間が悪い竹中半兵衛

 「三ツ者・・・望月千代女が頭領の巫女村からやって来たってとこかしら?主に巫女の姿をし各地を歩き情報を集めたり諜報活動をしているわね?」


 「・・・・・・・」


 「沈黙は肯定と受け取るわよ?」


 顔にも表情が出てるしまるで図星ですと言わんばかりだな。けど案外忍者と呼ばれる人も普通なんだな。マスクっぽいもので顔を隠してるからそこまでは分からないけどそれなりに訓練された女かな?


 「暁様どうしましょう?織田様に言えば大事になります。幸い他には誰も見られておりません」


 「う〜ん。ゲームなら迷わず処刑してたけど現実となるとね?それに害はないんだろう?」


 「見た感じではありませんし、もし私達の事を武田に言われても痛くも痒くもありませんね。逆に殲滅できる口実ができますよ」


 武田と戦ってもいいけどこの後織田包囲網ができるはずだから念の為友好路線に切り替えるか?既に本願寺あたりから書状とか色々話してるかもしれないしな。


 「小雪?悪いけど眠り薬を。この事は俺達の中で秘密にしておく。この子を治して帰そう。土産も渡してね?」


 「包囲網の備えですか?」


 「うん。まぁ、俺達が居るからまずは大丈夫だと思うけど念には念をと思う。どうせそんなに長生きせんだろう?」


 「まぁ史実でも織田は武田と長篠まで大きな戦はなかったですからね」


 「三方ヶ原は徳川だからな」


 「おい!貴様達は一体何を言っているのだ!?わけの分からぬ事をーー」


 「はい!残念!あなたには眠ってもらいます!」


 シュッ!


 小雪が懐から出してふりかけた眠りスプレーは例の如くハズレアイテムだった物だ。対象にかけると眠るのだが、いかんせん射程が2メートル程でしかも昨今のゲームでは服装に付加価値が当たり前で睡眠無効というのが当たり前だったからNPCにしか効かないというゴミっぷりだ。


 「一応女みたいだから小雪が手当てしといてくれる?ついでだから医務室にあるカプセルに入れて見てあげよう。土産は俺が選ぶから」


 「クスッ!本当にゲームとは違う考えですね!ゲームなら単独で武田に攻めたりしてますよね?」


 「そうだな。重装備で一人で武田とついでに上杉なんかも潰してたかもしれないね。けど、NPCならなんとでもできるけど、プレイヤーが居れば宇宙合戦か!?みたいになってしまうからね」


 「懐かしいですね。如月様はお元気かしら?」


 「どうだろうな。まっ、よろしく!俺は倉庫を漁ってくるよ」


 もしどこかに如月が居たとすれば現実も繋がってるかもしれないよな。けど俺はこの世界が気に入ってる。現実では有り得ない自分優位に進める事ができるからだろうか。


 さて・・・土産は何にしようかな?武田は何が好きなんだろう?とりあえず塩が欲しいはずだから・・・塩100キロくらいでいいかな?それと、確かホタテ系の何かもあったような・・・。グラスとかもいいな!どうせだからゴミアイテム全部渡してやるか!


 「暁様?そんなに出してどうするのですか?」


 「え?お土産だけど?」


 「誰が運ぶのですか?」


 「・・・・・・・・」


 「誰が運ぶのですか?」


 しまった・・・・。運ぶ事考えてなかったじゃないか!それに2回も聞かなくていいから!


 「俺がパッと甲斐まで行ってパッと帰ってこようか。俺のインベントリーに入れれば時間経過も重さも容量も無制限だし」


 「では私も行きましょう。道中何かあるといけませんからね。コナユキと疾風なら2時間で行けるでしょう。装甲車は使えそうにありませんね」


 「う〜ん。山道は狭いからな。原付きでもいいっちゃいいけど」


 「私は馬で走るドライブも好きですよ!」


 「なら馬にしよう!今日行って、今日帰ろうか!」


 「はい!それと医療カプセルの診断結果は腕の方は打撲ですが、右目が網膜剥離でしたので治しておきましたよ」


 「網膜剥離!?なら右目はほとんど見えなかったんじゃないのか?」


 「恐らくそうでしょうね。あの女は捕まった事に感謝してもらわないとですね」



 「大橋殿!!!参りましたぞ!!!」


 え!?あの声は竹中か!?


 「まさか・・・・」


 「まさかですね。間が悪い・・・」


 「とりあえず俺が対応するから!」


 俺は急いで倉庫から出したガラクタ・・・じゃなく手土産をインベントリーに収納して玄関に向かう。すると、本当に竹中半兵衛と女性3人と、素朴な感じな上品な服を着た女性が居た。


 「昨日の今日で申し訳ない!紹介しましょう。私の妻、いねです」


 「お初にお目にかかりまする。半兵衛の妻 いねと申します。岐阜で妾を知る者には得月院と呼ばれております」


 なんで二つの呼ばれ方があるのだろう?気になるけど・・・いやいや今はそれどころじゃない!

 

 「すいません!恥ずかしながらさっき起きたばかりで何も用意ができてませんのでーー」


 「構わんですぞ!いきなり押し掛けて来たのは私達なのですから!私達は豪華な飯や酒を飲みに来たのではなく異国を感じたく」


 「異国?」


 「明や南蛮の事は書物でしか拝見できませぬがこの大橋殿の家は異国を感じれる場所でございます。何故光るか分からない灯籠。捻ると出てくる水。そして紛う事なき素晴らしきは厠です!」


 いやいや便所かよ!?そりゃ家の標準装備でウォシュレットだけどよ!?しかもゲームの時は何故か便所に行けばたまに内政力が上がったりしてたけどよ!


 「ではとりあえずこちらにお越しください!側仕え様達も遠慮なく。あっ足はそのままでかまいませんよ!これウェットティッシュです!これで足や手を拭いてください」


 俺はバレないようにシアタールームに連れて行った。ここは昨日来た人にも教えてない部屋だ。


 「どうなっている!?なんで見えなかった右目が見えるのだ!?」


 いやなんで起きるの!?眠り薬使ったはずだろ!?


 「大橋殿?今なんか聞こえましたな?いね?何か聞こえたか?」


 「・・・・いいえ。鳥の囀りでしょう。あなた?少し大橋様のお話を聞いてさしあげれば?」


 「うむ。そうしようか。よしの?たま?鳥の囀りでした。分かりますね?」


 「はい!旦那様!」


 「大橋殿?鳥の囀りを探しに行きましょうか」


 あぁ〜あバレてしまったし!しかも凄い機転の効く奥さんだな!?側仕えの人達も凄いな。


 「小雪?竹中様にバレてしまった。奥さんと側仕えさん達に甘いコーヒー牛乳とケーキをお出ししてあげて?シアタールームに居るから何か映画でも見せてあげなさい」


 「・・・・申し訳ありません。畏まりました」


 さて、なんて言おうか。竹中なら分かってくれる気はするが・・・。


 「竹中様・・・すいません」


 「どうか、半兵衛と呼んでくれて結構。私と大橋殿の仲ではないか!それで何があったのだ?」


 「では半兵衛さん?こちらに。それと俺の事も暁と呼んでください」


 「うむ。お互い親しき仲にも礼儀あり。敬称は付けておきましょう。して・・・・この女は?」


 「昨夜侵入してきた三ツ者でございます」


 「武田か!?何故、武田が暁殿の所に!?」


 「歩き巫女・・・は分かりますか?」


 「はて?歩き巫女とはどこぞの山奥に巫女村が有り貧しい場所を回り施しをする?」


 「多分合っています。その実態は全員が全員ではないと思いますが武田の間者です。巫女なので関所で銭は取られないし怪しまれない。女だから欲情する男も居るでしょう」


 「そこまで知って何故生かしておるのか?何か理由が?」


 「ちょっとこちらに」


 俺はこの後起こるであろう事を言った。特に織田包囲網が出来上がりその筆頭が武田だと。


 「誠なのか!?」


 「私が居た世界ではそうです。ですが私が居ますのでそうはさせませんが一度武田信玄に会ってみたいとも思うのですよね。未来では一定数憧れる存在の方ですよ」


 「そういう暁殿も憧れを?」


 「いや憧れとまでは言いませんが私にはこの世界が憧れですからね。半兵衛さんも未来ではかなり有名ですよ?名軍師として。三国志の日本の諸葛孔明とまで言う人も居るくらいですよ」


 「いやはや、私がそのように言われるとは・・・そんな事よりそれであの女はどうするのか?」


 「私が届けようかと思います。お土産を持って」


 「そうか。ならこれは秘密裏に処理せねばーーえぇぇぇ〜!!!!?土産を持って帰すと!?」


 漫画みたいな反応だな!?


 「はい。別に私の事知られても何か既に織田家の事を掴まれたとしたも負ける気はないですからね。なんなら俺が本気を出せば上杉、武田、北条、朝倉この4家が同時に攻めて来ても防げる自信があります」


 うん。4家はさすがに無理だ。誇張しすぎたな。全部の家が全盛期なら保って二日だな。うん。


 「なんと!?暁殿はそれ程までの戦力をお持ちと!?いやさすが暁殿!その牙がお館様に向かない事を願うのみですな!?」


 「いや織田には絶対有り得ませんよ。あの人の考えはこの時代では唯一無二ですから。俺が居た世界と似た感性を持っていると思いますよ」


 「さすが我らの殿ですな。では・・・私もお供しましょうか。今日はお館様は二日酔いのため政務は休むと言われていた」


 「分かりました。ありがとうございます。けど奥さんが・・・」


 「大丈夫ですよ!私の妻 いねは大人しいですから」


 いや、どう見てもおとなしそうに見える人だよ!?本当はだしたくないけどもう一体のアンドロイドを出そうか・・・。


 「小雪?セバスチャン出そうと思うけど大丈夫かな?」


 「セバスチャンですか!?それは・・・」


 「だって念の為にね。また誰か来てもいかないだろう?戦闘こそできないけど人間相手くらいならなんとかなりそうじゃない?」


 「そこは心配していませんが・・・暁様にお任せします」


 「せばすちゃんとは何ですか?」


 「半兵衛さんすいません。小雪みたいな私に仕える人ですよ。ただ、性格に難点があり・・・」


 「おぉ!!暁殿の家臣の方ですか!!私も挨拶せねばなりませんな!どちらに?」


 もうどうなってもいいや!出そう!俺はインベントリーを開き呼び出した。


 「も〜う!ちょっと男子ぅぃ〜?酷いじゃないのよ?あーしをずっと閉じ込めて?小雪嬢の声は聞こえてたんだからね?」


 「お、おう。悪い悪い!今このジオラマ家に竹中半兵衛さんの奥さんと側仕えさんが居るから守ってほしいんだ。そして色々食べ物とか、飲み物をお出ししてあげてほしい」


 「えぇ〜?どうしよっかなぁ〜?男子ぅぃ〜の困る顔もみたいからなぁ〜?」


 「セバスチャン!気持ち悪い声出さないで!」


 そうこのセバスチャン・・・名前こそ執事のような老齢なダンディーな人を想像するだろうがぽっちゃりしたオカマなアンドロイドなんだ。


 ハズレガチャと思うがこれはこれで当たりアンドロイドらしい。運営曰く、昨今のLGBTに配慮した性格なのだそうだ。性格こそ・・・・いやなんでもない。だが料理、掃除、洗濯、防具や武器の修理地下の農業、家の事全般の事などの腕前は全アンドロイドの中でトップを誇るのがこのセバスチャンだ。俺は苦手だけど。


 「ちょっとぉ〜?小雪嬢?酷いじゃないのよ?あんたはずっと男子ぅぃ〜の横に居たからいいけどあーしはずっとインベントリーの中だったのよぉ?」


 「お黙りなさい!それがアンドロイドの宿命よ!」


 「え〜?でも小雪嬢はこの世界に来て感情が芽生えてるんでしょう?ならあーしも同じなんだけどぉ?」


 「とにかく!セバスチャン!お願いできるか?このお願いができるならこの家にずっと居てくれていいから!!」


 「本当ぉ?しょうがないわねぇ〜?約束だからね?それで?その横にいる男前が竹中半兵衛さん?史実通りいい男ね?けど、あーしの好みはガチムチなの。暁様の世話役アンドロイドのセバスチャンだよぉ」


 俺は思わず身震いしてしまった。


 「あ、あ、はい!織田家 家臣 竹中半兵衛と申す。この度は妻を護衛してもらいたくーー」


 「いいわよぉ?そのかわり、暁様をお守りするのよぉ〜?暁様は私のご主人様だからね?」


 「そ、そうであるか。相分かった」


 「半兵衛さんすいません。とりあえず行きましょう」

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