第17話 風の姉弟と生霊⑥

「……よいしょ」

時間の流れが遅いとはいえ、のんびりはしていられない。重い腰をあげると右に向かった。確か馬車は右手にあったから。

「あっだっ! 」

ライトを当てていたはずが、頭をぶつけた。なんで?! 細い柱が一本。間近で見ないと分からないくらい溶け込んでいて……。ライトの光さえ貫通するものがあるだろうか。あやしいな。

霊視チューニング

柱のデータを読み込んでやろうと霊視チューニングした瞬間、明るくなった。

「?! 」

思わず臨戦態勢に入るが……。細い柱が中心にあるだけの真っ白な真四角の空間しかなく、違和感を覚えた。あの長い回廊は? 穴はしっかりある。この空間はあたし専用だけど、謎だらけだ。……真っ直ぐ歩いていたつもりがぐるぐる回っていたのだろうか。真っ暗闇では真っ直ぐ歩こうとも感覚が麻痺する。たぶん、最初にこちらを探していれば時間を浪費することは無かったんだろうな。騙されたようで悔しい。霊視チューニングしているから危険はない。……霊視チューニングしたからこうなった? 霊視チューニングはあたしにになるように調整されるのだから。向いている方に向かい、壁の前に立つ。

霊視スキャニング

高速でスキャンして行く。レイユーシアも把握していないからか、この国が大きく感じる。流れるように街並みが見える。こちらも違和感を感じた。子どもは元気だが大人はそうでもないような。それに───やけに人が疎らだ。大まかな地形把握だけど、薄ら建物の中も見えていた。先程の分厚い石の壁ではないから軽くやるだけで大体透けて見えるわけ。少しキツいけど距離感バグらせれば馬車に近い壁を見つけられるはず。正直可能なだけで中から穴を開けたことは無い。……違和感を覚えて見渡せば。

(やっぱ地下か。目線低いなとは思ったけど……待ってなんか見えた───)

高くそびええ立つ廃工場の様なシルエット。あれはたぶん、お城、かな。国民の皆さんは見えていないだろう。黒いモヤで周りが囲まれていて、今霊視スキャニングしたら大ダメージの予感しかしないからやらない。さて、外壁の外なら問題ないはず。あたしの目に映ったものは必要なものならスクリーンショットのように欲しいデータを保存、整理が可能。あまり多くはファイリング出来ないから済んだものはシュレッダーにかけるが如く消えている。脳が見たものを記憶しておくのとはちょっと構造が違う。あれは美化されたり、ぼやけたりするからね。アルバムのように気軽に開けるものでもないし。前置きが長かったけど、要は馬車のデータを引っ張り出す。

(……穴開けてからで良かったのでは)

たまに要領が悪い。一旦片隅に置いておいて。

(隣接してるのは丸〇屋じゃなかった、マルミアだっけ? 境に森があるな。そちら側の森のちょっと入ったところなら目立たなくない? そこに繋げよ)

霊視チューニング、オープン! 」

これは明らかに適当に言った。ぐにゃりと歪むと穴が開く。全てを切って……。

「脱出! 」

穴ってダンジョンみたいだよなって毎回思う。構造からして全く違うけど。

「データ引っ張り出して……転移テレポータル

これは真人も使える共有能力だったりする。……あたしはうっかり、近い能力のあるやつを思い出してしまう。

(アイツはダメだ、会いたくない)

頭を振り、集中してグイッと腕をガッツポーズのように引いた。

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