第19話 風の姉弟と生霊⑦

───集中してグイッと腕をガッツポーズのように引いた。

すると目の前にノイズが現れ、次第に鮮明になっていく。やがてそれは見覚えのある馬車になった。

「お疲れ様ー」

見える位置に移動すると手を振った。

───バン!

ポカンとしているリーファルくんとオスカー殿下を後目にフリックくんがものすごい形相でこちらを見ていると思ったら扉を勢いよく開け、ゼロ距離でワナワナしていた。

「……どうなっている? ここはどこだ? 」

「そこ帝国」

指を指した方に少し駆けていくとすぐさま戻ってきた。

「……どうなってぐっ」

後から降りてきた殿下に口を塞がれた。フリックくん、大分混乱しているようだ。

「ものの5分足らずだなんて、君は大賢者だね」

「ホ、ホントに着いてしまったんですね」

三者三様の反応ありがとう。

「まぁ、中と外では時間経過が違いますからね。実際は1時間ほど掛かっています」

「時間の流れが違うのか。不思議だね」

なんか嬉しい。疑わず、固定概念を押しつけられないこの感じ。安心する。

「先に報告があります」

「聞こう」

あたしは出来る限り掻い摘んで話した。リーシャルちゃんは生きていることと、大きさに反してやけに人が少ないことだけを。悲惨な話をリーファルくんに聞かせたくなくて。

「あと、お城みたいな建物があって、ちょっとそこは調べるのは黒いモヤが見えるしわ危険なのでやめときました。地下がありそうなのはそこだろうなとは思うんですけど」

あたしが説明が下手なのは自覚しているから話せる範囲だ。

「いや、そこまで調べられただけでもすごいよ」

「問題はそこにどうやって入るかだな」

流石に難しい。現地までショートカットしたものの、この後のことになると気が重い。そもそも中に正攻法で入るとしたら大変かもしれない。強行突破するにも負担が大き過ぎる。穴から強行突破するとしたら、あたししか入れない。正面突破するとしたら、向こうの王様に話を通さないとならない。

あたしに期待半分、でも丸投げするつもりはない。そう考えているだろう。あたしも一任されても困る。王太子の特権を使ってもすぐ壁にぶち当たりそうだ。あのモヤの感じからして、一筋縄では行かないだろうなあ。

あたしの専売特許の口も異形専門だからなあ。

「マーチ殿は戦いにも明るいのか? 」

「ただのレイスならばぶん殴れますけど、専門は交渉ネゴシエーションなので」

「……レイス殴り倒せる時点で規格外チートだろうよ」

「人間相手の方が手間がない分、純粋に倒せるけども。レイスともなれば能力使いながらだから───一歩間違えば暴走する可能性がある、あたしがね。規格外チートって言うけど、デメリットもかなりあるんだからね」

普通に話せてはいるが、まだ先程のダメージは消えていない。

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