秋山の真意
時は少し前。秋山の前から小雪が消えて数日後・・・甲斐、躑躅ヶ崎館。
「お屋形様!ただ今戻りました!!」
「秋山か。首尾は?」
「率直に申し上げて信じてもらえるかどうか・・・」
「お主にしては珍しいな。正直に申せ!」
「まず・・・空飛ぶ鉄にて延暦寺僧兵及び一向衆の奴ら成す術なく殺られました」
「うん?空飛ぶ鉄とは?」
「そのままの意味です!某もあんな物初めて見ました。あれは戦ではございませぬ!一方的な蹂躙・・・この言葉以外、表現の仕方がございませぬ」
「秋山が嘘を申すとは思ってはおらぬが・・・それはどのような物かもう少し教えよ。弓で撃ち落とせないのか?」
「朝倉が鎌倉の時代の強弓にて一機撃ち落としたみたいですが更に強力なものが出てきまして・・・。それに連射する鉄砲も多数存在しました」
「うむ。鉄砲はなんとも思わぬがーー」
「いえそれがかなりの精度でして一兵に100人は必要とお考えを」
「一兵に100人の捨て足軽か。秋山が見て武田が相対すれば勝てると思うか?」
「まず一方的に殺られるでしょう。何名かの兵は討ち取れましょうが・・・」
「ほう?意外だな?そんなにお主が言うから絶対に勝てぬと申すと思ったがな」
パサンッ
「これは!?」
「良い。見てみよ。顕如からだ。慌てて本願寺の伝令がやってきた。機を見て待てとな?顕如如きの意見に従わないといけないのは癪に障るが秋山の意見を聞いてからでないとワシは信用できんでな」
「この書状の通りでございます!」
「ふん。織田にはワシが丹精込め仕込んだ巫女村の事もある。やられてばかりはワシは嫌いでな?百戦百勝は善の善なる物にあらず、戦わずして人の兵を屈するは善の善なる物なり」
「孫子兵法でしょうか!?」
「うむ。百戦百勝しても偉くない。戦わないで勝つ事こそ最善なのだ。この戦わずして勝つ・・・。織田に戦で勝てぬのなら勝てる方法を取るまでだ。戦を仕掛ける前に勝負をつける。誰ぞある!書状を書く!墨を用意せい!」
「お屋形様!?ここは一度ーー」
「申すでない。それを言えば如何な秋山とて許さぬ!やられてばかりでワシは腑が煮えくり返っておるのだ!!」
「・・・・畏まりました。申し訳ございませぬ」
「下がって良い」
「おう。秋山か久しいな」
「勝頼様!お久しぶりでございまする」
「うむ。父上に報告は済んだのか?」
「はい。今しがた報告致しました」
「そうか。では西上作戦は滞りなくか?」
「いえそれが・・・・話せば長くなるし信じられぬやもしれませぬが・・・」
「なんだと!?空飛ぶ鉄に鉄の虫だと!?」
「そうとしか言えぬ事に申し訳なく・・・」
「いや秋山がそうとしか言えぬという事ならばワシでは更に何も言えぬであろう。で、父上はなんと?」
「孫子兵法の事を言われ、戦で勝てぬのであらば勝てるようにするまでと」
「う〜む。勝てるようにと・・・。相分かった。秋山?今宵酒でもいかがだ?」
「ありがとうございます。御相伴に預かります」
勝つべくして勝つ。戦は戦う前に勝敗を付けておけとお屋形様は毎回言われている。だが今回に関してはお屋形様がどんな搦手を使おうが圧倒的な兵を持ってしても勝機が見えぬ。
そもそも空相手にどう戦えと言うのだろう。凡夫なワシには分からぬ。だがワシには分からぬ物がお屋形様には見えるというのであろうか。
「いかんいかん!昨夜は少々深酒しすぎたようだ。もう明るくなっておる!早く信濃に戻らなければ」
「おう!秋山!」
「山県殿か!?あんなに共に酒を飲んだのにもう起きられておったのか!?」
「当たり前だ!酒と戦には負けん!ははは!」
「ふぅ〜!疲れたな!おっ!?寝坊助の秋山君か!」
「馬場殿までもう起きられてましたか!?」
「ふん!ひよっこと同じにするな!ワシはお屋形様と女以外には遅れを取らぬ!そんな事より、ちょうどよかったのう?お屋形様が軍議を開くとの事じゃ!顔を洗って来い!」
「これより軍議を開く。ワシの密命にて秋山に織田を偵察させた。だが、秋山が見てきたものは想像もできぬ事じゃった。空を飛ぶ鉄、鉄の虫、連射できる鉄砲と言っておった」
「そ、空を飛ぶ鉄!?」 「鉄の虫とは!?」
「ははは!空を飛ぶ鉄とは分からぬが鉄の虫ならば踏み潰せばよかろう!」
「ほう?高坂は輿を4つ並べた大きさの鉄の虫を踏み潰せるのか?ならば此度の西上作戦の総大将は高坂に願おうかのう?」
「・・・・・・」
「笑いはここまでだ。織田は否定しておるらしいが巫女村の件はほぼほぼ間違いないであろう。ワシはやられたまま黙っておく男ではない。だが希望的観測だけで兵を動かす事はせぬ。戦は勝負をする前に勝敗をつける」
「何か一計を図るので?」
「上杉に書状を送った。彼奴がどのような反応を寄越すかによるが秋山が言うには儂等だけでは負けるとな」
「「「なんだと!?」」」
「おい!ぬしゃ〜それでも武田の臣か!?腑抜けておるのかッッ!?」
「原か。これでも腑抜けておると申すか?」
ゴツンッ!!!
「クッ・・・・・・」
「やめっ!やめっ!秋山!大人気ないぞ!」
「馬場殿すまぬ。原が偉そうに愚弄してきてカッとなりました。原ッ!!!以後気をつけい!」
「やめい!味方で争ってどうする!ワシは秋山を頼りにしておる!愚直な男だが頼まれた事は必ずやりこなす男だ!原昌胤!貴様は秋山に謝れ!」
「・・・・すまんかった」
「とにかく、ワシも此度は何かを感じる。いつもの様な詰め将棋の如くとは思わぬ。今暫し待てい!ゴホッ・・・」
「「「「「お屋形様ッッッ!?!?」」」」」
「なんでもないッ!咽せただけだ!!下がれ!」
「なんだ咽せただけか」
「お屋形様が何かあるはずもないか!普段からお身体に気をつけておられるしな!ははは!」
「長鳴き鳥の卵を食らうのか!?」
「やはり抵抗ありますか?卵に漬けて食べるのが美味しいのですよ!」
「うむ。まあ暁の飯で不味かった物はないしな?食べてみようか・・・・」
「どうです?」
「美味い!美味いのだが・・・俺は少し苦手だ。何も漬けない方が美味いと思う。すまぬがこのまま取り皿で食べても良いか?」
「あっ、すいません!苦手な物もありますね!?どうぞ!好きな様に食べてください!」
「奥方殿?すまぬな。すきやきなる物は至高の味だが卵はちと苦手だった。すまぬ」
「い、いえいえ!無理して食べられる事はございませぬ故にーー」
「若ッッ!!!!!!?大橋様!?入りますぞ!?」
「あっ、ちょっと御老体様!?勝手に入られてはーー」
「若ッ!!こんな所に居られましたか!?ワシを放って何故にそのような事だけ大殿に似られたのですか!?しかも人の家にて飯を食べるなぞとはーー」
「おい!爺も食べてみよ!暁の奥方が作ったらしいぞ!しかもちゃんと爺のも用意してくれているぞ!この卵を漬けて食べるのがいいらしいぞ!」
「またそんな事ばかり言ってこの先どうすればーー」
この人は本当に大変な役回りの人だな。とりあえずワイワイしていい感じもするけど。
「大橋殿も言ってください!大殿も弟には甘く中々叱ってくれんのです!」
「ははは!いいじゃないですか!さぁ一緒に食べましょう!」
「そうだ!そうだ!爺!酒も飲ませてもらえ!暁が出す酒は美味いぞ!!」
「セバスチャンも入って食べよう!それに今日は飲もう!さきさんも一緒に食べよう!」
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