この世界の闇

 「とりあえず・・・六角様も参加するとの事でよろしいですか?」


 「うむ。岐阜、六角家の再興じゃ。家督は馬鹿息子であるが、彼奴は戦仕事より文官仕事の手際が良い。ワシが行く」


 「そうですか。分かりました。ただ、動くのは徳川様から連絡があってからです。まだ暫くの猶予はあります。皆も暫くはまだ猶予があるからセバスチャンに言って準備しておくように!」


 「「「「「はっ!!!」」」」」


 さて・・・俺達だけではなく徳川さん達の飯なんかも用意してあげようかな。野戦で空から攻撃できるのが1番効率良さそうだしな。ってかわざわざ陸路から行かなくとも浜松まで海で行けばいいんだよな?


 それにどこで野戦をするか予め考えておかないといけないしな。


 「勘助?」


 「はいはいなんでしょう?」


 「浜松まで走れるか?徳川様に書状とちょっとした菓子でも持って行ってくれる?」


 「今度の上杉、武田の件ですか?」


 「そうだよ」


 「ふむふむ・・・一計講じましょうか」


 うん!?勘助が何かやるのか!?


 「何するんだ?」


 「それはまたのお楽しみという事で?さぁ!行って参りましょう!」


 「おっ、おい!?あぁ〜あ・・・本当に速いな。まだ書状すら書いてないんだけど・・・」


 「ふふふ。勘助なら上手く文も書き有利な事をするでしょう」


 「そうだな。まあ言うてすぐにでも行けるし、まずは那古屋で船でも出そうかな」


 「おや?今回は船で向かうのですか?」


 「荷物運びは船でいいだろ?戦はコナユキが居るから行軍しないといけないけどね」


 「クスッ!畏まりました!」



 オレと小雪、そして珍しく千代女さん3人での行動だ。2月に入ったばかりで雪こそ積もっていないがパラついたりはしている寒い日だ。


 もちろん真冬の服を着ている。千代女さんは当初は藁を被り、猪?らしき獣の皮を上から被るような服・・・装備だったから俺は、いた堪れなく真冬の装備を皆に出してあげた。靴に普通の長ズボン長袖、トレーナー、ダウンジャケット、マフラー、ニット帽だ。


 「千代女さん?具合はどう?動きにくくない?」


 「はい!大変素晴らしい服です!かなり暖かいです!」


 「そうか。良かった良かった。ところで何で着いて来るとか言ったの?いや別にダメって事はないけど珍しいなと思ってね?」


 「暁様と小雪様、それにさき様にも特別な仕事が与えられ少し羨ましいなと・・・」


 「何か他の事がしたいの?」


 「いえそういう訳ではありませんが・・・その・・・」


 「うん?怒らないから言っていいよ?戦が嫌なら他の事もあるし、やってみたい事挑戦してみたい事があるなら応援するぞ?」


 「暁様!分かりませんか?千代女嬢は今は配下になったとはいえ、元々歩き巫女です。そして千代女嬢は今は2代目です。3代目になるにはどうするのですか?」


 「え!?」


 「すいません・・・・」


 「誰か結婚したい人が居るから寿退社じゃないけど離れたいの!?」


 「暁様!!!」


 「分かった!分かった!冗談だよ!」


 俺は少し前から薄々は気付いていた。望月さんもやたら千代女さんと俺を二人にしようとしてるし、当初は髪の毛がかなり長かったが俺がショートが好きだから小雪に切ってもらってたのも知ってる。


 極めつけは、さきさん小雪の相手の中休みの日の事だ。珍しく小雪とさきさんが別々に寝ると言ったのでおかしいとは思ったが俺は偶にゆっくり寝れるな!くらいにしか思わなかったが夜に千代女さんがドアの前に居たのを知っている。


 入っては来なかったが疑問に思いつつ敢えて聞かなかったのだ。そもそもこの事は小雪が主導で行ってるようにすら思う。


 「あのう・・・・」


 「うん。まあなんとなくは分かってたけど要は子供が欲しいんだ?」


 「いえ・・・暁様のお子を頂戴しとうございます」


 「望月さんは了承してるの?」


 「父上は逆に暁様以外では論外と・・・」


 「あぁ〜!!もう!!分かった分かった!!小雪!?小雪は了承してる事なの!?」


 「はい。千代女嬢の状況を鑑みて暁様しか適任は居ないかと。それに千代女嬢の年齢は29歳。そろそろ自然分娩も難しくなってくる頃でございます」


 「え!?千代女さんって29歳だったの!?24歳くらいかと思ってたんだけど!?」


 「お世辞でも嬉しいです。ありがとうございます!!」


 この出来事をきっかけに側室の一人として千代女さんが追加された。


 「けど子供は今すぐは無理だよ!?せめて上杉、武田との戦が終わってから!それでもいい?」


 「よろしくお願い致します」


 そりゃ男だから嬉しいよ!?けど・・・大丈夫なのか!?



 ふふふ。これで3人同時に身籠り、暁様の血が繋がった子が繁栄していけば大万歳ですね。私に寿命はないですが暁様が居なくなれば子孫の守護者とでもなりましょうか。



 そんなこんな話してたら海に到着した。もちろん現代みたいな防波堤なんかはない。強いて言うなら数軒ある海浜に住む人達の家があるくらいだ。小さい安宅船に乗って恐らくだが魚を取っている人も居る。


 「あっ!お姉ちゃん!!」


 うん!?お姉ちゃん!?なんだ!?なんだ!?


 「あら?久しぶりね?この前はありがとうね?」


 「ううん!全然いいよ!」


 「小雪?知ってる子?」


 「いえ、先日マグロを取った時に船を借りた子です。この子の家は漁師を生業としているようで・・・」


 うん。見た感じ裕福そうには見えない。言葉悪いが岐阜の施しを受けて生活している人の方が裕福に見える。服もボロボロだ。こんな真冬に寒いだろう。


 「お嬢ちゃん?お父さんかお母さん居るかな?」


 「おっとうは魚取ってくるって言ってまだ帰って来てないの。おっかあは体が悪いから家に居るよ!」


 「そっか。じゃあお父さんが帰るの少し待とうかな?」


 「いいけど暫く帰って来てないの」


 俺は瞬時に意味が分かった。そして、自分で質問した事を物凄く後悔した。


 「暁様・・・・」


 「そっか・・・。もしかしたら大きな魚が獲れすぎて帰るのが遅くなってるのかもしれないな!じゃあお母さんの所に行こうか!寒いからこれでも着なさい」


 歳は恐らく7歳くらいだろう。やけに細い、体もボロボロの女の子をただの偽善と言われればそうかもしれないが見捨てられなかった。こんな子はこの世界にはかなり居る。


 来た頃はあまりどうとは思わなかっただろうが今は何故か見捨てられなくなっている。全員を救う事はできないがせめて自分の目で見た子供達は助けてあげたいと思っている。


 「本当に変わりましたね?素敵ですよ?」


 「なんか言ったか?」


 「(クスッ)いいえ!私はそこの海に【消波ブロック】と【港町システム】を構築してますね?」


 「あぁすまん。助かる」


 【消波ブロック】とはそのままの物だ。ゲームでは自然災害の地震からの津波を軽減して被害を抑えたりしてくれるアイテムだ。海の近くの領土を持っているプレイヤーは必ず持っていた物だ。


 津波被害を放置しておけば内政メーターが下がりNPCプレイヤーが去り防衛力もなくなりプレイヤーに攻撃され物資が奪われる。だから俺もこれはそこそこ持っている。まあ作ろうとお前ば作れるアイテムではあるが・・・。


 そして【港町システム】とはゲームでは当初は内政にしか使えない漁船とか小さな船ばかりだったがアップデートにより攻撃にも使える船が登場し、それからどんどん大型船が増えていき、運営はプレイヤーにガチャを回さすためにどんどん強い船を実装していた。


 そしてとうとう悪魔のアップデート・・・ライジングストームvol3と銘を打った大型アップデートだ。このアップデートにより大型船が接岸するには建築する必要性を持つようになり護岸工事をしなければ船はオブジェクトにしか使えなくなったのだ。


 もちろん、賛否両論あった。けどよく言えば海からは攻められないと利があったのだ。俺か?俺はもちろん反対だ!!既に船系のガチャに10万は突っ込んでいたからだ!むしろオレが持っている課金装備の中で船が1番充実しているのだ!


 話を戻そう。この港町システムは光る石なのだが海に放り込むと勝手に波、潮流を計算し最適な位置に防波堤やドッグなどが形成されるのだ。そしてもう一つ・・・いや最大の特徴として出来上がった港町は家も建てられ、近海の海は屈指の漁場と変貌するのだ!


 ゲームでは内政値がよくなるアイテムだったがここは現実。美味い魚がこれから食べれるという事だ!そして魚醤作りも新たに始めれるのだ!



 「おっかあ!ただいま!お客さん来たよ!!」


 「失礼します。私は織田家の・・・・」


 俺は絶句した。少し病気なのかな?くらいにしか思ってなかったのだがこの世界の闇を見たようだ。思わずこの少女を抱きしめてしまった。


 「お母さんはきっと疲れているんだよ?だからゆっくり眠ってもらうために一緒に寝床を作ってあげようか?」


 「ううん!!お母さんはまた目を覚ますの!!」


 「暁様?私にお任せを・・・」


 「ごめん。千代女さんお願い・・・」


 この時代に来て初めて関係ない人の事で涙が出た。この少女の母親はミイラみたいに細く息をしていないように見える。藁が掛けられているだけだ。


 「すいません。娘さんは私が面倒みます。どうか安らかに・・・うん!?今動いた・・・よな!?まさか!?」


 俺は思わず脈を取る。細すぎて触るだけで骨が折れそうに思う。胸の方を見ると非常に小さいが動いている。


 「息をしてるんだ!!!」


 思わず叫んでしまった。

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