第16話 風の姉弟と生霊⑤
───ストン。
思ったより深いし、真っ暗。あたしじゃなかったら……いや、あたし以外入れないからいいか。穴が大きいからか、外からの光が遠くに伸びている。かなり奥までありそう。───時間はある。向こうで開けまくった穴。処理する度にざっくり統計を取っていた。入ったら大体処理まで済ませる。二時間、三時間くらいはざらに掛かっていたはずだった。出てくるとみんなびっくりするんだ。五分も掛からず出てきたと言われ、時間の流れが違うことを知った。体感だから長く感じたんだと思われ、誰も信じてはくれない。測れるものがないから証拠もないし。あたしが滅茶苦茶すごいって思われがちなのはそこにあると思う。もう1人くらい入れる能力者が現れてくれたら少しは過剰な評価も落ち着くんだけどな。
外勤メインが4人しかいないから大体分けられてたし、真人たちはサポートなんて無駄遣いさせるべきじゃない。保険のつもりが総動員。ほかの六人と上司は内勤だし。圧倒的に人員不足。
溜息をつきながらスマホのライトを頼りに歩くけど、左右も奥行もわからない。右に左にライトを向けるても壁らしき突き当たりが見えない。ひたすら転ばないように歩くしかない。地図上で遠いとは言え、この空間まで長くなるわけではない。
(直感でわかってるのは、長い、広いが相手の能力に比例している可能性があるってことね。それ以外にもありそうだけど、自分の体感しかデータに出来ないからわかんない)
……30分は歩いただろうか。考えるのもだるくなってひたすら歩いていたわけだけど。
「ついに行き止まりに来たわね。異世界だから規模もデカイ! ……と、臭いも強くなってる。この向こうにマデリンちゃんがいるのは間違いないわね」
さっさと片付ける手もあるけど、フリックくんが煩いから出来ない。
「アレしかないかぁ」
あまり使いたくは無い。いつの間にか出来るようになっていたもの。回数こなしてないからこわい。
「
壁に手を当てる。一瞬後、あたしの目はカメラのように壁の向こう側を透かし見ることに成功した。壁を通しているからバレることはない。
……あたしはそこで、異様な光景を目にした。場所はファンタジーによくある天井の高い薄暗い石造りの地下だ。柱が何本も立っていてかなり広い。でもあたしが見た異様な光景はそこじゃない。
色々な階級の人が生気なく倒れている。ゾッとした。たぶん、彼らは生きてはいないだろう。魂のある人にある光が見えない。あたしは必死に生者を探した。すると奥の方の高い場所に玉座があり、その横の下の死角に光が見えた。必死に拡大した。
(?! リーファルくんと同じ顔! 女の子! リーシャルちゃんだ! )
彼女は生きている! それだけですごく安心した。意識は無いみたい。だけど同時に不安も
(……マデリンちゃんはどこ? )
周りを見てもマデリンちゃんらしき女の子は見当たらない。倒れている人の中にいる? ならば見逃すはずがない。小さな光でもあれば見つかるはず。臭いはするのに何故? 隈無く見てるはずなのに。確認しないとダメなのに。
───ズキ。
頭が痛み出した。慣れない使い方をしたせいだ。早く情報を集めきらないと。
ふと左手に扉が見えた。よく見ないとわからないくらい溶け込んだ扉だ。
(ええい! ままよ!
頭の痛みが更に酷くなるけど気にしてられない。
フォンと視界が変わる。中は急に狭くなり、大きな石のベッドがあった。そこに横たわる生気の極端に薄い少女を見た。あたしは何かを感じて能力を中断する。
「はぁはぁ……。一歩、一歩遅れてたら気がつかれてたかも。あれ、肉体を手放す覚悟で
あたしは少し休むことにした。使い過ぎて動けない。バレない位置を探して穴開けて引っ張らなきゃならないし。そっちは左右どちらかの壁を見つけられたらすぐだから問題ない。国を測る方が楽。
ズキズキする頭をもたれさせながら目を閉じた。さっき見た光景が酷過ぎて目の裏で消えない。ここでは保護より処理になりそうだな。
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