北条氏康の本気

 「父上!戻りましたぞ!」


 「おぉ!氏規か!うむ。報告を聞こう・・・その荷車はなんだ!?」


 「いやぁ〜!織田は凄い!いや・・・大橋兵部殿が凄いと言うべきか」


 「待て!待て!順をおって言え!」



 「ではお前はそのすきやきなる物を食べ普通に過ごしたと?で、早川と義息子が徳川に残ったということか?」


 「そうにございます。そして書状も預かっております。我が北条は武田上杉の腹の虫になれとの事です。そしてこの腕章と呼ばれる物を兵の者に付けさせろとの事で」


 「うん?これを付けて目印か?」


 「はい。これを付けている者には攻撃しないと」


 「他にはなんだ?」


 「これを見てください」



 「ほう?また奇策だな。だが北条がそのまま武田や上杉に与するかもとは考えておらぬように思うが?いや、その為の人質か」


 「いえ、そのようには思えませぬ。なんなら徳川織田は・・・大橋兵部殿一人ですら北条全軍と戦えるやもと某は思いまする」


 「なんだと!?」


 「おう!氏規!帰ったか!うん?氏真達はどうした?」


 また場の悪い時に氏政兄者は・・・。


 「氏真殿達は徳川家に残りました。自ら志願して」


 「ほうほう。やっと北条に恩を返すようにしたのか。褒めてやらねばな?だが彼奴は今川の血を引く者。安い人質じゃな」


 「黙れ!氏政!軽口を叩くでない。これを見てみろ!土産だそうだ」


 「なんだこの黒い汁は!?泥水か!?」


 「兄者?それは醤油なる物。たまりより更に味が良く、魚に漬けて食べるのが美味い汁ですよ。そして澄み酒。酒精が強いが臭くもなく甘い酒の数々。後は真っ白な混ざり物がなにもない砂糖。これを戦の前というのに土産として渡せる力。分かりますか?」


 「徳川と織田は阿保じゃな!武田等が勝ちそうならばそのまま徳川を攻めればよかろう!武田等が負けそうならそのまま味方で居ればーー」


 ゴツンッ!!


 あぁ〜あ。そんなみんなに良い顔して美味しいとこ取りできる器用な男でもないだろうに。父上は殊の外怒るぞ。


 「氏政?お前のどっち付かずの意見には愛想が尽きてきている。今一度自分の芯を持て。一番は北条の事であるが時には身銭を切ってでも味方せねばならぬ時もある。それが今じゃ!氏規!続けろ」


 「はっ。少しばかり夢幻兵器と呼ばれる物を見させていただきました。そして結果は大橋兵部一人で万人相手でも大橋が勝つると思いまする」


 「それほどか・・・。どんな兵器だ!?」


 「まずは連射できる銃。地を走る鉄。後は姿しか見えませんでしたが空飛ぶトンボのような物らしいです。他にも大筒らしき物も見えました」


 「分からぬ。だがその大橋や徳川は北条に敵対してるわけではあるまい?」


 「はい。それは間違いなく。むしろ徳川は腹の底が見えませんでしたが大橋兵部は信用こそ築けてませんが某個人的には嫌いな人物ではありません。それに早川の我が儘にも笑って終わらせる懐の深い者と見受けられます。後、氏真殿と早川に首輪?らしき物を渡しておりました。とても雅な物でした」


 「首輪?なんだ?」


 「なんでも御守りに近い物らしいですが敵の矢弾から守る?とかいう物らしいです」


 「う〜ん。先の薬の礼もしなくてはならぬのに貰ってばかりか・・・。できれば一度招きたいな。よし!ワシが出よう!この文の通りに動く!武田に早馬を出せ!」


 「いえ、それが武田上杉に与してもおかしくないよう細工もしてくれるとの事でこれを見てください」


 いや誠、これはよく出来ている。よもやどうやって作るか聞いたが覚えられないくらいだった。うむ。何回見ても気持ち悪い。


 「うっ・・・なんじゃこれは・・・まさか!?貴様誰ぞ!?」


 「う、氏規!お前は!!?」


 「兄者も父上も落ち着きください。これは某に似せた首の菓子だそうで、髪の毛の部分は、ちょこれいとうと呼ばれる甘い菓子でこのように食えるのですよ?うん。甘い!美味い!・・・失礼」


 「なに!?菓子だと!?これが!?」


 「兄者も食べれば分かる。父上もどうぞ」


 「うん!?なんだこれは!?これ程甘い菓子なぞ初めてだ!」


 俺も最初驚いた。大橋の奥方殿が考えた物だと言っていたな。


 「これは今の時期にしかできない作戦だと申しておりました。なんでも熱くなれば溶けるとの事です」


 「そうなのか・・・うむ。それでこれをどうしろと?」


 「一度国境で武田の使者と申し合わせ某に似せたこの首菓子を見せて信を成せとの事です。理由としては氏真殿を通して徳川と同盟を結ぼうとしたが使者として現れた某は斬られ氏真殿を幽閉して遠江、駿河を徳川が実質支配するためにそうされたでいいだろうとの事です」


 「そんな安直な事で良いのか?ワシならすぐに調べさせるがな?」


 「その調べる時間が武田にあるかどうかと言っておりました。これはただの小競り合いではなく将軍が仕組む大きな戦になるとの事」


 「将軍がか!?」


 「はい。京にて悶着があるそうです。それを織田本隊が叩き足利幕府を終焉させると。根回しも完璧だそうで朝廷にもすでに手を回していると」


 「もう良い。皆まで言わなくても分かった。北条はこの先を考えて動けとの事であろう?誰ぞある!至急甲斐に走れる者を!氏規!大儀であった。お前と氏政に城を任す!ワシが兵を率いる!」




 「暁様?氏康様は分かってくださったみたいですよ?全面的に協力してくれるみたいです」


 「協力してもらわないとせっかく渡した【加護の腕章】が無意味になってしまうからな。それに小雪の考えた一見では有り得ない氏真さん誘拐だがここ最近の勢いなら有り得そうも感じる、絶妙な手の氏規さん首チョンパ作戦がだいなしになるとこだったよ」


 「(クスッ)ですがこれを見てください。昨夜の映像になります」



 「殿中御掟の追加だと!?おのれ!どこまでも舐め腐りおって!!!もう我慢ならぬ!挙兵だ!今すぐに挙兵を致す!勅命にて武田上杉浅井朝倉本願寺全てに上洛を促せ!1番功の者には所司代に致すと書け!」


 「ですが朝廷にはなんと!?」


 「そんなの後からどうとでもなる!いいからはよう致せ!本当に馬鹿ばっかりだ!細川は!?細川はどこへ行った!?」



 「ってか確か二条さん通して細川藤孝さんは織田側に接近してるはずだよね?もう岐阜か尾張に来てるの?」


 「いえ、そこは確認していませんがまだかと。調べましょうか?」


 「いや別にしなくていいよ。やっぱ暴発したか。文を届けるのに10日程・・・返答に10日程・・・うん。やっぱ1ヶ月強だな。足並みは揃わない事が確定したな」


 それから程なくして信長さんからの電話がきた。


 『ワシだ。そっちはどうだ?』


 「平手様、佐久間様共に練度が高く些細問題なしかと。10万の兵でも耐えれるかと思います」


 『ふん。小癪な物言いよの。京に忍ばせて居る者から言われた。将軍が挙兵致す。一足先にワシ等は戦闘に入る』


 「存分にお願いします。これより先は信長様の未来になります。その門出に相応しい結果をこちらでも出しましょう。もし何かあり、危なくなれば電話を。すぐに駆けつけます」


 『抜かせ!これ程の装備を用意してもらい負けるのならばワシは死んだ方がましじゃ!戦にもならぬであろう。大橋?貴様も存分にな』


 「ありがとうございます。失礼します」


 信長さんと久しぶりに話したけどやっぱ信長さんだわ。キツイ言葉使いだが意外にも俺の事思って話してくれるし。徳川さんや北条氏康さんも凄い器の人とは思うが信長さんには勝てないわ。


 「小雪?そろそろ大詰めになる。信長さんも気配察知したらしく動くそうだ」


 「分かりました。そろそろ皆に北条家の事を伝え腕章がある者には攻撃しないように伝えておきます」


 北条家に渡した加護の腕章。あれは飛び道具が80%の確率で逸れる腕章だ。80%と聞けば中々に良い装備に聞こえるがここは現実。20%を引いて敵の弾・・・俺達の弾が当たれば普通に死ぬ事になる。一応みんなに腕章を付けてる人は狙わないようにとは言うつもりだがないよりはましだろう。流れ弾は少しは出てくるはずだし。


 さぁ。俺も大詰めだな。部隊の仕上げだな!高天神城の人達は結局言う事聞いてくれないから可哀想だけど見捨てる。無駄にあんな所で小競り合いはしたくないのを城主の小笠原さんは分かってくれないからな。


 支城の人達は少しだけ抵抗して城を捨てて浜松に来るように言ってるし無駄な死人はあまり出ないはずだ。一網打尽にしてやろうか。

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