高級女郎 皐月

 それから引っ越しが始まる。勘助に言い日雇いの人を探してもらい手伝ってもらう。一律日給1万円だ。みんな喜んでくれている。


 正直お金に関しては俺は必要ない。だって自分で作る立場だからだ。極力経済を回すために食べ物はこの時代の人が作った物、最近ならば消耗品なども・・・


 主に石鹸やシャンプー、トリートメントなんかだけどそれらも作り方を教えて岐阜産の物を買って使うようにしているが、いかんせん使うより入ってくる方が多いのだ。


 石鹸なんかも利権?みたいなのを作っているらしく売れれば売れる程俺に金が入ってくる。というか、小姓の堀さんが毎月持って来てくれるのだ。


 その他食物の使用料?技術料?とか俺の預かり知らぬ所で色々お金が発生しているらしい。それでも末端の人達は今までの3倍は余裕をもった生活が送れているらしい。巷では貯蓄するくらい余裕があるのがデフォになってるらしい。


 「ったく、本末転倒だよな」


 「(クスッ)でも良いじゃないですか?みんな裕福になって幸せに暮らす事がどれだけ幸せか・・・」


 「まあ確かにね?ってか、今日で引っ越し終わるんだろう?勘助に言ってジオラマ家は出したし、春町だけではなく飲み屋なんかも併設するから新しく人を雇ったんだろう?」


 「そうですね。あれ程、勘助は暁様が面接をと言っていたのに」


 「だって俺が運営するって言ってもほとんど他人任せだし勘助にお願いした方が間違いないのだから勘助の下に付いてもらった方が良いだろう?」


 「勘助は健脚だから必要な時に居ないってなりませんか?」


 「その時はさきさんが居るじゃないか!さきさんも何かと入り用な時があるだろう?朽木義兄さんにも偶には送金してあげないといけないしね?」


 「まあ、さき嬢本人もやる気になっているようだし任せても良いかもしれませんね」


 まず春町の配置は、城の北側を整地した場所にしている。ここに入るには必ず門番から許可を受けなくてはならないようにした。門番は弥次郎さん達だ。もちろん大小の刀も預かるようにしている。酔って刀傷沙汰になるかもしれないからだ。


 そして入って左右に6軒程居酒屋を作っている。出す酒は全て岐阜産の俺が作り方を教え、この時代の人達で作った酒だ。人選は倉屋さんを頭に下に人を付けた・・・


 というか倉屋さんや久兵衛さんの弟子達に自分達の店を『構えさせてやる!』と偉そうに言って引き抜いた感じだ。


 そして更にその奥に進むと俺のインベントリーに眠っていた訳の分からないモニュメントを色々出し御飾りした春町だ。飲み屋と春町の境にはそのモニュメントの一つ、ジャンケンのグーチョキパーを鉄で型取った鉄の、どでかいモニュメントを置いてある。


 一体運営は何故こんな物を作ったのか今更だが問うてみたい。しかもここにも小さく島津、丸に鍵十字文が書いてある。


 そして、中身はセバスチャンが1日で仕上げたシャワールーム完備の複数の店だ。店にはランク付けをしており、奥に行くほど調度品なんかを豪華にし料金もそれなりに高く設定してある。ちなみに、皐月さんは上級女郎のため最高級店にしてもらっている。


 和室、洋室、調度品にはシャンデリア、囲炉裏、姿鏡、飯も酒も全てこの一軒で楽しめるようにだ。そしてベッドやウォシュレットトイレなども完備してある店だ。


 「本当にここをあたいが切り盛りしてよろしかったのですか!?」


 「えぇ。あなたのための店ですからね?警備隊の一人、佐助がここら一帯を守りますので何かあればすぐに呼んでください」


 「クックックッ我は佐助だ!皐月と申したか!?今度我にお酌をーー」


 スパコンッ!!!


 「馬鹿か!謝れ!今すぐジャンピングスーパーウルトラ土下座をしなさい!!!」


 「よろしくお願いしますね?さ・す・け・さ・ま?」


 うわ・・・さすが上級女郎ってだけあるわ・・・言葉の抑揚が上手い・・・。俺でも騙されそうだわ。


 「えっと・・・佐助がもし来店しても絶対に遊ばせないでくださいね?」


 「はい。畏まりました」


 「ぬぁっ!?暁様!?たまに休みの日くらいにはーー」


 「佐助!お前はダメだ!休みなんか与えん!!!」


 それからその店一軒、一軒に世話役という名目の代表を・・・まあ監視人と言えばいいかな?を竹中さんの弟に任し無茶を言う客なんかを引っ捕えるようにした。もちろんこの人達にも給料を俺が出す。かなり持ち出しは多くなったがとりあえずは運営の開始である。


 俺が名目上トップではあるが俺の上に奇妙君が居るのはここで働いている人達は知らない。ここで集まったお金は一月に一度集金するように決めた。そのお金を一度奇妙様に渡して俺に振り分けられるという風になるのだ。


 奇妙君は『某の取り分1割で良い』となんの旨みもない事を言っていたので5対5。要は折半にするように俺が無理矢理に言った。これ以上俺が金を貯め込んでも意味がないからだ。


 そうそう。六角さんだがやっと引っ越して来た。息子さんや奥さん、元気な家族でお婆ちゃんや側仕えの人達総勢100名程で来たのだ。


 息子の六角義治さんは俺より少し年上だがイメージとしては言う事を聞かない我が儘坊ちゃんの感じがしたが親父さんの六角義賢さんには歯向かえない雰囲気のおとなしい人だ。甲賀郡の石部城に居たらしいが支城も含め全て元配下の人達に託して来て本当に何もなく岐阜に来たようだった。


 「初めまして。大橋兵部と申します。こっちが妻の小雪です」


 「この度は一家総出で………」


 なんとこの義治さん・・・話が長い・・・。普通によろしく、お願いしますだけでいいのに・・・。


 「馬鹿息子が!いつもお前は前置きが長いと言うておるだろうが!!」


 いや怖すぎだろ!?確かに少し長いけど怒るほどではないぞ!?


 「六角様!?構いませんよ。とりあえず家を用意します。特に戦に出なさい!とかは言いませんので家族の方にも不自由しない程度に六角様の給金は出す予定ですがやりたい事があれば言ってください。助言や勝算があるならば援助致します」


 「うむ。助かる。まずは生活基盤を整えたい」


 うん。やはり現実的な人だ。竹中呑兵衛さんみたいに二つ返事であれしたい!これしたい!とは言わない人だな。


 とりあえず名前も名前で無下にできない六角さんだから牧場を少し狭くして家を出した。侍女さんや側仕えの人達は一塊りで共同で寝泊まりしてもらうようにし、家臣達も暫くは共同で住んでもらう。今後街を拡張すれば各々の家を用意すると約束した。


 そして当の六角さんが住む家は少し大きめのジオラマ家を出した。見た目は瓦屋根がある現代で見る日本家屋だ。中身は一通りの快適装備は出してあげた。言うてもう歳だからな。


 「一つ!約束事としてオレは不潔が嫌いです。風邪・・・咳病や何かしらの体調の悪い時なんかは仕方ないですが基本一日一回風呂は入るようにお願いします!洗濯は今、俺の配下が洗濯機を作ってくれているから服も清潔にお願いします!」


 このように綺麗を保つようにお願いしてまずは岐阜の町に慣れてもらうようにした。


 「殿?」


 「いやいや六角さんから殿とか呼ばれるのはむず痒い。暁で構いませんよ」


 「さすがに呼び捨てはいかないであろう。暁様でよろしいかな?配下もそう呼んでいるみたいですからな?まあ暁様?松永は近付いて来なかったでしょう?」


 「え!?確かに何も話すらしてきませんでしたが・・・六角さんが何かしてくれたのですか?」


 「恩着せがましく言うつもりはないですが彼奴は茶人として、文化人として中々の者ですがどうもワシは好きになれませんでな?旧知の仲にてワシを通して近づこうとしておりましたがワシが遠ざけておきました」


 「さすが六角さん!!できる人は違う!」


 「いやいやなんのなんの。ただ彼奴は搦手を使うのが上手く違う方面から接触してくるやも。まあ我が主になった方は引っ掛かりはしないとは思いますが身辺に気をつけるよう・・・」


 確かに俺もあの人は不気味に思う。息子に関しては普通に素直な人に見えるけど久秀に関しては何考えてるか分からないし笑顔で後ろから刺されそうな気がする。そんな人だ。


 やっぱ元とはいえ、大名だった人は・・・本物だった人は違うわ。俺もこの人には報いてあげないといけないな。史実では観音寺騒動が後世に伝わり無能みたいな感じに捉えられているけど全然無能なんかじゃない。


 むしろこの時代の人はみんな我(が)が強いので掌握するのに四苦八苦したのだろう。身内には厳しそうだが家臣達には優しいみたいだしな。


 優しさ故に家臣全員の言い分を聞き、舐められ、求心力を失ってしまったのだろう。俺はそう思う。現に、城持ちから落ちてもこんなに慕ってくれる人が居るのだから・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る