越後と甲斐の同盟

 「ほうほう。まさか御当主自らが参ったか」


 「ふん。抜かせ!貴様から挑発ではない文はなにかと気になって来ただけだ」


 「まぁまずは一献」


 「うむ。いただこう」




 甲斐、躑躅ヶ崎館にて上杉謙信、武田信玄の密会は始まる。遡る事10日前〜


 「甲斐から文にございます」


 「読まなくても分かる。織田が意外にもやる様だから我らと同盟しろだろう」


 「さ、さすが御実城様にございます」


 「景綱までおべんちゃらを言うでない。して、今度は越後の利は何を提示しておる?」


 「それが・・・・」


 「うん?お主にしては歯切れが悪いな?見せてみろ」


 「うん?・・・・・ははは!!未知なる兵器に弱腰ではないか!まさかあの晴信がこんな文を寄越すなぞ傑作だ!」


 「ではこれは罠ですか?」


 「ワシを何回も退ける宿敵ぞ?彼奴がこんな文を寄越すなぞ・・・・」


 バァンッッ!!!!


 「御実城様・・・・」


 「会ってやろう。しかも度肝抜いてやる!お主とワシ、二人で甲斐に向かう!他の者には毘沙門堂に籠ると伝え誰も近付けるな!景綱!用意致せ!」





 時は戻り躑躅ヶ崎館、西の離れ〜


 「・・・・・・・」


 「・・・・・・・」


 「晴信は直接見たのか?」


 「ワシの忠臣の一人秋山が相対した」


 「ほう?あの猛将の秋山か。彼奴が相対したのであれば織田の兵は討死したであろう」


 「逆だ。兵は失ってはおらぬが秋山の牙を折られかけておる。それにワシが手塩にかけて育てたとある部隊を奪っておる」


 「歩き巫女か」


 「クッ・・・知っておるのか・・・。だが・・・その者は自らを軒猿と申しておったがな?」


 「なに!?」


 「そう急ぐな!何も貴様とは思うておらぬ。貴様がそんな面倒な手を使うとは思うてはおらぬ」


 「人の暗部の部隊の名を語るとはな」


 「だが脅威なのも誠じゃ。現にワシは目を奪われた」


 「何年貴様と戦ってきておると思うておる!我が戦にて認めるは貴様のみぞ!宿敵!弱音を吐いてどうする!?」


 「おうおう!偉そうな口振りだが・・・だが!嫌ではない。宿敵ときたか・・・」


 「貴様はいつだってワシの前に立ちはだかる!北条がなんだ!佐竹がなんだ!あんなのは三流。本物とは何か。その本物とワシが認める貴様が・・・武田が最初から他人と手を組むとは・・・余程かね?」


 「空飛ぶ鉄、連射する銃、鉄の虫と聞いておる。それ以外は分からぬ。ただ・・・ここ最近やたら出てくる名前の奴が居る。大橋兵部少輔って奴だ。それと此奴の嫁御の小雪と申す奴じゃ」


 「大橋?聞かん名だな。して、此奴らが?」


 「この二人の名を聞きだしてから織田が急に強くなっておる。少し前の比叡山の話は知っていよう。浅井、朝倉、本願寺、三好を撃退しておる。まあ最後は勅命にて和睦らしいが」


 「・・・・・織田が和睦をする意味がない。ならば深手を負う前に次戦に備え織田が認めざるをえない和睦・・・顕如か」


 「小癪だがそうだ。顕如が五分の和睦を治めた。あの状況でこれだけでも中々だ」


 「武田のみで戦った場合の勝機は?」


 「空を飛ぶ鉄というのが何か分からぬからなんとも言えん。もし見間違いであるならば連射する銃なんかはどうとでもなる。6割であろうな」


 「ならば武田だけで攻めるんだな。せめてもの誼だ。貴様が西国を目指す間は攻めないでやる」


 「4割の勝機で戦を仕掛ける程若くはない!」


 「なに!?逆か!?それは何故だ!?」


 「鉄の虫は輿が3〜5つ並んだ大きさらしい。そしてそれらも大口の大砲を備えておると。まずはこれに歩兵、騎馬兵は足止めされるであろう。だが秋山はこうも言った。全方向からならば奪えるやもとな」


 「全方向・・・武田の兵だけでは足りぬと?我が越後兵を使うと申すのか?」


 「越後兵が如何に勇猛なのかはワシが1番知っておる。ゴホンッ・・・」


 「こんな寒い日に咳病か?そんな調子だからいかんのだ!」

 

 「抜かせ!咽せただけじゃ!将軍からも文が届いている。将軍の兵が織田に反旗を翻すとな」


 「頼もしいではないか!」


 「ふん。心にもない事を抜かすでない。泥舟じゃ!将軍の兵なんかは、あてにしておらぬ」


 「越後に利があるのか?」


 「朝倉がこっぴどくやられているらしいな。顕如に言い、一向宗共を大人しくさせる。その間に越後と越前を統一すると良い」


 「足りぬな」


 「馬鹿を抜かせ!これでも大盤振る舞いじゃ!」


 「若狭まで欲しいがな?どうする?甲斐源氏流武田よ」


 「チッ。若狭は我が同族が治めていた地だ。渡すわけにはいかぬ」


 「ならばまたお主と敵対関係になるであろう。何回でもワシは貴様の前に立ちはだかろう。若狭まで奪うぞ」


 「ふん。その時は逆にワシが越後まで奪ってやろうぞ」


 ガシッ!!


 「今回限りの共闘だ。宿敵よ」


 「ふん。戦に関してはお主と越後兵には期待している。まずは三河を奪う。それを西国までの道のりと致す。ゴホンッ!ゴホンッ!」


 「意気込むのは良いが先に咳病を治せ!ワシと違い歳だからな?咳病如きで倒れる事は許さぬぞ?宿敵よ」


 「ふん。また文を出す」


 「雪に閉ざされるからな。そこも考えてくれよ?」






 あら?本当に同盟が成ってしまったみたいね。これはこれで一石二鳥かしら?戦国の世に名高い二人を一気に屠ると織田は名実共に天下かしら?可哀想なのは徳川様かしら?


 さすがに徳川様にあの二人を止める手立てはないのじゃないかしら?将軍と足並み揃える事は不可能。織田様には将軍の相手をしてもらい私達で三河に救援に行きましょうか?どんな事になっても織田領ではないですし好きにして良いでしょうか。


 とにかく暁様が起きたら知らせましょうか。

それにしても可愛い寝顔・・・もっと本能に忠実な人だと思いましたがそうもいかないみたいですね。さき嬢と交代でとは少々寂しいですね。


 「さきさん・・・小雪・・・勘弁してくれ・・・」


 おやおや?夢の中でも抱いてくださってるのかしら?けど、松永氏が何も接触してこないのは不気味ね?あの方も間者を使い知っているはず。どちらに味方するか時勢を見てるのかしら?



 

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