第15話 お歯黒さま⑥

「2人にだけにして大丈夫でしょうか」

「『オハグロサマ』にいいところを見せたくて頑張る2人ですから大丈夫ですよ」

キャスリンに真智の真似をしろと言っても、丈琉もよく知らない。かといって沢渡はもっと知らないだろうからこれくらいで騙せるはずだ。キャスリンには丈琉だけに目線を合わせるようお願いした。視界の端に沢渡を確認しながら気がついてないふりをする。

「まぁ、私たちがいても聞いてくれませんから。私たちはどうしますか? 」

「村の散策などどうでしょう? 」

「そうですね。案内して頂いただけで中まで入っていませんし、お土産物でも探しに行きましょうか」

「『オミヤゲ』! 行きましょう! 」

沢渡がこちらを気にしているのは感じていたが、ついに視線を離し、どこかに向かった。

「……に行ったようですね」

「上手く行きましたかしら? 」

「こちらの思惑通り動いていてくれたらいいのですが……」

向かう先は『お歯黒さま』の居住なら当たりだ。まだ視界からは消えていない。お店を物色する風を装いながら動向を目で追う。様子からはこちらを意識していないようだが、まだ自分たちが向かうには警戒が必要だ。沢渡だけではなく、周りの住民たちにも怪しまれないようにしなければならない。

(……この違和感はなんだろう? 沢渡が離れたら他の人たちが全くこちらを見ていない。まるで映画の世界に迷い込んだような)

沢渡はと言うと、周りを気にしていないのか、真正面からではなさそうだが確実に『お歯黒さま』の居住に向かっている。

(向かう先は───裏手? )

自分たちの視界から外れるようにして移動している。そもそもこちらが気がついていないと思っているはずだ。尾行に気が付かれないように話している風を装い、視界から外さないようにする。

「少し森に入りますか」

村は別段、囲いがあるわけではなく、森に囲まれている。木に隠れたら彼の視界に入らないはずだ。おあつらえ向きに一本一本が太い。2人を隠すにはちょうどいい。暫く隠れながらついていくと案の定、『お歯黒さま』の居住の裏手で立ち止まる。キャスリンを制止し、様子を伺った。何度が周りを見渡しているようだが、気が付かれた様子は無い。

「『ヨリコ』、俺だ。……男が2人いるな? 。大丈夫だ。残りのふたりは呑気に散策をしている。いつも通りやればいい。は? 浮気? そんなことはしないさ。言い掛かりだ。俺たちはじゃないか」

やはり、彼が『旦那』で当たりだったようだ。

「耳を貸すな。おまえを連れていかせはしない。4だ。その2人も

要するに村人は『お歯黒さま』の能力で無理矢理住人にされてしまっている。違和感の正体はこれだったのだ。

「危険では無いですか? 助けに行かないと」

「お二人はそんなやわではないですよ。洗脳には1週間以上かかるようですね」

幽閉場所を見つけるまで動かざるべきか悩んでいると、手前の方の森に人影が見えた。マズイ、あちらからではこちらが丸見えだ。どこか隠れる場所は……。そうこうしている間に、人影の正体が見えた。

「?! 」

まさかそんな───。

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