼻の先ぞ」


 「それはそれで好都合。それに浜松の民草達すら見当たらん。浜松に匿っておるならば徳川の兵糧の方が先に尽きそうではあるな。変に策を弄せずとも一当てすれば民草は恐慌に陥り城方は防衛どころではなくなるだろう」




 「まあそう思うだろうな。小雪?家康さんは上手く運んでくれると思うか?」


 「どうでしょうか。浜松城の前にて野戦で勝負を決めようと書状を送るみたいですが相手が乗ってくるでしょうか」


 「そうだな。なら家康さんに内緒で少し上杉にでもチョッカイ出してみようか」


 野戦にて決着をつけようとか言えば敵は何か仕掛けがあると思うのが分からないのだろうか。とりあえず家康さんが始めたら俺達は佐助を使い遠距離から狙撃して何人か倒そう。


 それでこちらに意識した時に狙撃班を敵に見えるように退却させれば雑兵は仕返しと言わんばかりに突っ込んでくるだろう。


 「信忠様?やっていただきたい事がございます」


 「うむ。それは?」





 4月30日 午前10時を少し回った時に初めての大規模な戦いが始まった。


 「見える見える!暁様?ここから横槍を入れればいいのですね?」


 「あぁ。お前だけではなく信忠様や佐久間様にもやらせろよ」


 「分かってますって!」


 「佐久間様?信忠様?よろしくお願いします」


 「うむ。敵の雑兵をこちらに意識を向けるような狙撃だな?任されたし」


 よし。伝える事は伝えた。後は味方を信じるだけだ。俺は小雪と鳥型カメラで戦場を観察する。


 「野戦にて決着をつけようと言ったのはこちらだが、よもやこうも早く相手が乗ってくるとは・・・」


 「殿!ここは我らの地!何としても守り抜きましょう!」


 「忠勝!頼りにしている!」


 ホォオホー ホォオホー


 「クッ・・・敵の法螺貝・・・先に動かれたか。やはり鶴翼の陣を敷くか・・・しかも早い・・・」


 


 

 「ふん。徳川の坊ちゃんにこのような気概があるとはな?まさか野戦にて雌雄を決さんとするのは予定外だな。ゴホッゴホッ」


 「これだけ城を奪われ、下の者にせっつかれて仕方なく野戦に出たか。てっきり三方ヶ原が決戦の場にするかと思うたがこんな開けた場所で我らを迎え撃つとは戦の素人だな」


 「ゴホッ ゴホッ。うむ。確かに三方ヶ原ならば大小様々な台地があるから面倒だとは思ったがな。だが遠慮なく殺らせてもらおう」


 「まだ咳病が治っておらぬのか?下がっていろ。越後兵だけでも徳川くらい倒せる」


 「抜かせ!咽せただけじゃ!勝頼!鶴翼の陣を敷け!素早く徳川を倒せ!浜松に逃げ帰られればまた城攻めになる。浜松は徳川の坊ちゃんの本城・・・さすがに何か仕掛けてあるだろう。無駄に兵を減らしたくは無い」


 「御意!皆の者!鶴翼の陣を敷け!」


 「ふん。兵を減らせたくはないとな?この後の我との決戦を見越してか?」


 「さぁな?さて・・・狩るぞ」




 「あぁ〜あ。あんな所で初めてどうすんだよ!?あのまま三方ヶ原に来ても浜松城を放置してこっちまで来る筈ないだろう!?」


 「何か私達にも言っていない作戦があるやもしれませんね」


 ポジティブに小雪は言ってくれているがそんな事まったく思ってないだろう。いや、家康は腹の内を見せない人だからマジで何か考えているのか!?



 パンッ パンッ パンッ パンッ ズドンッ!


 「信忠様!さすがでございます!端の敵に命中でございます!」


 「いや、このくらいはどうという事ない。佐助はどうだ?」


 「クックックッ・・・我が右手を掲げれば万の敵を屠れる」


 「佐助?大橋から聞いておるがたまに変な事言えば気にせず頭を叩けと言われているが構わないのか?」


 「さぁ!次!2斉射いきましょう!」





 「バカ佐助が!遊んでる場合かよ!帰ればセバスチャンに報告だな」


 「(クスッ)相変わらずの佐助ですね!本隊がぶつかり始めましたよ!」


 さて・・・ここからが見物だな。


 

 「懸かれッッ!!!!」


 「「「「ウォォォォォォーーーーッ!!!!」」」」


 「ふん!寡兵にてこの軍を見ての突撃は嫌いじゃない!」


 「馬場様!?普通に討ち取るので?」


 「お主達はワシの言う事を聞いていつも通り狩れば良い!くれぐれも死ぬるなよ?この後の越後兵とも戦うやもしれぬのだからな」


 「越後兵と・・・」


 「がははは!そう恐れるな!此度の西上作戦の折は大丈夫だ!さぁ!武田の子よ!殺れッッ!!!」


 ガキンッ ガキンッ ガキンッ ガキンッ


 グシャ ズシャッ


 

 「殿ッ!!大橋殿を使うまでもなく押しています!このまま我らだけでもーー」


 「おう!いけ!押し返せ!」


 「康政!我等が押しているか!?」


 「はい!間違いなく!」


 「よし!我らだけで勝とうぞ!!」



 

 「ふん。さすがと言ったところか。やはりここを主戦場と見たのだな。だがいつまで持つかな?」


 「馬場様!敵に押されています!」


 「そんなの見てるから分かる!焦らずに2人で1人を相手せよ!」


 「おーい!信房殿!」


 「誰じゃ!その名前で呼ぶなと言っておるだろうが!チッ。山県か!なんじゃ!」


 「押されておると思うてな?見てみよ!右軍の上杉は我らより半歩押しているぞ?」


 「チッ。貴様の軍を貸せ!」


 「元よりそのつもりだ。この貸しはでかいぞ?」


 「ふん。抜かせ!だがありがたく!」





 「殿ッ!新手の軍が出て参りました!」


 「構わん!この士気のまま押し返せ!」


 いける!いけるぞ!大橋殿の夢幻兵器を使わなくとも押し返せる!何人たりともここは抜かさせん!ここは我らの地ぞ!



 

 「あぁ〜!マジ何やってんだよ!右側見て気付かないのか!?確かに最初は押していたが今は明らかに武田の方はわざと退いてるだろ!?上杉の兵が出ているのだからあの夏目って人達は囲まれて狩られるぞ!?」


 「徳川様はもしかすれば自分達だけで勝てるかもしれないと思っているかもしれませんね」


 「普通に考えて勝てるわけないだろ!?相手10万近く居るのだろ!?無理だろ!?」


 「それが戦の時は分からないものですよ。私が囲まれる前に退かせてきます」


 「何をするんだ?」


 「ただの煙幕ですよ。こういう時は窮地に現れるのが現実に戻すのにちょうどいい。もう少しすれば向かいます」


 「分かったよ。小雪?頼むぞ」





 「行け!あの者を倒せ!!」


 「殿!御報告申し上げます!上杉軍の左側の兵が夏目様の軍にーー」


 「なに!?なんだと!?いかん!夏目に至急退けと言え!」


 「は、はい!」


 「あら?ごきげんよう?徳川様?」


 「奥方殿・・・ワシは・・・」


 「自分の領土だから自分達だけで守る気概は認めましょう。ですが最初に我々に作戦を任せたのならば従ってほしいものですね?夏目様でしたっけ?今回限り助けましょう。徳川様は所定の場所まで下がりなさい」


 「・・・うむ。すまん」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る