いざ決戦の日

 それから間も無く将軍からの密書が各武将、本願寺に届けられた。それをオレは虫型カメラ、鳥型カメラで追跡していている。密書だからか、実に渡し方が巧妙だ。


 岐阜を通る道は全土で関所を廃止しているが近江や越前、越後、信濃、甲斐など他の地域は何ヶ所も関所があるがその度に人が変わり男女関係なく100人とは言わないくらいの人を使い密書を届けていた。


 こうやって聞けば如何に秘密にしたいかは分かるが誰がどう見ても信長さんと将軍は決裂したと分かるのに無駄に人を使えばその分秘密がバレると分からないのだろうか。

 現に松永さんにも将軍から『織田を裏切れ』と書状が届き、これまたあの人が何をするか分からなくなったのだ。


 こっちに関しては俺の独断でお留守番の佐助に【ステルス迷彩】を着て静かに松永の動向を見張るように言ったから大丈夫なはずだ。


 そして遂に、4月3日・・・越後 上杉謙信が動き出す。まずは北陸道を通り武田と合流するだろう。カメラで確認したところ総兵力4万と見る。よくもまあこんなに兵を集めたなと思う。勘助が色々チョッカイを出したが全体的に士気は高いように見える。


 「みんな集合!」


 「どうされましたか!?」


 「望月さん?やっと訓練の成果を見せる時が来ましたよ」


 「遅かったですな。退屈で退屈で困っていたところでしたよ」


 「ははは。さすがですね!上杉と武田の合流は4日後と見るから・・・・後、7日後くらいには徳川領の支城が攻略されるかと」


 「まさかわざと城を敵に渡す作戦とは大胆ですな」


 これは味方の人や徳川家の人達にも散々言われた事だ。弁償ではないがジオラマ城がなければ多分許可されなかっただろう。だがとりあえずは徳川家の人達も一部を省き納得してくれている。



 「信忠様?信治様?徳川様?とうとう動き出しました。これより7日後くらいには高天神城並びに二俣城など各城が攻略されるかと。そして三方ヶ原台地での決戦は20日後くらいを想定しています」


 「小笠原が言う事を聞かぬのがいかんのだ。放っておいて良い」


 「苦渋の決断かと思いますが感謝致します。戦勝の折には必ず元より良いお城を建てますので」


 「暁?俺はどうすれば良い?」


 「信治様は俺と共に。まずは徳川様の武を見させていただきます。くれぐれも一当てで囲まれそうになる前に退いてください」


 「今の言葉は兵の前では言わないでくれ」


 確かに今のは徳川軍が敗走する前提の言い方だったな。かなり失礼だな。もしかすれば押し返すかもしれないのにな。


 「すいません。三方ヶ原にて必ず討ちます。配下の人に伝達お願い致します」



 それまでワイワイしていた雰囲気が変わったのが分かる。末端の兵まで伝わる緊張感。中にはこの戦で名を上げようと思っている者もいる。そんな人は顔を見れば分かる。


 4月10日、俺の予想通り高天神城に武田上杉兵約12万の大軍勢が到来している。カメラで見ただけでも総力戦と分かる。あれだけ偉そうに言っていた城主 小笠原信興・・・たかだか1時間程の攻勢に開城した。




 「徳川の坊ちゃんは救援を出さんかったか。堅城と知られる高天神城もこうも簡単に落ちるか」


 「ふん。我が宿敵と共闘となれば容易い。この城が落ちれば後は小城を落とし、浜松まですぐだな。織田にも救援は出さんのか?例の夢幻兵器とやらはどこだ?」


 「三ツ者に調べさせればどうやら京に集中しておる。ワシ等の兵糧が尽きるのを待つつもりだろうな。浜松で籠城されるだろう。そこに徳川の坊ちゃんは兵を集中させておるか」


 「ふん。同じ考えだ。まあ奪える物は奪って我が軍を増強しようかのう。それに夢幻兵器がないのならば出稼ぎと同じだ。容易い。」




 「御報告ッ!!!高天神城落城いたしました・・・城主 小笠原信興様は武田方に寝返った模様にございます」


 「敗走するまでもなく寝返っただと!?いかん!作戦がばれてーー」


 「徳川様!御安心ください。事ここに至って作戦がバレようが問題ありません。これからどんどん城が落とされるでしょう。まあ落とすように仕向けるわけですがその勢いのまま敵を進軍させるのです」


 「それでは敵の士気が高くーー」


 「いいのです!向こうは必ず俺達の作戦に乗ります。野戦の方が被害が少ないからです。最初上杉も武田も『寡兵で野戦とは馬鹿か』と思うでしょう。それこそ好機!焦らず待つのです!」


 我ながらスラスラよく言えたもんだなと思う。少し俺も懸念がある。距離を取られ突撃されなければ作戦が台無しだからだ。だがあの二人は必ず来ると俺は確信がある。我が強い二人が待ちの戦なんかするわけない。必ず来る。


 「この嵐の前の静けさは嫌いじゃないな」


 「ふふふ。なら私を抱きますか?」


 「は!?いやいやさすがに勘弁してくれ!」


 「安心してください!私が暁様を勝利させます!この世界の後世に残る活躍をさせてみせます!」


 「ありがとうな。後、3日程か・・・」


 

 上杉武田軍は日に城を4つと驚異的なスピードで落としている。というかそういう風に見せかけてはいるのだけど。北条軍もここで合流したようだし例の作戦が成功したのだろうと思う。


 「御報告!万事、山中城の兵も浜松に戻りました!」


 「上杉軍と武田軍の別働隊が武節城を落としました。武節城の兵500無事帰還致しました」


 「ふぅ〜・・・こうも落城を聞くのは体に悪いのう」


 「後少しですからね。辛抱してください。ではそろそろ私達も三方ヶ原に向かいましょう」


 「うむ。酒井!お主は大橋殿に付け。大久保!お主はワシの居ない間、この浜松を任す!支城の者達を迎え入れ万が一のための籠城の用意もしておけ」


 「御意!」


 俺は三方ヶ原にて一泊する。そして俺の側近の黒夜叉隊を集め鼓舞する。


 「直近では最大級な戦となると思う。くれぐれも孤立しないように。武器弾薬は余裕を見て持ってきている。よく敵を引きつけてから攻撃するように。望月さん?平手さんをよろしくお願いします」


 「お任せください」


 「黒川さん?佐久間さんを上手く補佐してください」


 「御意」


 「信治さん?突出しないように俺と行動です」


 「ばか!さすがにそんなガキみたいなことするわけない!」


 どうだかな。1番ヒャッハーしそうだからな。


 「千代女さん達は信忠様の与力に付いて狙撃の目方を測ってあげて。敵を100メートル以内に接近させないように!」


 「お任せを」


 「酒井様は目付け役です。時を見て武田か上杉本陣に乗り込みます。古の猛将は酒井様が討ってください」


 「・・・・・武者震いか・・・。任せてくれ」


 武田は徳川の手柄に、上杉は織田の手柄として貰う。

 


 そして1571年4月30日、史実とはかなり違った三方ヶ原の戦いが今始まる。浜松城を目前に石投げや刃先を潰した矢尻で武田上杉を挑発する。それを指揮するのは徳川本隊。上手く三方ヶ原に誘導してもらう事を願うのみ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る