本格的に始まる春町運営

 とりあえず小雪、竹中さん、オレで元々ある畦道にある古びた家がある所に向かう。


 付近に着くと素浪人のような男が立っていた。


 「ここは、お武家様が来る所ではございませぬ」


 「いやあなた達にいい話を持って来た。仕切っているのは誰か?」


 「あんた名前は?」


 「大橋兵部、妻の小雪、竹中って者だ」


 「まさかっ!?どうか平に!平に!ご容赦願います!!!」


 うん!?どうしたんだ!?別に何もするつもりはないぞ!?


 「ほうほう?あんたらは許可なく春町を運営していると自覚しているようだな?」


 「そ、そうです。ですが、よそにある春町のように無法な振る舞いは取り締まり、場所も大きくせず細々と営業しているだけでございます!どうかご堪忍ください!!」


 竹中さんのあの悪どい顔・・・性格が悪いな。


 「さて・・・大橋殿?どうしましょうか?このまま素通りするには懐が寂しいですな?」


 まあここは悪ノリしてみるか。


 「そうですね。おたくもそんな商売してるなら分かるであろう?」


 「はっ、少々お待ちを!」


 持って来たのは本当にお金だった。実際貰ってる人も居るのだろうな。


 「ふふふ。暁様?悪ノリが酷いですよ?」


 「あぁ。竹中さんも中々悪いですね?」


 「男の反応を見ないと分からないですからな?おい!これは貰っておけ。我らはタカリに来たわけではない。お主等の仕事を表舞台に出してやろうと思ってな?貴様が責任者か?」


 「へ?」


 事情を聞くため寝ていた女の人達も全員オレの館に連れて行く。館の近くになると竹馬なんかで遊んでいた子供達がお父さんやお母さんに手を連れられ家に引っ込んだ。


 「なぁ?小雪?あれはオレが今から女遊びするように見られているのかな?」


 「(クスッ)恐らくそうですね!」


 「だぁー!!!恥ずかしい!断じてそんな事ないと後で菓子折り持って挨拶に行くぞ!!!」


 「ほほは!意外にも周りの目を気にするのだな?」


 「いやするでしょ!?竹中さんは気にならないのですか!?」


 「私は心許さぬ方には例え農民でも話したりは滅多にしないですからね?」


 そりゃあんたは確か俗世を離れていたところを秀吉に三顧の礼を以て仕えたんだよな!?変わった人だわ。


 「お武家様!?あたい達は・・・」


 「あぁ、まずは風呂に入って体を洗って健康診断してから飯でも食べよう。詳しい事はその時に話すよ」


 比較的若い女の人達ばかりだし綺麗な顔をしてる人達だけど獣臭がするんだよな。何日風呂に入ってないんだよ!?


 「あらぁ?暁ちゃん?お帰り!」


 「うん。セバスチャン?例の春町の人達だ。医療ポッドに入ってもらい検査して何かあれば薬を処方してあげて。その後風呂に入らせて飯を食う。あぁ、飯はオレが用意するから風呂と医療ポッドは彩葉ちゃん達を使って案内してあげて」


 「分かったわよ?さぁ!ようこそ!大橋邸へ!ここは摩天楼!あなた達の預かり知らぬ楽園よ?さぁ焦らずにこっちへいっらっしゃい?あら!?あなた良い男ね!?名前はなんて言うのかしら!?」


 「え!?わ、ワシですか!?」


 あぁ・・・表に立っていた素浪人の人だな・・・あのセバスチャンの目は獲物を狙う目だ・・・まだ名前は知らないけど残念。頑張りたまえ!



 それから春町の人達はセバスチャンに任せてオレは飯を作る。小雪と千代女さんが手伝ってくれるとの事で助かった。メニューはハンバーグだ。ただ単にオレが食いたかっただけだが。


 約1名は既にお客さん気分で梅酒を片手に一杯やってる人が居るが。


 「大橋殿?私は柿ピーだけでも良いですぞ!?」


 「っだよ!竹中さんは遊びに来たのかよ!?」


 「ふふふ。そう言わなくてもいいじゃないですか?この世界の友達でしょう?」


 「まあな。こんな軽口叩けるのは竹中さんだけだからな。千代女さん?焼く時は弱火でね?強火で焼くと焦げるだけで中まで火が通らないから後で腹壊すよ?」


 「はい!大丈夫です!」


 意外にも千代女さんは料理が上手だ。お母さん・・・望月さんの奥さんは早くに亡くなったらしく飯炊きは千代女さんがしていたそうだ。


 甲斐や信濃より食材が豊富・・・というか多分オレが来て色々育てているせいもあるが料理をするのが楽しみと言っている。



 「よし!できたな!あっちはあっちで驚いている声がしてるけどセバスチャンが万事上手くしてくれてるだろう」


 「晩餐室にお出ししたのでよろしいですか?」


 「そうだね。そうしようか」


 ここで千代女さんは少し眉を顰めたが何も言ってはこなかった。少し差別意識があるのかな?俺は別に職業や身分で差別するつもりはないしこれからもそんなつもりはない。


 何回も思う事だが春を売る女性はそれなりに理由はあるはずだし過酷だと思う。この時代は仕事にシビアだ。殆どが農奴の人達だが畑がない人は仕事がない。その日暮らしの人が殆どだ。男ならまだなんとかなるだろう。下っ端の下っ端でも兵になれるから。


 だが女性はそんな事ができない。日々の食べ物も乏しく銭もない。ならばできる仕事は女しかできない風俗業に行き着いてしまうのだ。もし俺が仮に女性でも真似できない。


 春町は治安や教育の面で見てもなくした方が良いかもしれないが需要はあるのだから安全に供給をした方が性犯罪なんかも抑止できると俺は思う。


 

 「暁ちゃん?終わったわよ?女の子ちゃんズが少〜し・・・ね?薬を出して栄養ドリンクを飲ませたわよ?」


 「うん。セバスチャンありがとう」


 「じゃああなたは後であーしの所に来るのよ?」


 「・・・・・・・はい」


 あぁ・・・。素浪人の人・・・。俺からは何も言えない・・・。恋の形は人それぞれ。


 「とりあえず・・・座りましょうか。全員で20名程ですね?人数分用意しました。食べてください」


 「お、お武家様!?こんな素晴らしい思いは生まれて初めてでございます・・・ですがあたい達は穢れた者故、銭も持ち合わせておりません・・・どうか・・・」


 「いいから座ってくれるかな?お金なんか要らないし美味い飯食べて英気を養いましょう。それに俺はあなた達が穢れているなんて思ってないですから」


 「え・・・」


 「そもそもここはどこなのでしょうか・・・怖いです・・・」


 まあ見慣れぬ物ばかりで思考が追いついてない人ばかりだよな。まあ説明が面倒だからとりあえず簡単に言おうか。


 「今や織田は・・・岐阜は急速に発展している。俺がその要だと自負している。偉そうに言うわけではないけどその俺があなた達を見て可哀想とは言わないけど、隠れてするのではなく正式に春町を生業とできるように手助けしようと思ってね?」


 「そこのあなた?そう。栄養失調気味のあなたよ?あなたは暫く館に居なさい?滋養のある物を食べさせてあげるから」


 「お、お姉さん様は!?」


 「ふふ。私は大橋小雪。この館の主で私の主人でもある大橋暁様の妻よ。とにかく食べながら聞きなさい?あなた達の人生の分岐点になるような事を暁様が提案してくださるわよ?」


 それからみんな座らせやっと食べ始めるがビビって一口が小さい。なんか俺も食いにくいし何故無言なのだ・・・もっと『これはなんですか!?』『こんな美味しい物初めてです!!』とか言われるのを期待してたのだが。


 ちなみにだが最初に居た男の人は弥次郎って人で春町を仕切っていた人だそうな。元々、斎藤家の何とかさんって人の小荷駄隊に居た人らしい。その何とかさんってのは小雪も知らないって言っていた。


 そしてこの弥次郎さんの下に男の人が・・・まあ用心棒的な男が3人で女の人が17人だ。意外にもこの男の人達はこの時代には珍しく男尊女卑ではなく女性をちゃんと管理していたみたいだ。


 現に女の人達・・・1番綺麗で豪華な着物を着ていた皐月さんって人は弥次郎さんに普通に話しているところが見えたからだ。なんなら弥次郎さんを使っている女将みたいにすら俺は見えた。


 それから俺は春町の事を言った。準備する物は何もない。着の身着のままでこちらが家と替えの服、暫くの生活資金も用意すると。そして、男とそれをする時は必ず体を清め、ゴムを付けさせてする事を徹底。


 約束を守らない女の人は一度は許すが二度目は追放。無理矢理客にされた場合は咎めはなくその男は出禁にし、まだ決めてはいないが何かしら罰を与える事を言った。


 「あっ、それと給金も出しますよ。あなた達も知ってるかもしれないですけど今ここ岐阜では新しい銭を使い始めたのですよ。入り口に両替所があったでしょう?」


 「そんな我らが行ける場所ではなかった故に・・・」


 知らなかったのかよ!?まあまあ農民の人達も使ってるんだけどな!?


 「とにかく、新しい銭に変わっていってます。その新しい銭で・・・従来の銭の計算で・・・1貫くらいでいいかな?まあ1貫文出しましょう」


 「いっ、いっ、1貫文もいただけるのですか!?」


 「え!?別にそんな驚く事ではないかと思うけど・・・小雪?俺計算間違いしてる!?」


 「ふふふ。いえ?間違えていませんよ」


 「うん。だそうだ!ただ、営業に関しては何人か俺の預かる人を入れると思うけどそこは了承してくれよ?まあ無茶な事させたりするつもりはないから。それともし、それなりに名前の売れた人や顔の知れた人が来ても秘密にしておく事。男には知られたくない事がある人も居るはずだから」


 「そ、それはもう今でも徹底させております!」


 「うん。弥次郎さんはよく運営していたのだなと思う。さきさん?」


 「はい。失礼致します。暁様の妻、さきと申します」


 「俺のもう一人の妻のさきさんだ。俺と小雪は他国に出払う事が多いから給金はさきさんから貰うように。さきさん?とりあえず準備金に20貫だから・・・300万用意してくれる?」


 「はい!かしこまりました」


 「じゅ、準備金までいただけるのですか!?」


 「え?引っ越しするのだからそれくらい要るでしょ?あっ、さきさん!?今月の給金も要るからもう300万足して渡してあげて!」


 「かしこまりました」


 うん。やっぱ現代のお金と同じにして正解だ。計算しやすい!主に俺がだけど。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る