◯スカ大佐!?

 「これはこれは異な事。秀満殿はそこに転がっておる浅井か朝倉の兵に殴られてこの者と揉み合いになり救ったのですぞ」


 「クッ・・・。その場に居合わせたのは木下殿の兵達・・・この場はそういう事にしておきましょう。して、その者は何者ぞ?そして何をしにここへ来た?」


 「ゲェー・・・すいません・・・こんな場面は初めてで・・・。俺は大橋暁。ただの人です」


 「大橋暁?聞かぬ名だな?貴様は大橋重長殿の親族か?」


 「いえ、その重長様という方とは関係ありません。それにどちらかと言えばあまりあなた達と関わりたくありません」


 「なに!?関わりたくないと!?ではこの手柄はどうするのだ!?」


 正直どうでもいい。てか、帰りたい・・・。インベントリーは開くけどログアウトボタンやヘルプがないんだ。それにこの世界に来た元凶のアイテム【刻黄泉の薬】がなくなってるし・・・。帰れないかもしれない・・・。


 「おい!聞いておるのか?」


 「おい!先陣はどうした!?これは一体どういうことだ!?」


 「チッまだ追いかけてくるか。おい!大橋!お前の奇妙な技や銃を貸せ!」


 「え!?いやそれはーー」


 「者共!織田の殿(しんがり)は数騎じゃ!すり潰せ!」


 「おい!大橋!何故撃てないのじゃ!?」


 「死ねぃ!!!」


 そりゃ俺の課金アイテムだからな。俺に登録されてるからゲーム内で他人のアイテムを盗まれないためなんだよな。


 明智が斬られそうになるが俺はゲーム内課金1万も突っ込んで当たりを引いた風の精霊剣 ニンフの剣を抜き浅井か朝倉か分からない兵に素振りをした。


 この剣は風の精霊剣と言われる部類だが種類は刀になる。鞘は緑色だが。そしてこの剣の特徴は実際の斬撃は大した事ないが飛ぶ斬撃が出る。斬撃と言えば聞こえはいいが要は風圧波だ。


 よく見ると刃にエフェクトが出て風圧波が出るがカッコイイ。一撃では致命傷にはできないがリーチが長く20メートルくらいまで斬撃が飛ぶ。


 「うわ!?体が!?なんだ!?」


 「おい!?どうした!?」


 「分からん!風に斬られたような・・・胸当てが割れておる!?」


 「誰か知りませんが近付けば次は斬りますよ。それと明智様?それは俺しか使えません。今から見せます。寄ってください。それと竹中様もここに乗ってください。7人乗り装甲車なので中は広いですよ」


 「おぉ!!これは!見た事ない!見た事ないが素晴らしいと分かる!」


 「た、竹中!?お主は怖くないのか!?」


 「何故明智殿は怖がるのか!?大橋殿に今しがた助けていただいたではございませぬか!?それにあのような刀の型は見た事ない!修練を積んだ者は剣圧が出るとは言われるがあそこまでは・・・」


 うん。だって課金アイテムだから。とは言えないな。刀なんてまったくの素人だし。近付かれる前に殺る。これからはそれが重要だ。ってか、なんか俺順応早くね!?帰れないかもしれないのだぞ!?


 「分かった。ワシも竹中と同じように楽しむ事にする。では大橋!殺れ!」


 いや殺れ!って!?言われなくとも撃つけどよ!?


バンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッ


 「グフッ」「ガハッ」「うっ」「うわっ」


 「敵は銃を連射しておる!物陰に隠れーーグハッ」


 「ははは!我が軍は余裕ではないか!これならこのまま浅井朝倉をも蹴散らせれるぞ!」


 「うむ」


 いやなに竹中はしゃいでんだよ!?明智も『うむ』じゃねーよ!?弾倉も二つ使ってしまったぞ!?


 「申し訳ありません。弾に限りがありますの追撃は・・・。それにこれは金ヶ崎の退きの陣だと思いますがーー」


 「そうじゃ!そうであった!池田殿は!?池田勝正殿は!?」


 「おい!大橋!ワシを出せ!」


 勝手に入り出せとは我が儘だな。


 「この天井の丸いのを回せば出れますよ」


 「おっ、おう!」


 「明智様!」「殿!」「何故そのものに!?」


 「おい!半兵衛!」「木下様!これは素晴らしいですぞ!」


 「おい!これはどうなっている!?」


 「おっ!池田殿!お館様は!?」


 「今、早馬が届いた。無事、丹後街道を南下、朽木街道進み京に向かっていると聞いた。ワシらも早く退くぞ!」


 「良し!では我らも退くぞ!明智隊!急いで朽木街道に進め!大橋!大儀である!貴様もついて来い!」


 いや俺は一緒に行きたくないんだけど・・・。それに行くなら木下さんの方がいいんだけど・・。


 「明智様は急ぎなされ!木下様もはように!私はこの大橋殿と本当の殿(しんがり)を務めましょう。必ずこの者も連れて行きます」


 「半兵衛・・・ワシは其方が居らぬとーー」


 「なに言ってるのですか!秀長殿に笑われますぞ!?さっ、早く!」


 「うむ。すまん!半兵衛!大橋なる者!頼んだぞ!」


 勝手に話が進んでるけど俺一緒に居る事確定!?この装甲車があればまず大丈夫だと思うし、ここがリアルでもし史実通りならこれは成功するはずだけど・・・。いや安易に決めつけは良くない。なんとか帰れるように考えよう。


 「さて・・・敵の追手も動きが散漫し練度も悪い。良いのは浅井の兵だけじゃな。して、今の内に聞いておこう。貴殿が何者でも私はあなたの味方になりましょう。何者ですか?」


 「・・・・・・・・」


 「言えませんか。では私の話をしましょうか」


 竹中半兵衛は自分の生い立ちを言った。美濃国大野郡で生まれとか斎藤に仕えていたとか。何回かネットで見た事あるから知っている事だけど。なんとなくだけどこの人は理解してくれそうな気がする。


 「あの・・・あなたにだから言います」


 俺は簡単に境遇を言った。ゲームの事は未来の子供が遊ぶ玩具と例え、多少ズレはあるかもしれないがこの撤退は俺の居た世界では成功し、ここから木下藤吉郎は、メキメキ織田家で頭角を表す事を言った。


 「そしてあなたはこれから9年後に病気で亡くなってしまいます。確か肺炎とか結核だったような気がします」


 「なんとまことに、未来から来たと!?」


 「こんな話信じてもらうのが無理がありますよね」


 「いえ、私は信じますよ。貴殿が何よりの証拠。この見た事ない物、先程の刀、そして斬られたのに瞬時に治る薬。これを見て否定できる者は居りますまい」


 「ありがとうございます。ただ、私は帰りたいと思います」


 「然様でございますか・・・。あなたが居ればお館様の天下は間違いないと思うのですが・・・そう言えば貴殿の世界ではお館様の天下統一はなされますか?」


 さっきの明智に討たれて目前で失敗するけどこれはさすがに言えないな。


 「はい。まだしばらくかかりますが統一できます」


 「良き。良き。願わくば私の天命がある間に平和な世を見たかったですが後9年で日の本を平らげるのはさすがのお館様でも難しいでしょうな」


 オレはインベントリーから月夜草という名前の水を出した。俺がやっていたゲームはケーキや米、ステーキや薬なんかも色々あった。


 ゲーム内では怪我をするとか病気になるとか定期的に飯を食べる事をしないとどんどん筋力が落ちたりし戦いが不利になる仕様だった。正直ゲームでこの作業は面倒臭い。この一言だったが、この仕様のおかげで食い物や薬が山ほどある。今はこれがありがたい。


 「これは月夜草という名前の飲み薬です。回して蓋を開けてお飲みください。風邪でもないのに咳が出てからでかまいません。恐らく今はまだ健康だと思いますので」


 「え!?これを私に!?これで私は治るのですか!?」


 「えぇ。仮に結核でも肺炎でなくても病気なら治りますよ。怪我は治りませんが」


 「ありがとうございます!ありがとうございます!この竹中、貴殿の事・・・大橋暁殿の事は忘れませんぞ!」


 「そんな大袈裟な。私には大した事ではありませんよ。その薬ならまだ300個くらいありますので。なんなら代えの剣やら刀、ピストルまでありますよ。ははは」


 最後の武器は言うんじゃなかったと思ったが竹中は聞き逃さなかった。


 「剣や刀は分かりますがぴすとるとはなんですか!?」


 やっぱり聞かれたか・・・。


 「おい!お前達!!まさか第一陣も第二陣も全滅か!?追っているのは我らだぞ!?何故こんなにも被害が多い!?ここには何が居るのだ!?」


 「殿!あちらに見慣れぬ物があります!」


 「なに!?あれはなんだ!?」


 「分かりません!ですがあの周りに我が軍と浅井の兵が死にまくっております!」


 「えぇい!構わん!あれを壊せ!燃やせ!同胞の仇だ!」


 ガンッ ドンッ バンッ カスっ


 「お、おい!大橋殿!?大丈夫なのか!?」


 「大丈夫ですよ。さっき言ったゲームでなら消えない炎とかありますので燻り殺されたりしますし、駆動輪を壊されれば本当の置き物になりますがこれはリアルだと思いますのでまず大丈夫かと」


 「な、何を言っておるのかさっぱり・・・」


 「まあ、ほぼ大丈夫です。なんなら轢き殺してもいいし。まあさっき言ったピストル出しますね。見ててください」


 俺はイベントリーからピストルを出し竹中に渡した。


 これはゲームを始めた初期に貰える初めての武器で、刀、弓、盾、ピストル、槍、ボウガン、杖、この中からランダムで貰える物だ。ピストルが当たりのように思うが、ゲームでは実は一番のハズレである。それはただのピストルだからだ。


 ゲーム内では衝撃波やら刀も炎を纏ったり弓は音速を超えたり槍は土が盛り上がったり盾はあらゆる攻撃を弾いたりボウガンは射った矢に炎を纏わしたりもできるからだ。


 そして杖が一番の当たりである。杖は火球を出したり氷塊を降らせたりできるのだ。戦国ゲームなのにこんなファンタジー要素が多いのは賛否両論あるゲームだったがこれはこれで面白かったのだ。


 ただ・・・オレはリセマラすらせずに訳も分からず勝手に当たりと思ったピストルで始めたが。しかもこのピストル・・・弾こそ無限だが撃ちまくると銃身が徐々に赤くなり真っ赤になるとしばらく撃てなくなるのだ。まあ、ゲームでは銃は最弱だったけど。すぐに武器課金したっけな。


 「どうぞ。撃ちまくると血の色みたいになりますのでそうなる前に休憩する感じでお願いします。ここのレバーを引くと弾が出ますので」


 「おっ!こうでございますか!?」


 「ちょ!ちょ!こっち向けないでください!怖い!怖い!向けるなら敵に!!」


 「お、す、すまぬ!なんせ初めて見るからな!」


 パンッ


 「グハッ」


 「大橋殿!これは凄いですぞ!」


 パンッパンッパンッパンッパンッ


 「ハッハッ!見てください!敵が汚物のようだ!!はははは」


 何故か俺はこの無邪気な顔の竹中が言った言葉が現実世界のアニメ映画で、かの有名な○スカ大佐の言葉を連想してしまった。

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