喧嘩別れ

 寺の庭に出て来た俺達は将軍と小雪を見守る。信長は二人の間に入り掛け声を掛けた。


 「始め!」


 「女子(おなご)とて遠慮はせぬ!ふんッ!!」


 シュッ ゴンッ


 「それまで!!」


 いやマジで瞬殺だった。将軍は刃が付いてない方で叩くような斬り方だったがあれがもし当たれば怪我どころじゃすまなかったんじゃないだろうか。


 「激流を制するは静水」


 いやまたその言葉かよ!?ここは世紀末か!?


 「クッ・・・・ワシは足利15代将軍 足利義昭ぞ!!」


 ブォォン!!  シュッ ブォォン!!  シュッ


 将軍が力任せに剣を振り回しているが小雪は尽く黒刀でいなしている。


 「3 2 1 行きます」


 ブォォン!ドォォォォォーーーーーーン!


 「小雪やめ!それまでじゃ!将軍ももう良いでしょう」


 「義昭様!!」「将軍!!」「上様!!!」


 「織田殿!!?これはなんの騒ぎじゃ!?おい!女!これは貴様の仕業か!?」


 「将軍の側近よ。これは食後の運動だ。将軍に聞けば分かる!そうでしょう?将軍?」


 「ぐぬぬぬ・・・よもや女子にしてやられるとは・・・それに最後の一刀は麿を斬ろうとしたな!?皆の者この女子を捕らえよ!!」


 いやこの我が儘将軍は何言ってんの!?本当に斬ろうとすればもうあんたは身体真っ二つだから!!


 「いいかげんにしなされ!素直に負けを認めぬのは見苦しい!ワシもこの女に負けた!別に恥ずかしい事ではない!ただワシより刀の腕が、将軍より刀の腕が達者なだけじゃ!」


 「それでも予は女子に負けるなんぞ言語道断!」


 「分からぬ将軍。もう良い!おい!大橋!小雪!帰るぞ!」


 「お、織田殿!いや織田様!それではさすがに将軍に失礼ではーー」


 「おい!貴様も飯の時、横の部屋で盗み聴きしていたであろう!人の物を欲しがり、我が儘を言い、約束は守らぬ!自分の力量すら分からぬ!ワシは約束は守る!村井!将軍の御殿はちゃんと仕上げておけ!」


 「はっ、はい!」


 あの人は村井貞勝って人かな?確か京の奉行的な役職の人だったかな?大変だな。


 そのあと、俺達は本当に夜道を岐阜に向かって走る。俺達もコナユキと疾風に乗り付いて行く。


 「クハハハハハ!見物だったのう!あの将軍の顔は傑作だ!!小雪!良くぞ打ち負かせてくれた!礼を言うぞ!」


 「私もあの人は嫌いなので気持ちよかったですよ」


 「まあそう言うな!'今は'まだ将軍に座して居てもらわねばならぬ。'今は'な・・・・」


 信長はこの時から既に幕府を倒す算段をしてるんだな。やっぱこの人はすげーわ。


 「織田様?」


 「なんじゃ?」


 「はっきり素性も知らぬ不思議な俺達をありがとうございます」


 「ふん。そんな事はどうでもよい。未来から来ようがげーむかなんだかから来ようがワシがする事は変わらぬ。早い事、日の本を纏め南蛮に負けぬようにせぬと絞り尽くされてしまう。そのためにワシは武を持って天下を制する。天下布武じゃ」


 「微力ながら俺達も手を貸します」

 

 「当たり前じゃ!ワシの中で貴様らは組み込まれておる!大橋兵部少輔暁!これから貴様の名だ!それと小雪!お前も、大橋左衛門尉小雪と名乗れ。ワシが許す!位階は正六位じゃ!」


 「え!?あっ、はい私は大橋左衛門尉小雪。暁様の妻として織田様の臣下として微力ながら尽くして参ります」


 いつのまにか小雪に俺と同じ名字が付いたらしい。まっ、いいけど!


 最早俺より小雪の方が凄い人物じゃないか?様になってるんだが!?


 「ふん。励め!」



 そこから機嫌が良くなった信長は色々俺達に聞いてきた。未来では誰が日の本で偉いのかとか軍事の事も民の事、家の事、乗り物の事などだ。ただここでも歴史の事は聞いてこなかった。これに関しては一貫して聞いてこない。余程自信があるのか。


 「未来では位などまったく身分制度がなくなったわけではありませんが皆平等に職に就き自由に結婚し生活します」


 「それは日の本が一つに纏まれば為せる事じゃな。例えばどのような職があるのじゃ?農業はどうじゃ?」


 屈託のない笑顔だな。本来がこんな人なのだろうか。


 「正直農家は少なくなってきております。食料自給率も日の本は世界で見ても下の方だったと思います」


 「では、ワシが作る日の本は同じ轍は踏まぬようにせねばな。何かしら制度を考えんとな」


 「それと、国に納める税を銭にしております。一定の銭を納め色々な国主体のサービス・・・施しを受けれると言えばいいでしょうか・・・」


 「待て待て!そこは詳しく後日教えろ!右筆も居る時にしろ!」


 本当に右筆って居るんだ。


 「殿!!!こんな夜更けに!!?」


 「犬か?何故お前がここに居る?」


 「俺は殿なしではだめなのです!どこまでもいついつまでも殿に付いて参らねば・・・」


 犬・・・と言えば前田利家か!?ホモか!?いやいや、この時代は珍しい事じゃないはず!差別はいかん!人の恋はそれぞれだ!


 「おう。紹介しよう!犬だ!」


 いやいや犬じゃねーだろ!?


 「前田利家さんですよね?」


 「な、何故俺を知っている!?貴様さてはーー」


 「寄せ。此奴はこれから織田に必要な奴じゃ。明日の昼に軍議を開き皆にこの二人を紹介しよう。おい!犬!馬引け!」


 「はい!喜んで!!!」


 何を見させられているのだろうか。この前田利家さん・・・いやおまつさんと結婚はもうしてるのだろうか?ロリコンめ!


 

 「あれじゃ!義父殿の城を改修しておる!」


 岐阜城が見えるところまでやってきたがこれまた立派な石垣、そしてさっきまでボロ家ばかりだったが夜でも暗闇でも分かる!民の家が綺麗だ。昔ながらの感じはするがこんなにも地域によって変わるのか!?


 「織田様!凄いです!俺感激してます!岐阜城・・・凄い!」


 「ふん!ワシの城だからな。今日は城に来い。一室用意してやる。体を休め明日から励め!」


 「お館様!俺は!?」


 「犬!貴様は己の家に帰れ!」


 「・・・・・はい」


 いやそんなにガッカリするところか!?年下の女房が居るんだろ!?


 「こら!利家!あんたまた夜中にほっつき歩いて何してるのさ!!!」


 「まつ・・・勘弁してくれ・・・お館様の前だぞ・・・」


 「お館様だろうが誰の前だろうが関係ない!はよう家に帰りなさい!」


 「・・・はい」


 「クハハハハハ!おい!まつ!その辺にしてやれ!時に男は一人になりたい時もあるのだぞ!」


 「殿?妾に無事を言わず他人の家にお行きですか?」


 「き、帰蝶・・・すまぬ。これは違うのだ・・・」


 「ほう。どう違うのか夜更けですがちゃんと聞きましょうか」


 「いや・・・そのだな・・・」


 みんな女の尻に敷かれてるんだな。まつも怖いしあれは濃姫だろ!?濃姫・・・めっちゃ怖そうなんだが!?

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