暁、危うし

 「あっ、あれはなんだ!?」


 「な、なにか飛んでいるぞ!!?」


 「皆狼狽えないで!あれは暁様の空を飛ぶ夢幻兵器の一つ、攻撃ヘリという物よ!」


 「小雪様っ!!敵が退いていきます!!」


 俺は拡声器で小雪に問いかける。


 「小雪?道が狭いから降りられないけどなんともないか?なければ槍を回してくれ!」


 低空ホバリングをしながら状況を聞いたが小雪は槍を回し何もないように見えた。この街道に居る敵も軒並み逃げていっているようにも見えるが浅井の旗印の兵達は石や鉄砲、弓なんかを撃って来ているがコブラはびくともしていない。


 俺は威嚇も含めガトリング砲を浴びせてやった。断末魔の声は聞こえないが手が千切れたりしてる人が見える。


 「おい?暁?これは壮観だな!敵が蟻のように逃げて行くのが分かるぞ!!」


 「ははは!そうですね!対処できない事は怖いですからね」


 俺はそこから穴太の街道、志賀に向かう街道を行ったり来たりした。佐助にも声を掛けようと思ったが、あいつは祝砲とばかりにオイ車の主砲を空に撃ち、このコブラが一瞬、警戒アラームがなったため無視してやった。あいつは館に帰ればセバスチャンに言いつけてやろうか。


 だから必然的に小雪が居る穴太に向かう街道の方を多く旋回したりしていた。


 「ははは!これは本当に良いな!暁!ありがとうな!兄者にやっと自慢できる事ができた!!」


 「いえいえ。恐らく後日ワシも乗らせろ!と言われる気はしますが」


 「ああ見えて兄者は優しいのだ。兄者はできぬ事を言う方ではない。その者ができる事しか言わない方だ。まあこれからも織田家を支えてくれ!既にこの勝敗は我らの勝ちだ!」


 無線越しだが信治さんと圧倒的な兵器で勝負にもなっていない戦で余韻に浸っていたわけだがチラっと小雪の方を上から見たら、ビックリした顔で小雪が大きく手を振り森の方を槍で差している。


 俺は何の事か分からず目だけその方角を向くと4人の男が居てその内3人が特大の弓矢を構えていた。


 その刹那一矢が俺達の真横を掠めて飛んだ。


 ビューーーンッ


 「おい!暁!あれはただの弓ではないぞ!強弓だ!朝倉に引ける者が居るとは・・・さすがにあれはまずいのではないのか!?」


 「いやいやあれはヤバイです!むしろあれが弓矢なわけないでしょう!?バリスタに近いくらい大きいですよ!?それを3人で運用できるとか馬鹿でしょう!?」


 俺はあのバカでかい強弓・・・いやもうバリスタだな。あのバリスタはさすがに当たればヤバそうなので高度を上げようと機首を上に向けた時にニ矢目が飛んできた。


 ビシューーンッ


 矢が放たれた瞬間、オイ車の祝砲で警戒アラームは鳴ったが、弓矢でも警戒アラームが鳴ったのだ。この警戒アラームはゲーム内では装甲を貫く攻撃、コブラを破壊できる攻撃がこちらに向かって来ている時にのみ発せられるアラームだ。


 「え!?嘘!?警戒アラームか!?」


 「あの強弓はかつて為朝公が幼少の頃使われたと言われている5人張りの強弓だ!」


 「え!?なんですかそれは!?」


 為朝公って源為朝の事だろ!?平安時代の人だろ!?なんでそんな人の強弓が未だに使えるんだよ!?


 「無駄話してる余裕はないだろ!?さっきからワンワン煩い!」


 チッ。また警戒アラームか!?こんな高さでも鳴るのか!?


 慢心していたわけではない。だがこの警戒アラームが鳴りつつもどことなく安心感はあった。まさかAH-1コブラ・・攻撃ヘリが旧世界の兵器にやられるわけないだろうと。


 だがその俺の思いは脆くも崩れ去った。ロケット砲なんかもあるが道を壊せば直すのも大変なのと火事になるといけないと現代の倫理観から躊躇っていたがそれがいけなかったのか。


 ビシューーンッ ドゴンッ!


 「うっ、うはっ!!プロペラに当たったのか・・・バランスが取れない・・・ヤバイ!落ちる・・・」





 「当たりだ!!ほら見ろ!いくら空を飛んでいるとはいえ、攻撃されなかったであろう?あれは空を飛び脅威ではあるが攻撃手段をあまり持ってなかったのだ!我ならあんな異形な物を持っているなら根斬りにしてやるがな!なんと脆い!脆い!はっはっはっはっ!」


 「さすが景隆様!!こんな強弓を持ち出しされているとは・・・」


 「我はどんな相手にも油断はせん!」




 まさかっ!?まさか、あんなバリスタ擬き如きに遅れを取るとは思わなかったわ。暁様が危ない!!あの4人は許さない!あの男の笑い声が癪に障る!


 「望月様!みお!市華!あなた達はあの朝倉の4人を生きて私の前に連れて来て!ただでは死なせないわ!私は暁様を助ける!森隊は敵が息を吹き返すかもしれないから警戒しなさい!」


 「「「はっ!」」」




 クッソ〜・・・気にせずにロケット砲を撃ちあいつらを殺しておけばよかった!俺は馬鹿か!?あれだけ油断はしないと言っておきながら油断して警戒を怠るなんか・・・ずっと警戒アラームは鳴っているし高度も下がってはいるが旋回はできる。


 とりあえずどこかに着陸だけすれば助かる!いやその前に・・あのクソバカ共に一発お見舞いしてやる!使わんと決めていたハイドラロケット弾を撃ってやる!


 「お、おい!暁!大丈夫なのか!?ずっと変な音が鳴っているぞ!?」


 「大丈夫です!絶対に落ちたりしません!俺が落としません!それよりやられて黙ってはいられないですよね!?信治様・・・今からこのコブラ最強の兵器を撃ちます。その勢いで墜落してしまえばすいません」


 「墜落?ふん!俺は死は怖くないが手も足も出ずに死ぬのは御免だ!構わん!気にせずにに殺れ!」


 小雪がこっちに向かって来ているのが見える。敵を無視して俺を助けてくれるか・・・けどそんな事よりあいつらに・・・チッ・・・また構えている・・・。


 この俺が撃とうとしているハイドラ70ロケット弾とは無誘導なため数撃ちゃ当たるという弾だ。発射ボタンを押し続けると連射で撃てる仕組みだ。19発、左翼に装填されている。


 望月さん達が敵に接近しているのが分かる。このまま撃てば望月さん達にも当たってしまうため俺は信治さんから拡声器を渡してもらい叫んだ。


 「黒夜叉隊!下がれッッッ!!!!巻き添えくらっても知らんぞ!!!」


 俺は簡単に命令口調で言葉を発し望月さん達が下がるのを待った。ゲームなら味方気にせずに撃っていたであろうがこの世界に来て優しくなったのだろう。望月さん達が安全な距離に下がるまで待ちすぎたため敵の攻撃の方が早かった。


 何か望月さんがこちらを向いて叫んでいるように思うがプロペラの音で聞こえない。クソ!逃げるのが遅い!叫ぶ暇あるなら早く離れてくれ! 


 敵のバカデカい矢がこちに放たれた瞬間俺は19発のハイドラ70ロケット弾を全弾撃った。


 シュッシュッシュッシュッシュッ…………


 ドガンッッッ ドガンッッッ ドガンッッッ ドガンッッッ……………


 撃った瞬間がスローモーションのように見える。相手の矢は避けれない・・・


 もしこれがゲームで強弓に攻撃ヘリが落とされたと分かればチャット欄は罵倒の嵐だろうなと。こんな時なのに変な事を考えてしまう。


 その瞬間、聞いた事がない金属が擦れる音が鳴り、コブラは完璧に操縦が効かなくなった。


 「信治様すいません!即死じゃなければすぐに小雪が治してくれるはずです!頭だけ守って衝撃に備えてください!」


 「恨む事はない!あのろっけとなる物の煙で戦果は分からぬしこの手であの者を殺れなかったのは残念だが一矢報いたであろう!これが落ちるのは嫌だがこれで兄者も空は飛べぬだろう!俺しか空は分からないであろう!ははは!」


 あぁ〜。この時代の人達は死ぬ間際まで明るい人が多い。ってか、信治さんはヘリがこれしかないと思っているのだろう。残念!俺が持ってるヘリで1番小型のヘリがこのコブラだ。


 落ちれば痛いだろうな。小雪が完全回復スプレーを使用してくれるだろうが落ちた瞬間骨折くらいはするだろうな・・・。


 そう思いながら落下寸前にしては優しい衝撃が機体に伝わり疑問に思いながら落ちた。



※実際問題、バリスタが攻撃ヘリに届くわけはありませんが、そこは物語の都合上御了承下さい。

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