凄まじい圧

 とりあえず竹中が俺と同じ後列に来てくれたから道に迷ってはいないが・・・。まぁついて行くだけだから迷うもクソもないけど。1時間もすると寺寺寺。クッソ長い壊れかけの門もあれば綺麗な屋敷もある。


 「ここが京の玄関口、溝の堀と土塀です」


 「いや、初めて見ましたがこれは凄いですね。所々寂れてはいますが家々も・・・」


 俺は周りの家を見たがお世辞にも綺麗とは言えなかった。


 「これでもお館様が上洛されてからはだいぶ変わったのですよ」


 まあそう言うだけはあるのかな?往来の人は多い気はする。


 「確か、道一つ一つの公家の名前が付いてたのですよね?」


 「よくご存知で。その道の整備加減でその公家の力を示すのですよ。見なされ。今私たちが通っている道は北小路通りと言われる所です。整備されてるでしょう?」


 「確かに向こうに見える道よりは綺麗に見えます」


 「これが織田に従うか従わないかですよ」


 何か凄いスケールの話だな。未来では見取り図でしか見た事なかったから実物を見れるのは新鮮だ。


 「あの向こうに見える城みたいなのはなんですか!?」


 「あぁ。あれは将軍の御所でございますよ」


 「将軍とは・・・義昭ですか?」


 「シッ!声が大きい!呼び捨てにしたくともしてはなりませぬぞ!さすがにこの竹中でも将軍を呼び捨てにし見つかれば庇いきれませぬぞ!?」


 「いやすいません。私の居た時代で勉強で学んだ事なので・・・」


 「あの御所を建てられるのにどれだけ人と費用を使ったか・・・」


 竹中が教えてくれた。義輝の武衛陣の跡地を中心に北東に拡張して、約400メートル四方の敷地に2重の堀や3重の天主を備える城郭造の邸宅なんだそうな。


 この京周辺に織田家の力を見せつける役割もあった事から将軍義昭の思う通りにしたと。なんでも将軍義昭はかなりのビビりだそうな。


 「でも俺でも三好を見た事ないですが襲われればビビりますよ」


 「大橋殿ならかまいませんよ?将軍は権威こそ失墜しているが将軍です。武家の頭です。どんっと構えてもらいたいものですな」


 なんか義昭って言えば足利最後の当主ってイメージしかないし織田を裏切るってイメージしかないから良い感じはしないけどこんなアホみたいな戦闘狂ばかり居る世界を纏めようと必死なんだよな。よくやるよ・・・俺なら自ら辞退してしまいそうだ。


 「まあそう言いつつ未だ改修中なのですがね」


 「え!?あれでまだ作ってる途中なのですか!?」


 「公卿の山科言継様の度肝を抜くと言う程で京の将軍御所初の石垣を作っておるのです」


 新しい発見だな。そりゃ、元々戦国のゲームするくらいだから俺は歴史は普通に好きだったがここまでコアな事は知らなかったな。


 「うん?先頭から早馬か」


 「何か伝令ですか?」


 「竹中殿で相違ないか?」


 「如何にも」


 「お館様が本圀寺にてお待ちです。先頭の木下殿、明智殿、池田殿もお待ちしております」


 「はて?私は与力ですよ?私が呼ばれる事はないと思いますが?」


 「大橋なる者と朝倉何某の首を持ってこいと仰せでございますれば」


 「話が早いですね。明智殿が?」


 「某は伝令の事だけで誰が伝えたかまでは・・・」


 「ご苦労!すぐに向かいましょう」


 とうとう織田信長と会うのか・・・会いたくないんだけど・・・。絶対暴虐な人だよな・・・。


 "わっちはまたインベントリーに戻されるの?"


 "いや、出たままでいいよ!基本人と人の移動にはこれからもコナユキに乗るからよろしくね!後ろの小雪の馬の疾風と離れないようにね?"


 "やったぁ!初めて必要とされてるよ!!疾風!ちゃんと言う事聞くんだよ!!"


 "ワテはこのチャンスを捨てる事はしない。ワテの主人は小雪様だけと古今東西決まっておる。小雪様どうぞお降りくださいませ"


 「うん。疾風ありがとね!」


 「護衛あんどろいどと申す女は馬と心通わせておるのだな!?降りる時に脚を曲げる馬はお館様の小雲雀号以来初めて見たぞ!」


 俺はこの竹中半兵衛に全幅の信頼をしてしまっている。怪しさ満点の俺達をこの人は理解してくれようとしている。ワンチャン俺のチート装備が欲しいだけかもしれないが。


 でももしそうだとすればピストルは返さないはずだが普通に返してくれたしな。俺は馬と話せる事を包み隠さずに言った。


 「なんと!?人馬一体とは其方の事だったのか!」


 いや今なんと言った!?人馬一体だと!?


 "わっちと暁様が人馬一体だって!この人間、プレイヤーより嬉しい事言ってくれるね!"


 "確かにコナユキと俺が人馬一体か。もしコナユキに乗って戦になる事があれば頼むよ!?死にたくないから!"


 "わっちに任せなさい!"


 "ワテも小雪様の手となり足となり目となり走るでごんす!だから叩いてください!"


 疾風は変態馬か!?


 「・・・・・・・・」


 小雪も堂々のシカトかよ!?


 「基本、お館様に聞かれた事は簡潔に答えから述べるように。途中私から助け舟を出しましょう。出身は・・・状況を見てからにしますか」


 「え!?そんなので大丈夫ですか!?首斬られたりしませんか!?」


 「ははは!そんな事まずないですよ!少しばかり怖いお方ですがちゃんと筋が通った事を言えば大丈夫ですよ!さぁ参りましょう!遅れた事の方が怒られますぞ!」


 本当に大丈夫だろうか。不安しかないよ・・・。


 「暁様?何かあってもお守りしますよ。最悪手打ちにしてでも・・・」


 「いや、間違っても信長は討ってはだめだから。やられそうになれば逃げるよ!」


 「了解致しました。その時はまだ人が住んで居ない地にて過ごしましょう!」


 小雪はそっちの方を望んでるように見えるけど・・・。



 「ここが本圀寺か・・・でかいけどなんか装備が色々少ないですね?」


 「さっき言った御所に鞍替えするためここ本圀寺から色々移動させてますからね」


 これまた俺的には新しい発見だな。御所は要は中古の物を使ってたのか。


 「竹中半兵衛、大橋暁入ります」


 「構わん!」


 俺は頭を下げ竹中の後ろにくっついて座敷に案内された。ここでまったく関係ないが俺の島津十字家紋入りの服を朽木に忘れた事に気付いた・・・けどあんなデカデカとした家紋入りの服じゃなくて良かった・・・。これも家紋入ってるけど小さいから大丈夫だよね!?


 「もそっと近う寄れ!あぁ。京だが今は公家の練習はしなくて良い。岐阜のようにして構わん!」


 「はっ。・・・・お館様!戻りました!ご無事で何よりでございます!」


 練習?作法の練習も兼ねてたのかな?ってかいつ頭上げていいの!?


 「よくぞ帰って参った!竹中、木下、池田、明智のおかげである!して、その大橋なる者が朝倉何某の首級を上げたとか?どこの者だ!面を上げい!」


 やっと頭上げられるのか。・・・虫ケラを見る目だな。俺の事なんか興味なしか。さて・・・なんて言おう・・・。もうどうでもいいや。怒られて斬られそうになれば逃げよう。


 俺は静かに顔を上げ信長の顔を見たが・・・。ヤバイ!声が出ない!


 「ははは!ワシの圧に声も出ぬヒヨッコか!」


 「「ははははは」」


 クソ!明智と池田か!?覚えておけよ!?お前ら今後絶対に助けてやらねーぞ!


 「もう一度問おう。義兄の親族ではないな?何者ぞ?」


 「ハァーハァーハァー・・・・別にただ通りかかっただけですよ。木下様が手を貸せと言うたから手を貸しただけ。その助けてる中に朝倉何某って人が居たので倒しただけです」


 「ほう。ではたまたまじゃったと?」


 「正直に言えばそうですね。仮に朝倉側に先に見つかれば織田を攻撃してたかもしれませんが朝倉の兵は私を見向きもせず襲ってきましたからね」


 「ははは!面白い奴じゃな!ワシと面と向かって話す奴は大概おべっか使う奴ばかりじゃ!本音を言う奴は信に値する。織田を倒してみたいか?」


 「「お、お館様!?」」


 信長は手で明智と池田を制した。


 いや、今のかっこいいな!?


 「いや正直興味ありません。だって無我夢中でその朝倉何某さんを倒し私自身は吐いてしまいましたからね」


 「クハハハハハ!傑作じゃ!朝倉景紀・・・あの朝倉宗滴の養子ぞ。これは上手い!良くやった!褒美を取らそう!それと、木下!貴様にも褒美じゃ!黄金10枚と先より言うておった改名の件を許す!」


 「はっ。ありがたき幸せ!これより某は丹羽様の羽の字と柴田様の柴の字を頂戴し羽柴秀吉とします!」


 「ふん。良きに計らえ。長秀と権六にちゃんと伝達しておけ!」


 「その件はもう連絡済みでございます」


 「ふん。して、貴様は何を望む?」


 「お館様!この者は素性の分からん奴でございますれば褒美は不要でございます」


 「ほう。光秀は此奴の手柄を望まないと?」


 「はっ。恐れながらこの大橋なる者は信に値しません。お館様の姉婿たる重長殿と同じ大橋と騙り仮に関係がないにしても名字がある癖に官位もない。京の知り合いにも聞きました。ただ、奇妙な武器やらは持っておりまするがそれがいつお館様に向くか分かりませぬ」


 「チッ。これだからキンカ頭には配下が増えぬのだ!身分がなんだ!サルを見てみい!尾張の農民だった者が今やここまで成長したぞ?己の力でだ!」


 「いやしかし・・・」


 「くどい!もう良い!貴様は下がれ!褒美はなしじゃ!」


 「・・・・・・」


 「なんぞ文句があるのか?」


 「いえ。出過ぎました。失礼します」


 ほらみろ!ざまぁ!今こそ声を大にして言ってやりたいわ!


 「サル!池田!下がれ。竹中と貴様は残れ」


 「「はっ」」


 「して・・・光秀の言う事も一理ある。正直に申せ。どこの者ぞ?竹中とは親密そうじゃが?」


 「大橋殿?正直に伝えなされ。お館様は分かってくださる。何か咎があれば私もご一緒しましょう」


 「ほう。竹中も連座か?サル以外にそこまで言うのは珍しいな?何か感じるものがあったか?」


 「見てもらった方が早いと愚考致します」


 「ふん。なら見せてみろ!」


 小雪は外で待たせてるけど大丈夫だろうか。もう逃げてしまいたい。面倒臭い・・・。


 「庭の方によろしいでしょうか?お見せしますよ」


 そう言い、寺の裏の何もない更地に案内された。


 「お館様?まさか灯籠、鐘まで御所に!?」


 「そうじゃ。将軍は敵が来た時にすぐ味方に知らせれるようにと梵鐘を所望してな。そして暗くならないよう灯籠までな・・・。困ったもんじゃ」


 「確かに・・・困ったものですね」


 義昭が可哀想と思ってたが我が儘なのかな?


 俺はインベントリーから装甲車を出した。


 「おっ!?おぉぉぉぉ!!これはなんだ!!!?なんなのだ!?竹中!これはなんだ!!?」


 さっきとは打って変わってめっちゃ子供のようにはしゃいでいるんだが!?

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