小雪の追跡
次の日俺は早朝に信長さんに電話をした。
『おう!そっちはどうだ!?』
「おはようございます。こちらは無事敵を追い払いました。比叡山に逃げ込んだかと思われます」
『重畳!重畳!こっちも勝敗はついた!三好の馬鹿は慌てて阿波に帰ったようだ!柴田、和田を両城代にしそちらへ向かう!』
「了解しました。お気をつけて」
ふぅ〜。やっと勝負ついたか。ってか本来ならどうなんだろう?将軍は浅井達の味方だったよな?まあ分からんものは分からん。勝ったんだな。次は比叡山がどんな反応するかだよな。まさかあのサンダーボルトを見て浅井、朝倉を匿う選択はしないよな!?
「暁様おはようございます。朝餉にお粥を作りました。どうぞ」
「あ、小雪おはよう。どこに行ったのかと思ったよ。ありがとう!ちょうど良い朝飯だ!うん!絶妙な塩加減!さすがだな!セバスチャンの飯も美味いが俺は小雪の飯の方が好きだな」
「クスッ ありがとうございます!実は伝える事がありますのでお聞きください」
「うん?どうした?」
「秋山信友と話をしてきましたよ」
「ブボッ・・・なんだって!?」
「実は・・・・・・」
あぁ〜・・・なんて事ない顔して眠っておられますが心の中はズタズタなのでしょう・・・暁様の不安を少しでも和らげるように私が不安の一つを払拭致します。起きるまでには戻ります。
さて・・・どちらに向かったのでしょう?まさかこの期に及んで付近に居るわけはないでしょうね?
信濃に戻るルートとしては朝倉領を通り白山経由かしら?鳥型カメラを使いましょうか。
越前国は・・・変わりないわね。白山に・・・おや?こんな所に居ましたか。馬を変え一目散にですか?昨日までの行動とは違いますね。けど可笑しいわね?こんなところまで帰っているなら早くに退却しているはず・・・影武者かしら?はたまた見張りだけ残したか、少数の三ツ者を残したか。
では向かいましょうか。久しぶりの全力の瞬脚を使わないといけないわね。今は3時だから・・・4時には追いつきたいわね?暁様も昨日は深酒したから10時までは寝ているはず。
そろそろ白山に入ったかしら?よくもまぁ、こんな獣道を馬で走れますね?疾風やコナユキなら分からないもないですが。あれが最後尾かしら?見つけたわよ?何もせずに帰るなんて面白くないでしょうに。
「前方に伝えよ!女がこちらに向かって来ておる!」
「あら?さすが秋山の兵と褒める所かしら?」
「な、何奴だ!?何故我らの事を知っておる!?」
「残念。お喋りする時間はないの。少し眠ってちょうだいね?」
ゴンッ
よく気付いたわね。何か追いかけてくるのは気付いても女というところまで見破られるなんて思わなかったわ。それより全員眠らせて突破は難しそうね。
「武藤様!!」「武藤さま!!」
おや?武藤、武藤・・・この人間は武藤喜兵衛ですか?年齢も20代前半に見え、合っているわね。
「あなた達に聞くわ。単純明快。この人は武藤喜兵衛さんかしら?」
「そうだ!この方はーー」
「おいッ!お前の馬鹿!殿の名を教えてどうするのだ!!」
「あっ、いっけねぇ〜・・・・」
「面白い人達ね?じゃああなたの殿が起きればこれを渡してくださるかしら?不慮の事だった。詫びの品よ?あなた達と争うつもりはないの」
「こ、こ、これはなんなのだ!?これを渡せば良いのか!?」
「おい!殿を一撃で気絶させる持ち主ぞ!敵だぞ!なに呑まれてるんだよ!?」
「はっ!!!おい!女!ここを通れるとーー」
「時間ないって言ったでしょ?」
ゴンッ
「ひっ・・・ひぃ〜〜!!!」
「お黙りなさい!人間の本能で強い者には逆らわない。逃げるというのは大切な事よ?力量を計らず立ち向かう事は時に良いとしますがこんな所では馬鹿のする事よ?あなたはこの武藤喜兵衛さんを介抱し私の事を伝える事が仕事よ?」
「は、はい!」
「あなた本当に面白いわね?織田家 家臣 大橋兵部少輔暁の妻、大橋左衛門尉小雪よ?覚えておきなさい!ちゃんと渡すのよ?」
「はっ。天地神名にかけて誓います!」
「じゃあ私は先に行くから。頼んだわよ」
あの人間は面白かったわね?本能に忠実な人間は嫌いじゃないわよ?これで武藤何某・・・未来の真田昌幸さんに楔は打ったわ。何かあれば頼ってくれば暁様も喜ぶかしら?配下にしたいって言ってましたからね。
土産は木箱に入れた【エメラルドポーション5本】と【砂糖】だけど貴重な物と分かるでしょう。一応説明書きも入れたしエメラルドポーションの使い時も分かるでしょう。
やっと本隊を捉えたわよ。
ゴンッ ゴンッ ゴンッ ゴンッ ゴンッ
「うん?おい?もう少しで信濃だぞ?なにヘバってーー」
ゴンッ
「お、おい!何か居るぞ!」
ゴンッ
「防御陣!敵に備えろ!」
「こんな狭い山道で防御陣なんか構築できるわけないでしょう?」
ゴンッ ゴンッ ゴンッ ゴンッ ゴンッ
この進軍を見れば本隊は少数だったのかしら?前隊に秋山として、中隊、後隊と揃えて進軍・・・ではこの多数の人は一向宗に見せかけた兵だったのかしら?確かに映像で見た限りでは秋山が一部の一向宗を連れてるように見えたけど。まだまだ分からないわね。
ここらへんから毛色が違うわね。馬廻りかしら?おっと?先頭に居ますね。逃がさないわよ?
「チッ。お前ら反転!なに!?あの女だと!?」
「あなたまで気づきますか。いったいどんな訓練をしているのですか?」
「こんな所まで・・・何用だ?お前は織田家の者だろう?確か大橋兵部の嫁とか?」
「御名答。それで・・・あなた達、信濃の軍は何をしに来ていたのかしら?ただの偵察にしては遠い遠征ね。威力偵察にしては何もしてないわね?」
「それを言うと思うてか?女ッッッ!!!!!!」
ガキンッ カンッ
「あら?あなたは話が好きなのかしら?はたまた私が女だと逆刃で向かってきたのかしら?」
「チッ。やはりお前はやる女だな。穴太で見ていた通りだ」
「あら?ありがとうね?私がやる時は既にあなたの首と胴は繋がってないわよ?そもそも争うつもりはないの。あなた達が何をしに来たのか聞きに来ただけ」
「一々癪に障る言い方だ。だがその言は誠のようだ。お前の構えに隙がない」
「話が早くて助かるわ?」
「おい!お前等は休憩でもしておけ。間違っても手を出すなよ?手を出せば即、首が離れると心得よ」
「さすが秋山の軍と言ったところね?統率が取れているわ」
「ふん。抜かせ!では問答といこうか。お前が聞きたい事を嘘を言わずに答えてやる!その代わりワシが聞いた事も答えろ!」
「いいわよ?けどこっちが言う事は信じないかもしれないわよ?」
「いや信じよう。現にお前がそうだ。我らは既に五刻は走ったであろうが簡単に追い付かれた」
「そうね。私が本気を出せばもう少し早く追いつけたでしょうけど、それはまたの機会にね?それで?私から聞かせてもらうわ。明け方には暁様の朝餉を作らないといけないの。何をしに来たの?」
「とある作戦の偵察だ。その作戦は本件には関係ないため言えない」
西上作戦の事かしら?それ以外思いつかないわね。
「分かったわ。そこは聞かないであげましょう。それで・・・収穫はあったかしら?」
「ふん。白々しく言うのだな?あんな空を飛べる物を持っておるとは・・・並の兵は正気を疑うであろう」
「ですがあれは朝倉に一つ落とされましたよ?あなた達も戦に加われば良かったのに」
「それこそ愚かなり!戦は始まる前に勝負を決める物だ!あれと戦って勝てる道理はない!鉄砲も弓矢も届かぬ空にどうやって立ち向かうのか!」
案外冷静な男ね。脅威だわ。けど負けはしないけど武田を敵にしては弱りきった暁様に追い打ちをかけてしまう。
「そう?なら対策を考えないといけませんね?」
「チッ。ではこちらが聞く番だ。お前達の配下の中に武田の忍びと同じ動きをする者が居た。何か接点があるのか?」
「さあ?少し前に仕官しに来た人達が居てみんな雇ったわよ?」
「おい!その言い方はなんだ!?」
「聞かれた事を答えただけよ?何も嘘をついていないわよ?」
「なら言い方を変える!織田は巫女村に何かをしたのか!?」
「織田は何もしてないわよ?そもそも巫女村とは何かしら?」
質問にそのまま答える事を私はしましたが織田は何もしていませんし嘘ではないですね。
「もういい」
「じゃあ最後に・・・織田としては武田と構えるつもりはないの。その事をあなたの殿に伝えてくださる?」
「伝えるだけは伝える。どうせ今のままでは戦えぬ」
「とこんなやりとりをしました!」
「おいおい!?そんなの喧嘩ふっかけてるようじゃないか!?」
「そんな事ありません!秋山氏は無闇に攻撃してくるようには見えませんでしたよ?」
「う〜ん。なんなら日本住血吸虫の薬でも渡しても良かった気はするが・・・」
「そこまでしてあげる義理はないでしょう。素直に織田に従うのであれば甲斐、信濃の民を治してあげてもよいですが今のままではいけません。とにかく、もし武田の西上作戦が始まるなら徳川領からとなります。様子を見ましょう」
「分かった」
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