比叡山焼き討ち2

 逃げて来た人達に飯を食べさせたり話しを聞いている間に佐助にツェッペリンにペイントをお願いしていたができあがったと言われた。


 「我の渾身の出来栄えです。暁様に相応しいかと」


 「了解。見に行こう。すずちゃん?悪いけどここはお願い!」


 「はぁ〜い!」


 城の広場に向かったが出来栄えは良し!機体の中央に織田木瓜紋。そしてここでも何故か丸に鍵十字。


 「おい?佐助?なんで島津の家紋まで書いたんだ?」


 「え?暁様はよく丸に鍵十字の刺繍服を着られてるから島津家の家紋が好きなのだとばかりに・・・」


 違うわ!あれはガチャで当たれば高確率で勝手に刺繍されてるんだよ!もう運営の中に島津家の末裔が居るとしか思えないくらいの島津推しだしな。


 「まあもういいよ。ありがとう!」


 出来上がったツェッペリンをさっそく信長さんを呼び見せた。


 「素晴らしい出来ではないか!誰が見ても織田と・・・ワシと分かるではないか!佐助!でかしたぞ!」


 「ありがとうございます。例の件よろしくお願いします」


 まだ言ってるのかよ!?お前は彩葉ちゃん推しじゃなかったのか!?


 「堀ッ!!!皆に伝えよ!30分後に叡山、山頂を目指し出陣致すと!坊舎に座す覚恕殿をお助け致す!」


 「はっ。それと明智様から伝令が参っています。日吉大社は焼かない方向に致すとのことーー」


 「直ちに返答せよ!ワシは全てを燃やせと伝えたはずじゃ!勝手に作戦を変えるなと伝えろ!ワシが許しておるのは聖衆来迎寺だけだ!チッ。こんな事なら彼奴にも、てれふぉんなる物を持たせておけばよかった!」


 いやいやなんでテレフォン!?確かにたまに南蛮語として教えてたけど電話でよくない!?


 この聖衆来迎寺とは淡海(琵琶湖)東麓にある寺だ。史実での比叡山焼き討ちでもその焼き討ちを免れた寺だ。


 本来ならば比叡山との関係から言って、浅井・朝倉側に味方すべき立場にあったが住職の真雄って僧は、敵方の大将である森可成の遺骸を密かに運び込み葬りその行為に信長は感じ入って焼き討ちを免れたのが本来の歴史だ。


 俺達が居る歴史では、先の宇佐山での決戦の折に小雪が軽戦車の燃料である水を補給するのと少し小雪自身が真雄って住職が気になったらしくわざとに聖衆来迎寺に水を貰いに行ったらしい。


 そしてその時の対応は敵であるはずの俺達だがこの住職は嫌な顔一つもせずに井戸の水をくれたらしい。そして、この住職も本山の延暦寺の僧兵にはほとほと愛想尽いているらしく延暦寺の暴走を止めてほしいとも小雪に言ったそうだ。


 この話しを聞いた時に俺はこの聖衆来迎寺は史実と同じ、燃やしたらダメと思い信長さんに伝えてある。むしろ信長さんの方も『このような寺宗教にも上下がある中長い物に巻かれず仏の道を目指す者こそが本物』と言い賞賛されている。恐らくこの真雄って人が延暦寺の上人になるかもしれない。


 「織田様?今度全軍に各々の電話をお渡ししましょうか?そうすれば今後伝達が早くなります」


 「うむ。もったいぶって渡さんのもよくない。大橋!頼まれてくれ」


 「畏まりました。とにかく帝の弟様を助けに行きましょう!」


 予定では30分もあれば救出できると予想し、30分後に火を点ける事となった。


 俺が操縦し、すぐに比叡山上空に到達し眼下には森の木々の間から僧兵や浅井、朝倉の兵も見える。明智さんの軍や青地さん、森さん、佐久間さん達の軍も見える。


 今この時・・・グラーフツェッペリン機内では信長さんは拡声器のスイッチ片手に持ちマイクの前に居る。燃やす前に全軍に鼓舞するようお願いしているからだ。


 ゴンドラの外に出て比叡山側も織田軍側からも信長さんを目視できる距離まで高度を下げている中、短いながらも力強く信長が本当に日の本を統一する意思を皆に伝える。


 「神聖な山だろうがなんだろうが正すべき道に戻すは織田の者ぞ!ワシは目の前に立ちはだかる者は誰であろうと排除する!それが神であってもだ!全軍に告ぐ!一切の感情を捨て奮起せよ!」


 この言葉が合図となり炎が立ち上がった。東西南北の山から降りる道全てに織田軍を配置してある。中川重政、柴田勝家、丹羽長秀さん達はこの焼き討ちに関して思うところはあるだろうが納得している。


 そして聖衆来迎寺のある東の道には六角さんを配置してある。懸念があるとすればここだ。降伏してすぐに作戦の一つに組み込まれている。


 「織田様?この真下にある木造の建築群が坊舎と思います。では私含め黒夜叉隊は覚恕様救出隊として出陣致します。操縦士として小雪を残しております。小雪?何かあればすぐにここを離脱して、くれぐれも危ない事がないように!」


 「了解致しました!暁様もお気をつけて!」


 今回も少数精鋭だ。俺、佐助、千代女さん、彩葉ちゃん、黒川さんだ。俺達は二つ目のゴンドラからエレベーターで降りる。望月さんも一緒にと思ったが千代女さんが要らないと冷たく言い放ちツェッペリンの手動エレベーターの縄を回す役になっている。


 皆には今回はニューナンブM60を渡している。自動小銃でいつものように撃っていれば目立ちすぎて僧兵が一矢報いるため俺達に向かって来られるのはさすがにまずいからだ。

 

 「極力戦闘は避けるように!慌てふためいている今この時に終わらすぞ!覚恕さんが居る場所は奥の間だ!」


 「「「「おぉ〜ッ!!」」」」


 坊舎は丁稚の子達や年配の僧など色々な年齢の人達が居た。俺達に気付きピタッと動きが止まる。


 「えっと・・・別に無駄に殺すつもりはないのだが。ここに詰めている皆は表で悪事を働いている糞坊主とは違うだろ?」


 「いかにも。我らは下界には出してはもらえん愚僧と呼ばれる者の集合体じゃ」


 「あなた様は・・・覚恕法親王様ではございませんか・・・」


 俺はわざとに仰々しく呼び皆に頭を下げるように言った。


 「其方が何者かは分からぬが拙僧は親王宣下を受けてはおらぬし今は愚僧の一人である。表の上人達の暴走を見てみぬ振りしかできず誠に腐った僧である」


 「単刀直入に申します。私は織田家 大橋暁と申します。この延暦寺が悪事を働いている事の証拠を持っております。それを一度正すために許される事とは思いませんが焼き討ちをしております。どうか、我らと御同行願えませんか?悪いようには致しません」


 「名ばかりだが拙僧は天台座主。責任は取らぬといかんでしょうな」


 え!?嘘!?もう天台座主だったの!?まあそれはどうにでもなるだろう。


 「とにかく・・・時間がありません。数人ならば連れて行く方が居れば・・・」


 「覚恕様!」「覚恕殿!」「覚恕さま!!」


 「うむ。誰一人とて残しては行かん!大橋殿と申したか?」


 「はい」


 「この3人は拙僧を師として思ってくれておる者達だ。構わないか?」


 「おい!!お前等は織田の者かッ!?」


 「チッ。覚恕法親王様。あの者達より監視に近い事をされていたように思いますが?」


 「はて?何故そのような事まで知っておるのか?」


 「理由は後々に言います。あの二人は黙っていてはくれませんが対処しても?」


 「仏に仕える拙僧は何も言えませんな」


 のらりくらり話す人だ。悪気はないと思うけど。


 「おい!糞坊主!お前達のしていた事は分かっている!覚恕法親王様の監視役だろう?黙っていれば見逃してやる!」


 「おーい!皆の者!ここに織田の兵が入って来ておるーー」


 パンッ パンッ


 「ここで僧兵が現れ乱戦になれば覚恕法親王様をお助けはできませんので排除致しました。お許しを」


 「うむ。致し方ないとは思うがなんともな・・・」


 「とにかく連れていきましょう。佐助?ツェッペリンに連れて行ってあげて。医療ポッドに入り病気のチェックをして宮廷晩餐室風にしてあげて。俺は少し違う用事がある」


 「な!?そんな事許せるわけないでしょう!?例の慈海って奴の事でしょう!?」


 「これは俺が個人的に許せない事だ。頼む!小雪に言って一度宇佐山に帰るように!俺は大丈夫だから!じゃあ頼んだぞ!」


 俺はそう言って返答待たずに日吉大社の方は走り出した。


 "コナユキ!居るか!?"


 "居るよ!!初めて二人で戦だね!わっちは頑張るよ!"


 "そうだな。戦とまではいかないができる限り人を助ける。慈海ってお坊さんの人間は許さないから覚えておいて!さぁ!行こう!"

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