人魚薬

 「将軍御所に居ないと思えばこんなところで何をやっておるのだ!」


 「あ、織田様すいません。二条御所のあの将軍付きの上なんとかって人に追い出されまして・・・」

 

 「上野か?」


 「そうそう!その上野って人です」


 「将軍の腰巾着だな。まあ堪えろ。直に将軍は何かをしでかすであろう」


 「お、お武家様が織田様の者とは知らず申し訳ありませんッッ!!!!!」


 「うん?別に普通にしてていいですよ?湯豆腐美味しいですよ?あっ、織田様も食べます?小雪?支払いしてくれる?この竹中呑兵衛さんが湯豆腐奢ったくらいで大物言ってくるんだよ」

 

 「なっ!呑兵衛じゃない!それにそんな事ないぞ!!今しがた大橋殿の持ち合わせがないと言うからーー」


 「クハハハハハ!大橋は銭勘定もできんのか!おい!黒夜叉隊の皆もワシが奢ってやろう!おい!店主の女!この店の豆腐を織田が全部買ってやろう!大橋!買い物とはこうやってするのだ!チマチマ人数分買うとは器が知れるぞ?ははは!」


 「ぜぜぜ、全部でご、ご、ございますか!?あ、あ、ありがとうございますッ!!!」


 いや、さすがにスケールが違いすぎるわ。


 

 「よし!みんな食ったな?おい!店主!邪魔をした!貰っておけ!次来た時も頼むぞ!大橋!帰るぞ!」


 「は、はい!」


 「お、織田のお武家様!!!ありがとうございました!!!」


 「ほほほ!良いことですよ!」


 いや、半兵衛さんよ?あんたが何でドヤ顔してんだよ!?


 俺達は京から少し離れた開けた場所にツェッペリンを出し岐阜に戻る事にした。ツェッペリンに入り離陸したくらいに状況を聞いた。


 「は!?和睦ですか!?」


 「そうだ。さすがに帝に強くは出られぬ。だが良い事もある。敵と味方がはっきりと分かった。これはこれで良い」


 「小雪?小雪は何も言わなかったのか!?」


 「将軍に二条様が斬られそうになったのを止めました。それと料理天下一の称号を帝も認めてくれました。今回の謁見で圧倒的多数の敵に囲まれるのを防ぎ敵は動揺しているでしょう」


 「うん?あぁ、まぁそうだな」


 「朝廷に種蒔きは終わりました。暫くは芽吹くまで待ちましょう。そうですね?織田様?」


 「うむ。二条はちと危ない。我(が)が強すぎる。勧修寺もワシ側に居るがちと弱い。去り際にかなりの土産を渡した。茶器に甘味に小雪が言った・・・人魚の薬と言ったか?」


 「はい。暁様かまいませんでしたよね?」


 「人魚薬渡したのか。うん。まあいいんじゃない?」


 人魚薬とは名前こそ大層な名前だが効能としては現実世界で世界の製薬会社が挑んでも未だ克服できていないハゲ薬だ。ハゲと馬鹿にしてはいけない。


 ゲームで自ら作ったキャラは年代を重ねる事に確率によって頭皮が薄くなったりするのだがハゲが進行すると、魅力度というものが下がり内政に響いてくるのだ。


 似た様な薬は他にもあるがこの人魚薬は100%髪の毛が生えるのである。朝廷は年配者が多いし髪が薄い人も多いだろう。明智さんなんかに渡しても喜びそうだが俺に冷たいから渡してやらない。


 「継続してつけないと効果が薄れると思うから髪の毛が欲しい人は織田に薬を求めて来るかもね?」


 


 バァーーーーーーーーーーーンッ!!!


 「「「将軍ッ!!!!!!」」」


 「酒だ!酒を持ってこい!!」


 「はっ!直ちに!!!おい!料理人に伝えろ!とっておきの良い酒と肴を用意しろ!!」


 「ったく、帝も帝だ!武家の頂点は征夷大将軍の足利・・つまり麿ぞ!それを何が『織田を頼りにしている』だ!馬鹿にしおって!!!」


 「将軍?あの尾張の田舎侍の事なんか気にせずに本日は飲みましょう。政務は他の者にさせておきます!」


 「うむ。誰ぞ女子も用意致せ!とっておきの女子じゃ!」


 「はっ!」


 チッ。胸糞悪い。面白くないぞ!そもそもなんなのだ!急に麿を蔑ろにする行動をしたり麿を通さずに他家に攻め入ったり・・・信長は麿の言う事を聞いておけばよいのだ!


 「将軍!ただ今、御所に詰めておる女を見繕いました。ご選びますよう」


 「いや!!離して!?私は旦那様が居るのです!!」


 「チッ。女!黙れ!ここは喜ぶ事だぞ!将軍付きの女になれるのだぞ!!」


 「ふん。小気味良いその女子にしようか。麿を前にしてもその口振りとは分からせてやらぬといかぬだろう」


 「はっ。着替えさせて参りーー」


 「良い。そのままで良い。上野?お主も頑張っておるな?麿の後に呼んでやろう。日々の疲れを癒し英気を養え」


 「いえ、某なんかが将軍と同じ女を抱くのは・・・」


 「ふん。そう言うな。そもそもお主の様な態度が本来麿に・・・将軍に向けられる態度なのだ!それを信長・・・」


 「いかん!!おい!女!一瞬でも将軍を喜ばせろ!さもなくば打首ぞ!」


 「ヒッヒィ〜」




 「あぁ〜!やっと帰った!久しぶりだ!」


 「うむ。長かったのう。皆の者!ご苦労であった!暫く休みとする!だが気を抜くな!小心者の将軍がなにかしでかすやもしれぬ!」


 「「「ははは!!」」」


 まあ正直俺でも分かる時代遅れの甲冑や実戦向きじゃない飾りや装飾がたくさん付いた槍を持っている兵に何ができるのかと思う将軍の兵だから俺でも怖いと思わないな。


 「大橋?謹賀の接待役をお主に任しても良いか?少なからず摂津、河内で離反者が出た。残った者を労いたい。本願寺や朝倉との和睦には他の者を遣わす」


 「分かりました。最悪6対4の和睦を。難航するならば小雪を出します」


 「ふん。大橋に、小雪にとばかりに手柄を取られては他の家臣が黙っていまい。ここはワシに任せておけ!十分に休息を取れ!解散ッッ!!!」


 あの信長さんの目は6対4どころではないな。かなりの無理難題を吹っかけ表向きの和睦だけですぐに朝倉を滅ぼすつもりだよな。


 まぁこれに関しては任そう。さっ、俺達も帰ろうか。


 「暁様?帰るのはいいですが、コナユキと疾風はどうしますか?」


 「え!?」


 忘れてたわけではないが・・・いや忘れてたな。申し訳ない事をした。


 「小雪?付き合ってくれるか?ツェッペリンで乗せて帰ろう」


 「クスッ!分かりました!2人だけで空の旅ですね!」


 それから宇佐山城に居るコナユキと疾風を迎えに行きツェッペリンに乗せて連れて帰ってきたわけだが胸が痛い・・・。


 "暁君はわっちの事忘れてなかったんだね!?嬉しいよ!!てっきりもう乗らないって言われるかと思ったもん"


 "まさか!!?コナユキはずっと俺の愛馬だから!!忘れるわけないだろ!?"


 "わっち嬉しいよ?暁君?ありがとうね?わっちももっと頑張るよ!"


 こんな事を言うもんだから俺は良心が痛む・・・

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