本心を見せない帝2

 「いかな将軍とて無礼であるぞ!帝の御前である!」


 「黙れ!二条めが!おい!正親町!征夷大将軍は麿である!武家の事は麿が決めるのだ!」


 「な、なんたる物言いじゃ!いくら将軍とて許せぬ!おい!侍従!即刻将軍をーー」

 

 シャキィーーーン


 「「「「ヒッヒィィィィィィィィ〜〜」」」」


 あぁ〜あ。とうとう抜いてしまったわね。これはただではすまないわよ?織田様も見て見ぬ振りかしら?でも心なしか顔が綻んでいるように見えるわね。


 「おい!公家連中共!このままで良いのか!?織田はこのままここ朝廷にまで影響力を増して好き勝手にするに違いない!あの比叡山を焼き尽くしたのだぞ!?」


 「えぇ〜とな?その事は帝からもう話があり終わった事じゃ。将軍?刀を納められよ」


 「九条殿もそのままで良いのか!?」


 「将軍!静まりなさい!」


 「だから二条は黙れと言っておるのだ!」


 バンッ!!!!!


 「ヒッ!!お、お助け〜を!!!」


 「ふん。誠の威光とはこういう事じゃ。武家とは何か。朝廷とは何か。古今東西棲み分けが出来ておるものをーー」


 バァァァーーーーンッッ!!!!


 おや?案外織田様は魅せる男なのね?私も動いた方が良さそうかしら?二条さんが斬られそうになっていたけどあんな脅しの構えにビビるなんて情けないわね?あれでも関白かしら?


 「将軍!!!そこまでにしてもらおうか。このような乱暴狼藉、職権濫用許されると思いか?それに今、将軍が斬りそうになった方は関白ぞ!?この関白二条晴良殿は我が家臣大橋兵部少輔及び奥方に二つ名を付けた者ぞ!!」


 「二つ名じゃと!?」


 「そうじゃ!料理天下一とな!」


 いや事ここに至って暁様と私の料理天下一は関係ないでしょう?織田様は何か考えがあるのかしら?


 「お、織田殿!すまぬ。助かった・・・」


 「いえ、二条殿におかれましても斬られなくて良かった」


 「ふん!何が料理天下一じゃ!そのような称号がどうした!」


 「分かっておらぬようですな?食とは毎日口に入れる事だ。その食は本来下男や下女がする仕事だが大橋は好んで引き受けておる。それは何故か?そもそも農民や民は日々の暮らしが成り立っておらぬ。だからその地を治める者に一揆など起こすのだ」


 「長い!くどい!それがなんだと言うのだ!」


 「はぁ〜。大橋から聞きワシですら最近ようやっと分かった事じゃ。食べる物により病気に罹りにくくなり丈夫な身体が作れる。乳児なんかも母体が元気ならば死亡率が下がろう。ならば人が増え領地が栄え国力が上がる。農民にも食い物が溢れればまず一揆は起こらないであろう。それを大橋は我が領地岐阜にて行おうとしておるのだ!その大事な称号を付けた二条殿に向かって!」


 織田様・・・多分、二条様はそんな深く考えず料理天下一と言ったと思いますが・・・。まあ二条様におかれましては気まぐれで付けた称号でしょうが良い結果になりましたね。


 「一つ。私からも。古代明王朝では諸説はございますが日々必ず行う事、即ち食を司る者が宰相という座に居ます。たかが料理人という事侮る事なかれ。薬食同源・・・体によい食材を日常的に食べて健康を保てば、特に薬など必要としない身体になるという考えが明には古くからございます」


 「明や南蛮か分からぬ話を出しおってーー」


 「静まりなさい」


 「実の力もない帝が麿に命令か?」


 「静まれッッ!!!!!!」


 シィーーーーーーン


 おや?あのような腹から声出し、言霊を乗せた声を発する事ができる方だったのね?とんだ食わせ物ね?


 「将軍の気持ちは分かる。だが朕が任命した征夷大将軍の其方は延暦寺の暴走は止めれたのか?」


 「・・・・・・・・」


 「それを織田殿が神をも畏れずしてくれたのだ。その織田の者を蔑ろにするとはどういう事だ!」


 「だがそれはーー」


 「言い訳はよろしいッッ!!!争いを産み、権力の為に民草をも巻き込む戦を仕掛ける者は朕は心底軽蔑する。此度のような事があれば即刻、征夷大将軍の任を外す!今回は将軍も民草を思っての行動だと思い、不問に致す」


 温いわね。私なら即刻斬首にするかしら?ただ一つ分かった事は帝は御飾りだけではないわね。実行する力こそないけど内に秘める何かは持っているわね。


 「綺麗事だけでは治世は治められぬ。今や群雄割拠。それの頂点が足利ぞ。もう良い。信長!麿はお主を許さぬ!」


 バァーーーーーンッ


 「ふん。毛程にもない。襖くらいちゃんと閉めていけ!まったく!帝、お見苦しいところを。申し訳ない」


 「うむ。朕の方こそ造作をかける。頼りにしている。朕にできる事があるなら申してほしい」


 「帝は日の本の頂点に居られる方。静かに座しておる事こそ寛容かと」


 「皆がそうやって言い、朕は民草のために祈る事しかできぬ。毎日毎日祈っておるが一向に良き知らせが参って来ぬ」


 本当に外の事を知らない方ね?祈りで戦がなくなれば世話ないって事よ?世間知らずのお坊ちゃんみたいね?ただこれですら偽りの姿にすら見える。底知れぬ何かを持っているか?はたまた、ただの綺麗事を言うだけの人かしら?


 「某の配下を伝令役に寄越します。明智と申す者にここより程近い坂本を任せております故に一度拝謁を賜れますよう」


 「うむ。分かった」


 「それと明智を通して少しながら献金を致しましょう。普段の生活に役立てていただきますよう。それと岐阜で作られた物もお持ち致します」


 「控えよ!それでは帝が困窮しているみたいではないか!!」


 「そうだそうだ!失礼にも程がある!」


 「黙らっしゃい!織田殿?良きに計らうよう。麿を通してのう?」


 「はっ。朝廷には二条様を通して献金致しましょう」


 みんなは気付いていないかもしれないわね。帝が下がる一瞬、こちらを見ていたけどあの目・・・何を考えているか分からないわね。織田を頼りにしていると言っていたけどあれは人の下に着く人の目ではないわ。


 何か仕掛けてくるような気すらする。とにかく朝廷にも手を伸ばすように暁様に進言致しましょうか。





 「なんか言葉悪いけどあまり活気がないな」


 「ブッ!本当に言葉が悪いな?いや失敬」


 「六角様は京には何回も来た事が?」


 「うん?まあ近江守護の時に少しな?だがその時なんかと比べればだいぶましになったほうだ!その時はそこらへんに死体が居たくらいだからな」


 なんかのネット記事かテレビでも見た事がある。信長が上洛するまで京は荒れ放題で餓死者や戦乱で亡くなった人達の死体を片付ける事すらままならなかったとか。本当だったんだ。


 「おーい?お武家さんや?よければ湯豆腐なんかいかがです?」


 「おっ!湯豆腐か!いいね!お金・・お金はと・・・ヤバっ!俺、こういうの小雪に任せてるからお金持ってない!!?」


 「なんたる事・・・今や飛ぶ鳥落とす勢いの織田家でも森殿に次ぎ家老の佐久間殿よりも注目を浴びている大橋殿が銭なし男だと!?」


 「竹中さん?少し黙ろうか?往来の人にも聞こえる自己紹介どうも。たまには奢ってくれてもよくないすか!?」


 「しょうがないですな?岐阜に戻ればビールで手を打ちましょうか」


 「チッ。策士め!交渉成立!ご婦人!人数分頼んでいいですか?」


 「まあ!?こんなにたくさん!?ありがとうございます!」


 「くそ!こんな事なら俺もお金持ち歩いておけばよかったな」


 「其方が竹中半兵衛殿か?高名は予々ーー」


 「あぁ〜六角さん?そこに居るのは竹中半兵衛さんだけど俺から言わせてもらえば竹中呑兵衛さんですよ?俺の岐阜の家に来ては酒を飲み甘い物ばかり食べる人ですよ?それも今回初めて奢ってくれたくらいですからね?」


 「なっ!その言われ様は如何かと思うぞ!?ここだって私が居なけりゃ大橋家支配内 黒夜叉隊は湯豆腐一つも食べれなかったのだぞ!?感謝したまえ!ほほほほほほ!!」


 「その笑いはイライラする!そりゃ今は金はないけど全財産はそこそこあるのだぞ!!!」


 「でも京では一文なし・・・だな?大橋くぅんっ!?な!?」


 クソが!煽りの天才か!?小雪!!早く戻ってこい!!!


 「誠、面白い方だな?このような隊は初めてだ。かつての六角家では有り得なかったな。うむ。ただの湯豆腐でも美味い!」


 「本当美味しいですね!ちょうど小腹が空いたところでした!」


 「暁様?もう一つ食べたいです!」


 「あっ、すずちゃん?ごめん!実は竹中さんに払って貰ったんだ。俺お金持ってなくて・・・」


 「あぁ〜!!?どこかで飲み歩いてお小遣い使いはたしたのですか!?」


 「いや違う!俺は支払いは全て小雪に任せてーー」


 「まったく嘆かわしい・・・黒夜叉隊の長、暁様がまさか一文なしとは・・・・」


 「黒川さんまで・・・だから違うって!!」


 「ほほほ!すずとやら?お食べなさい!ご婦人!もう一つよろしいですかな?」


 「がははは!本当に面白い!この隊は良い!」


 くぅ〜!!!小雪!早く帰ってこい!!!

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