俺・・・この時代に家がねぇンだわ

 次の日早朝に起こされた。


 「大橋殿!参りますぞ!」


 「あっ、竹中様おはようございます」


 「はよう顔を洗い支度を致せ!」


 やっぱ明智は嫌いだ。偉そうに!いや俺よりは確実に偉いと思うけど。


 「おはようございます。皆々様。この街道はお任せあれ。我らが浅井、朝倉を一兵たりとも通しませぬ」


 「朽木殿ご苦労。この事は必ずお館様に申しておく」


 「ちょっと大橋殿?よろしいか?」


 昨日の事か。何も知らない風にしておかないとな。さきさんとの約束だからな。


 「朽木殿?大橋殿も急ぐから手短にな?」


 「ちょっとこちらへ」


 隣の部屋に呼ばれ小さい声になった。


 「昨日の女子(おなご)はお気に召しませんでしたか?」


 「いえ、楽しませてもらったと言えば失礼ですがあんな、綺麗な女性中々居ませんよね。ありがとうございます」


 「実は某の妹なのですよ」


 「え!?マジで!?」


 「ま、まじとはどういう事か分かりませぬが本当です。おい!さき?来なさい」


 「失礼しまーー・・・・・暁さま・・・」


 「さきさん・・・・」


 そう。俺はこの、さきさんという女性に骨抜きにされそうになっている。演技と分かりつつも嬉しい気持ちになっている。


 「朽木家は京に近くて昔から京の政争や戦乱に巻き込まれておってな・・・某も一肌脱ごうと頑張っておったがどうやら某はこの谷を守るのに精一杯みたいでな」


 「な、何を言っていますか!?織田様にお味方すればーー」


 「よしなさい。織田殿の妹君(いもうとぎみ)程ではないですが某の妹、さきも中々に兄思いの妹でしてな。昔から朽木家のためならどんな男にでも嫁ぐと言いましてな?」


 「・・・・・」


 「そう警戒しないでいただきたい。単刀直入に言いましょう。妹から大橋殿の事聞きました。遠いとこからいらしたようで。さぞ寂しいでしょう。知り合いも一人しか居ないと聞きました」


 「小雪?聞いてるんだろ?出て来い」


 「う、うわ!なんじゃ!?」


 「暁様の護衛アンドロイド 課金額7万円 【H02型MK-2 護衛戦闘アンドロイド 小雪】です」


 いやわざわざ爆死した課金額は言わなくていいから。


 「護衛!?あんどろいど!?」


 「簡単に言えば、女だと思い手を出せば瞬殺される私の護衛です」


 「そ、そうであるか。その方が大橋殿の唯一の知り合いとか?」


 「端的に言えばそうです。そして元居た世界に帰れる手掛かりかもしれません」


 「大橋殿は帰る手段があれば帰るのであろう。朽木家も嫡流じゃなく庶流が残ると聞いたが潰れなくて良かった。某は朽木をでかくしようと思っておったがその器ではなかったようじゃ」


 「そんな事は・・・・」


 「かまわぬ。某は織田殿ような男ではない。ただの一豪族でしかない。だがこんな男でも妹には幸せになってもらいたい。これは贅沢であろうか?」


 「いえ、それは良い事だと思いますよ。好いた者に嫁ぐ事は幸せな事だと」


 「では大橋殿は構わないと?先に謝ろう。打算的な事は考えておった。できれば身籠れとも言ったやもしれぬ」


 「あぁ。その事はかまいませんよ。誰かも分からない私を泊めてもらったしあのようなご飯も食べさせてくれたし」


 「さき?ちゃんと大橋殿の言う事を聞くのだぞ?」


 「え!?どういう意味ですか!?」


 「うん?今しがた大橋殿も了承したではないか?」


 「さきさんの、好いた人って俺ですか!?」


 「さき?大橋殿が良いと言ったよな?朽木家というのは考えなくとも良い。正直に申せ」


 「・・・・はい。暁さまが宜しいならば・・・いついつまでも着いて参りたいと思います」


 いや、嬉しいけど歴史的には大丈夫なのか!?本当はこの人も別の人と結婚するはずだろ!?


 「暁様。私は否定も肯定もしませんが歴史の事は考えなくとも良いかと」


 「小雪は何か分かるの?」


 「どう考えても本来の世界と同じ歴史にはならないと愚考致します。枝分かれした世界に通じるかと」


 小雪が言ったのはこの世界に・・・所謂、タイムスリップした事象は説明つかないが既に装甲車で浅井、朝倉の兵を倒してしまい、朝倉景紀を倒してる事で史実とは違うと言った。


 「もし歴史の修正力というものがあればそれは瞬時に遺物を排除するでしょう。ですが何もありませんね」


 「確かにそうだけど・・・・」


 そこから更に哲学的な話になった。仮に俺が織田を倒し俺が天下を取ってもそれはその世界の歴史になるのじゃないかと。それこそ、百や千で効かないくらいの歴史世界があると思う。


 「ならこれもその一つのどれかと小雪は思うのか?」


 「そうじゃないと説明つきません。私がこの世界に現れている事も説明つきません。だからこれはこういうものなんだと思うしかありません」


 「何を言っておるか某には分からないが・・・・」


 「あ、すいません。こっちの事です。さきさんは俺なんかで本当に大丈夫なの?」


 「不束者ですがよろしくお願い申し上げます」


 やった!!俺にも春が来た!!!と言いたいけど俺・・・この時代に家がねぇンだわ。


 「ということなのですぐにお迎えに上がりますので暫しお待ちいただいてもよろしいですか!?半年以内に必ず迎えに来ます!信じてください!」


 うん。現代の男が女を捨てる時に言う言葉みたいだな。


 「半年以内とはどのくらいか分かりませんが・・・さきはいついつまでも暁さまをお待ちしておりまする」


 この顔だよ・・・反則だ。計算高い魔性の女かと思えば守ってやりたくなる女だよな。


 「では、さき?側室はあなたで正妻は私ですよ?覚えておきなさい?今は卯月・・・長月までには迎えに来ましょう。準備しておきなさい?」


 いやいつから正妻になったんだ!?


 「大橋殿!まだか!?」


 「は、はい!すぐ向かいます!ではそういう事なのでよろしく、お願いします!」


 「ははは!気をつけて行きなされ!」


 「さき?これを持ちなさい。500円のお守りだけど効果があるわよ」


 「小雪様・・・ありがとうございます」


 あぁ。ハズレのお守りね。500個くらいあるから別にみんなに渡してもいいけど。










 「行ってしまわれたか。さき?なんともないか?」


 「はい・・・・」


 「女の顔になったな。本当に惚れたのだな?」


 「暁さまの・・・・優しさと・・・寂しさに・・・」


 「うん?優しさと寂しさ?男女の情事を聞くつもりはないが何を言われたのだ?」


 「あの方はここに親類は一人も居ない。俺は一人だと言っておられました。帰り方も分からないと。その時に果てられました。そしてずっと抱きしめられ・・・キャァ・・・」


 我が妹ながら生々しいな。そして大橋殿は一人か・・・。


 「お前が家族になるのだぞ?朽木の事は考えなくとも良い。下がれ」






 「遅い!貴様は遅い!」


 いや何で明智は遅いと2回も言ったのだ!?大事な事なのでってやつか!?しかも本来俺を待たなくてもいいんじゃね!?


 「明智様すいません。朽木様と話しておりました」


 「分かったからはようせい!して、隣の女子(おなご)は誰だ!?」


 「私は暁様の護衛アンドロイド 課金額7万円 【H02型MK-2 護衛戦闘アンドロイド 小雪】です」


 「か、かきんがくななまんえん!?あんどろいど!?そ、それはなんじゃ!?」


 いやだから課金額は言わなくていいから!


 「ははは!明智殿?良いではございませぬか!大橋殿の面倒は私が必ず見ておきます故!」


 「おい竹中!貴様昨日ワシを騙してーー」


 「秀満?やめなさい。証拠がないでしょう」


 「ですが・・・・」


 「だからあれは朝倉景紀が襲ってきたと言うたではございませぬか。なんならこの首桶に入っておりますよ?本人に聞いてみますか?」


 いや竹中も煽りが上手いな?死人に口なしだろ!?しかも生首とか見たくないし!


 「もう良い!して、貴様はどうやって京まで向かうのか?まさかあのそうこうしゃなる物で向かうのか?あれはやめておけ。これより先は魑魅魍魎が跋扈する京ぞ。誰に難癖つけられるか分からんぞ?」


 「心配には及びません。私も馬くらいおりますから」


 俺はインベントリーから初めて・・・ではないけど超超久しぶりに赤兎馬を出した。


 「おぉぉ!」「これまた立派な馬だな!?」「赤毛の馬か!しかも大きい!」


 "もう!暁君!酷いじゃないのよ!!あんな場所に閉じ込めて!!"


 "悪い!悪い!おい!赤兎馬出番だ!ってか何で頭に話し掛けてくるの!?"


 "いや、わっちが話すと不都合が生まれると思うわよ?馬が普通人間の言葉話さないでしょ?"


 いや、案外普通に常識がある馬なのか!?初期の頃に乗ったっきりだったから性格までは分からないが・・・。


 「さて・・・では向かうぞ。貴様は最後尾だ!」


 「了解致しました」


 "赤兎馬!お願いね!"


 "そんな赤兎馬って種族の名前とか辞めて!可愛い名前にしてほしい!"


 確かにこれから乗る馬に失礼だな。名前か・・・。ってか、赤兎馬って種族の名前なのかよ!?初めて知ったよ!?


 "コナユキとかどうかな?俺の護衛のアンドロイドが小雪って名前だからその下って事で悪いけど・・・・"


 "やった!了解!今日からわっちはコナユキね!さっ!乗って!乗って!久しぶりに外に出られたから楽しみなの!"


 "ワテの事をお忘れか?横の牝馬程ではないがワテも中々に速いぞ?"


 "ごめんごめん!君ははじめましてだね?"


 "如何にも。ガチャのハズレ景品として運営に生み出されワテが出るとみんなに嫌われ売却され、保持してるプレイヤーは0.5%の毛並みも何も特徴のないワテです"


 えらい卑屈な馬だな!?確かに赤兎馬に比べると落ちるがこの時代で見ると立派な体高で良い馬だ。何で俺は持ってるかって?そりゃ〜コレクションだからだ!


 "君にも期待しているよ。護衛アンドロイドの小雪を乗せてくれるかい?そして名前は・・・疾風(はやて)だ!コナユキに負けない脚を見せてくれ!"


 "分かりました!今日からワテは疾風と名乗ります。小雪嬢?どうぞワテに・・・。ワテは紳士な馬でごんす。レディーしか乗せない馬と識者に定評があります"


 いやどこが紳士だよ!?女しか乗せないってエロ馬か!?識者って誰だよ!?

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