本心を見せない帝1

 「あれが織田か・・・」


 「穢らわしい武家がよくも神聖なるこの場に来たものよ」


 「そうそう。聞けば比叡山を燃やしたそうじゃありませんか」


 

 「チッ。わざとらしく聞こえるように言いやがって」


 「織田様落ち着きください」


 「うむ。すまぬ」


 初めて暁様と別れ織田様と私の行動ね。暁様を省いて呼び出しとは・・・まあ恐らく二条様がしでかした事かしらね?


 小御所、御学問所、御常御殿などあるのね。いずれも古びたように見えるかしら?如何にも財政難って感じね。


 「ほほほ。織田殿ではごじゃりませぬか?」


 「おぉ〜!二条殿・・・関白様ではございませぬか」


 「ほっほっほっ。これまた織田殿ならではの手を打ったらしいですのう?」


 「ははは。坂本の町を、延暦寺の腐り具合を見て黙ってはおられませんでしたからな」


 「麿は武家の考えは分からぬ故な?じゃがこの事で朝廷の者達からの風当たりは強くなろうぞ?心して行くが良い。ほぉ〜!料理天下一の小雪殿ではごじゃりませぬか?」


 「お久しぶりでございます。よければこれを。主人の暁様及び織田様からの贈り物です。南蛮菓子になりますのである程度は日持ちします」


 「ほほほ。こんな所で貰う所を見られると麿は賄賂を受け取っておられるみたいじゃのう?ほう?案内役は日野輝資公か。さて・・・日野殿は何も見ておらんのう?のう?」


 「は、はい!関白様!な、何も見ておりません!」


 「宜しい。ここからは麿が変わろう。下がれ」

 

 「で、ですが・・・」


 「侍従如きが関白に物言う立場かえ?」


 「申し訳ございませぬ。よろしくお頼み申し上げます。お上は御常御殿に参られます」


 「うむ。では織田殿?参ろうかえ。ほほほ。料理天下一の左衛門尉小雪の菓子とは楽しみであるのう?ほほほ」


 御常御殿・・・ここが帝が政務を行う場所かしら?菊紋様々な所に飾ってあるけどここも古びているわね?さて・・・帝とはどんな方かしら?



 「チッ。こんな所で待たせるとは針の筵ではないか」


 「関白の二条様が織田様にお味方されているのです。気にせずにいましょう」


 「小雪の方こそどうにかしておる。ワシですらこれ程の公家や公卿の中には入った事ないと言うのに」


 「私は織田様や暁様がした事に誇りを感じております。公家から見れば有り得ない比叡山焼き討ちですが陰口叩く公家共は下々の民に何ができるのか!と私は思います」


 「ふん。確かにな。気が楽になった。礼を言う」


 「関白様!?その雅な木箱はなにですかな?」


 「ほほほ。これは織田殿の横に居る左衛門尉小雪殿から麿への'贈り物'じゃ!賄賂なんかではないぞ?南蛮菓子だそうだ!九条殿もいかがかな?」


 「ぶ、武家からの贈り物なぞ口にできるか!!しかも官位もないような者からの贈り物なぞーー」


 「あぁ〜!忘れておったが左衛門尉殿は正六位ですぞ?」


 「チッ。だがそんな得体のしれん物なぞ食わぬ!」


 「ほほほ。なら麿が一人占めしようかのう?これはまたなんとも見た事がないものでおじゃるな!小雪?これはなんと申す?」


 「織田様から説明されますか?以前お出しした物と同じですよ」


 「うむ。二条殿?ワシから説明しましょう。'普段から'織田家では食べられておる、くっきーとふぃなんしぇとまかろんなる物ですぞ。甘い菓子です」


 「ふむ。ふむ。織田家ではこのような雅な物を食べられる程裕福とな?うむ!甘い!これは美味い!このような物食べたのは'初めて'である!」


 あの二条も中々の役者ね。前に岐阜に来た時にクッキーは食べてたと思うけど。まああれは内緒の訪問だったかしら?織田様も私の提案の意図を分かってくれたようだし、まあこれでいいかしら?


 「甘い!?甘い菓子とな!?関白様!!是非に一つ麿にも・・・」


 「麿も一つだけ・・・・」


 「ほほほほ。これは麿がいただいた物。しかもいただいた者が居る前では渡せないでしょう?のう?織田殿?」


 「小雪?後で渡してあげろ」


 「はっ。畏まりました」


 「おい!勧修寺も一条も甘露寺も何を言っているのだ!?」


 「これはこれは九条殿?甘露寺家は織田殿こそ帝の後ろ盾に良いと思うのです」


 「甘露寺は武家を忌まわしいと思わぬのか!?気に食わぬ事があればすぐに戦を始める者は愚かとは思わぬのか!?」


 「それは異な事。我らでもこの京の政争にて搦手を使うではありませぬか?ほほほ」


 「勧修寺・・・」


 「ほほほ。九条殿も落ち着きなされ。麿からお願いする事もできますぞ?」


 カンッ カンッ 


 「帝が入ります!お静かに!帝の御成〜り〜」


 御簾のせいで顔が見えないわね。一体どんな方かしら?

 

 「我が義弟を比叡山から空を飛ぶ鉄にて救い出し延暦寺の現状を聞いた。民草を守り中立を保たず仏を語り無法の如く振る舞う僧侶を捕らえ比叡山を一度浄化するため火を点けたとは聞いたが相違ないか?直答を許す」


 「はっ。相違ありません」


 「本来ならば朕が行わなければならない事を織田はやってくれたと言うのだな?」


 「はっ。帝に関してはここ、御常御殿にて政務を励む御身。それに不浄なる僧侶が蔓延る場所を見られると不快な思いをされるかと将軍をも差し置いて某、織田家が処罰致しました。尚、武家の対立により織田家はただいま浅井家、朝倉家と戦をしておりますがその対立にも延暦寺は中立を保とうとせずこのような結果と相成りました。誠に残念でございます」


 ここまでは既定路線ね。覚恕様が話は付けてあるはずだからここから帝の口から比叡山の焼き討ちは朝倉、浅井のせいにして討伐命令ね。簡単な仕事ね。


 「皆の者聞いてくれ。朕はあの神聖なる比叡山延暦寺がこのような事になっておるとは知らなかった。朕の祈り不足とも思う。覚恕に聞けば本願寺と結託しておるとも聞く。誠の逆賊とは誰か。朕から命令書を出す!無条件にて即刻織田家は朝倉家、浅井家、本願寺と和睦せよ!」


 「無条件にですか!?」


 「うむ。朕は・・・朕は延暦寺の僧のような暴虐は許すまいと思う。だがその事により焼き出された民草や下々の民の事を思うと一刻も早く戦を終わらす事が大事と思うのだ」


 は!?何で和睦になるのよ!?こっちはまだ戦力温存してるのよ!?どういう意味!?それに許すまいと言ってもあなたは何もできないでしょう!?


 「ほほほ。おや?織田殿?顔色が悪いようですが帝からの勅命ですよ?即刻停戦せよとの事ですよ?まさか聞かないわけありませんね?」


 「・・・・御意」


 まさか・・・。チッ。してやられましまたね。確か九条稙通は顕如を猶子としその父、証如から金銭的援助を受けた事があったのよね。そこまで考えが及ばなかったわ。まさかこんなに一方的なのに歴史と同じ停戦するとは思わなかったわ。


 これは考えや、やり方を変えないといけないわね。それに今後朝廷にも手を伸ばさないといけないわね。


 「して・・・あぁ〜。面を上げてよい。正六位、左衛門尉!其方は空飛ぶ鉄の持ち主の妻らしいが朕への贈り物も其方が考えたのか?直答を許す」


 「はい。主上の御方様への贈り物は織田様と主人の大橋兵部少輔暁様と私で考えました」


 「ふむ。毒味役の者が事の他美味いと言っていてな?朕も気になり食したのだが誠に美味くての?」


 「はっ。ありがとうございまする」


 バァァァァァーーーーーーーンッッッ!!!!


 「麿を差し置いて何をやっているのだ!!!!!」


 あら?勢いよく襖を開けて・・・あぁ〜・・・なんて間の悪い将軍かしら?この無礼の極みはどう落とし前つけるのかしら?

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