沈黙 徳川家

 陸に上がった俺達は、俺が出したトラックに乗ってもらった。このトラックは大日本帝国が作ったトラックである。名前は、一式装甲兵車 ホキ。全長約5メートル、全幅約2メートルの長さが長いトラックだ。


 特徴としては整備されていない道でも走れる一風変わったトラックだ。タイヤはキャタピラになっており悪路でもなんのその。スピードこそ時速40キロ程しか出ないがこの時代ならば十分だろう。


 乗員は12名となっているがゲームでは乗員以上のNPCは乗せれなかったがここはリアル。貨物部分に乗ってもらえれば一度にかなり運べる。


 ちなみにだが武装は皆無。ただの本当の乗り物だ。例の戦車ガチャを引けば誰でも貰える車両だったがここで役に立つ。


 「小雪?喜助?手分けしてみんなを浜松の城に運んでくれ!」


 「畏まりました!」


 「了解しましたよ!」


 喜助は今や信忠君の完全なる護衛になっている。喜助のおかげかは分からないが信忠君は優しい性格だ。なんなら喜助を甘やかしてそうで不安でもある。


 問題は佐助だ。最上で2人イチャイチャしてたら許さないからな!?


 「織田様の・・・・」


 「控えよ!この方は織田家御嫡男、織田信忠様ぞ!」


 「はっ、はぁ〜!!!申し訳ございません!!」


 いや何で佐久間さんがドヤ顔してんの!?偉いのはあんたじゃねーだろ!?


 「佐久間殿?やめてほしい。そういうのは周りの者によくない」


 「ですが、御嫡男は変わらない事実」


 「けどやめてほしいと言っている」


 「はっ。気をつけます」


 「それで徳川家殿の?」


 「浜松城まで案内致しますがこれはなんていう妖怪ですか!?」


 「これはトラックなる物だそうです。案内役殿もお乗りなさい」


 トラックを妖怪と言うのか!?いやまあそんな風に思うか。


 そして程なくして浜松城、城下に到着する。城下の人達には奇怪な目で見られるがしょうがない。中には土下座してる奴も居るけど。


 さすがに一度に1000人は運べないため小雪と喜助にお願いし何回も往復してもらっている。


 「おぉ!大橋殿久しぶりですな!」


 「徳川様、お久しぶりです。本多様も酒井様もお久しぶりでございます」


 「うむ。また凄まじい夢幻兵器だな?」


 「まああれは移動できるだけの物ですよ。さっそく主要な人を集めてもらえます?後、空いてる土地を貸してください。兵の宿舎を建てます」


 「何がなにやら分からないが城の横にある台地は好きに使ってくれ」


 姉川以来だな。相変わらず常に笑顔で腹の中が分からない人だ。


 俺はインベントリーに入っているジオラマ家を出し織田兵が寝泊まりできるようにした。


 城の方は、石垣なんかはなく泥土を固めて土台にしている平城のようだ。正直お世辞にも豪華な城とは言えない。まあお金がないのか、ケチなのか、これから改築するのかわからないが籠城するならこんな城なんか俺が居なければ秒で落とされそうではある。


 そして呼ばれるは1番大きな部屋だ。信忠君が上座だ。


 「して、信忠殿?此度は何用で浜松まで?一瞬、配下の者含め私も織田軍が攻めて来たのかと・・・」


 「大橋殿から先触れを出していたでしょう?」


 「いやそうですがさすがにあれだけでは・・・」


 変に緊張させないため、飛脚の人にここ浜松城まで手紙を届けてもらっていたのだ。まあこの時代の字は書けないから小雪に書いてはもらったのだが。


 内容はシンプルに。【大事な話しがある。近々海より来訪します。決定権のある指揮官を集合させるように】これだけだ。まあいつとは書かなかったのは悪いが。変に歓待なんかされるわけにはいかないからな。もしかすれば武田に近い人なんかは寝返るかもしれないしな。


 「ふう。まあ良い。大橋殿?進めてくれ」


 「分かりました。徳川様?構いませんか?」


 「まあ先日、元服したばかりの信忠殿が来られるのは只事ではないのは分かる。我らの返礼が遅かったから催促かとも思うたがそんな事ではないな」


 こりゃ〜、まったく気付いてないな。変に回りくどいのもだめだ。単刀直入に言おう。まだ2ヶ月くらいは時間があるはずだ。


 「単刀直入に言いましょう。武田と上杉が手を組みました。京を目指します。そして徳川様のここ三河を掠めて進軍致すでしょう」


 俺がこの事を言った瞬間空気が変わった。


 「は?今なんと?」


 「おーい?大橋殿?いくら夢幻兵器の持ち主でも嘘はいかんよ?嘘はな?」


 「事ここに至って冗談言うと思います?織田の将を4人も連れて、且つ信忠様を連れて冗談と?」


 「「「「「・・・・・・・・」」」」」


 「いやすまん。惚けておるみたいだ」


 「徳川様?」


 「・・・・・」


 「徳川様!?」


 「・・・・・」


 ダメだ。放心状態だ。


 「とりあえず中座しましょうか。何もなく話したのがいけませんでしたね。酒井様?兵糧は相当数持って来ております。我らが1年行動できるくらいには。その中に酒も入ってます。まずは飲みますか?」


 「う、うむ。そう致すか」


 思ってた以上に三河武士は大した事ないな。俺か?俺も課金アイテムがなければ四国くらいに逃げてたかもしれないな。やっぱここに来て思うわ。武田家と上杉家というこの二つのブランドは凄い。


 とりあえずは徳川家の人達が正気に戻るのを待つ。皆が神妙な面持ちの中、オレと小雪は岐阜の農業をしてくれてる人達だけで作った米と野菜、肉でカレーを作った。


 スパイスに関しても自力で作ったものだ。100%この時代の人達だけの物で作ったカレーだ。


 「まあ驚くのも無理ありませんがまずはこれを食べましょう。腹が減ってはなんとやらですよ」


 「お、おい!これはなんだ!?まさか糞か!?」


 「まあ見た目はそう見えますがこれは数々の野菜や肉が入っており身体作りに最適ですよ」


 「何を言っておられるのだ!?」


 「偉そうに聞こえると思いますがわざわざ負けるために俺達が援軍に来ると?嫡男の信忠様がわざわざ出向くと思いですか?」


 「大橋殿?その先は某が」


 元服してからより一層逞しくなったな。


 「信忠様・・・・・」


 「徳川殿?将軍の軍が挙兵する動きがあり、父上は西に向いておられる。その背後を守るは徳川殿ぞ?」


 この言葉になんの力強さもない。ただ単に事実を言ったまでではあるが遠回しに『織田信長は徳川家康を信用している。背後は任した』と言ってることだ。


 この言葉に上手く抑揚を付け話す。信長さんとは違う言い方だが何故か信忠君をも支えてあげたいと俺は思う。そんな話し方だ。


 「徳川家の諸君!」


 「其方は確か・・・・喜助殿・・・だったな?」


 「クックックッ我は喜助。冥界より現れしーー」


 スパコンッ


 「喜助ッッ!!!謝れ!今すぐに頭(こうべ)を畳に付けて謝れ!意味の分からない事を言うな!」


 「い、いやまだ何も言ってないっすよ!?とにかく、徳川家の諸君は織田を、この信忠様を信用されたし。新しき時代の幕開けである!上杉も武田も古の猛将に過ぎぬ。この新しき時代に進めるかは己等次第ぞ!」


 黒歴史全開の喜助だがこの口上は良い。古の猛将か。確かにそうだ。時代に付いてこれない武将はこれからどんどん衰退していくだろう。織田が日の本を制す。


 「ワシは安祥松平家5代当主 徳川家康ぞ!時代に乗り遅れてなるものか!」


 「殿ッッ!!」「よっ!さすが我らの殿!」「カッコイイですぞ!!」


 やっぱこの人も部下に愛されてる人なんだな。なんだかんだ言っても俺もこの人は嫌いじゃないしな。むしろこの徳川家のノビノビした雰囲気はいいな。


 「まずは籠城の準備をせねばならん!信忠様?さっそく軍議をーー」


 「あっ、すいません。籠城はしませんよ?打って出ます。野戦にて蹴散らしてやりましょう」


 バタンッ


 「「「「「殿ッッッ!?!?!?」」」」」


 うん。やっぱ家康さん無理してたんだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る