第13話 風の姉弟と生霊④
こちらは妥協案が出ず、難航していた。
「早く行かないと! リーシャルちゃんが心配じゃないの?! 」
「精霊さんに負担を掛けるわけには行かないのです! 」
「だったらあたしが引っ張る! 」
「そんな無茶苦茶なやり方が通用するか! 」
「出来るから言ってるんじゃん! 」
堂々巡りである。
「地道に10日掛けていくなんて絶対却下だからね。嫌ならちゃんと打開策考えて、すぐに。時間ないの」
「無茶苦茶言うなよ」
「フリックくん、無理としか言わないじゃん。無理じゃない方法あるの? 」
「ぐっ……」
1人封じ。
「リーファルくん、精霊さんに負担掛からない方選ぶしかないんじゃないの? 」
「精霊さんかリン姉さまの体かなんて選べません、どちらも大事なんです……」
案はなし、2人目封……。
「そういじめてやらないでくれないか」
「では、殿下は何か案がありますか? 」
助け舟を出したつもりだろうが、良識人であっても容赦はしないよ。
「う~ん。行き来することが無かったからなあ」
「経由出来るポータルとかないんですか? 」
───ブゥン。
殿下もシグナルフィールドが使えるらしい。
「最新の地図がこれなんだけど、エアダール帝国までに5つの国が隣接している。我がレイユーシア国とエアダール帝国が大きいから小さくみえるけど、カルミア聖国とミルドレア国、フラッド遊牧国とサルバルシア国にマルミク国。前者二国は同盟で、後者三国は不可侵条約国なんだ」
覚えられません。
「と言うと? 」
「カルミアとミルドレアは馬車移動すれば3日はかかるけど、転移ポータル許可が得られれば経由でショートカットは可能だね。3カ国が1日づつ掛かるし、サルバルシアとマルミクは海に面していて、ぐるっと回らなければならないから海域状態で3日~4日……」
うーんと、残りは経由待ったなしでショートカット不可?
「普通に行くにはちょっと時間が掛かり過ぎますね」
目に見える範囲を
「……殿下、海で迂回しないルートのだだっ広いここはつかえないんですか? ほら、カルミアの後ろから行ったら明らかに最短なんですが」
沈黙が流れた。
「あー、そこは……」
「そこは? 」
「砂漠だよ」
「昼間は暑くて夜は寒いアレ? 」
「そう。そちらの世界にもある? 」
「ありますね。なんなら四季しっかりある国内にもありますね」
「馬車では行けないよ。砂を上手く歩けないし」
ふむ。
「こちらの遊牧国さんが草原ぽいから、砂漠にも別の遊牧の方がいる、とかないですか? 」
「どうだろう? 実は全域は分かってなくて、見渡す限り砂だから表記がそうなってるんだよね」
未開の地……。
「距離も分からないと? 」
「うん、エアダールとは陸すら違うし、こちらの方も全貌が分からない。何せ行き来があまりないから」
地図完成されてないじゃん……。
「もしかしたらもっと国があるかもしれないと」
「そうだね」
一方通行しか整地されてないじゃん。どうすんの。もう、強行突破しようよ……。
「オスカー殿下、ダメです。マーチの頭は強行突破しか考えられなくなっています……。止めてください。キャスリンの負担になりかねません」
ここぞとばかりに出てくんな!
「良い策浮かばないのに何言ってんの! 」
「その、『強行突破』って? 」
「あの開けたら閉じる方法がない穴にあたしが入ったら多分、中でどこか穴開けたら直でエアダールのどこかに繋がると思います」
「ほら、既に不安要素しかない説明するんですよ。直感で動くタイプです」
それのどこが悪いの?
「それで? 」
「皆さんには馬車待機をしてもらって、出た先に馬車ごと
「どこに出るか分からないのに危険です! 」
ピンポイントで煽るな!
「
「……やっぱりマーチ殿は大賢者か何か」
「今はそこは考えては行けません! 」
「でもさ、キャスリンだったらどう答えると思う? 」
キャスリンだったら? あたしの話に全幅の信頼を寄せてくれる、んじゃないかな。彼女の兄だったな、この人。
「それは……見たがりますね」
フリックくんは肩を落としていた。
「未知を全力で愛する方です……」
目を逸らすリーファルくん。
ほらあ、君らの大好きなキャスリンはきっとあたしを100%支持しちゃうわよ? ドヤ顔。
あたしは完全勝利したも間違いない。ありがとう、キャスリン! ありがとうオスカー殿下! パパはアレだけど、貴方たち兄妹はあたしの味方ね!
「急がなきゃならないのは確かだよ。わざわざ
「あたしもそこの仕組みはわからなくて、あたし以外は出入り不可なので万が一向こうからこちらに何か出てくることは無いはずです。塞げないだけで」
「……塞げないって、穴だらけになるだろ」
「一部地域が実際そうなってるわね」
「しれっと言わないでくれ」
「閉まんないんだから仕方ないじゃない」
解明出来る人が課にいないので、あたしの扱いに困っているのは確かだろう。処理済みの穴なので封鎖はせず、カモフラージュ的な何かを施してるとか何とか。(聞いただけで見に行ってない)いづれは塞げる力を持った人が現れたらいいなぁとは考えてはいるよ。(他力本願)
「
「殿下は楽観し過ぎです! 」
「こっちでもたぶん、無害よ。たぶんあたし専用のゲートだから」
「たぶんばかりじゃないか……」
「だってはっきりわかる人いないんだもん。実践させてくれてもいいじゃない」
分かってるよ。キャスリンの体でされるから嫌なんだって。でも、仕方ないじゃない。今動かせるのあたししかいないし。
「聞かれるより、出来ることを伸び伸びやってくれた方がいいかな。きっと悪いようにはしないでくれるよ。何だか面差しが妹に似ていてね」
「体はキャスリンです! 殿下しっかり! 」
……真っ当そうに見えたの勘違いだったかな。
「あたし、25歳ですけど」(本日二回目)
・・・。
「……どうしよう。同い年だった」
え? マジ? さっさと嫁見繕ってパパ
「殿下の許可があればやっていいですね? 」
ふざけてる場合じゃなかった。早くリーシャルちゃんを救わねば。使命感バリバリバリ3よ。
「……殿下、責任取ってくださいよ」
「背に腹はかえられないね。父上の許可を取るのは
信用ないなー、あの人。終わってあたしいなくなってから説明してください。(関わりたくない)
さっき
「殿下だけちょっといいですか? 2人は先に馬車乗ってて」
「除け者か? 」
「違う違う。無駄嫌いでしょ? フリックくん」
「う……」
「予防線張りたいだけだから、ね? 」
「後でちゃんと聞かせろよ? 」
「はーい」
リーファルくんが心配そうだけど、小さな子に不安を残したくない。2人が向かったのを見届ける。
「……で? 俺に何かな? 」
「はい。あの穴自体は無害なんですが、その先、奥を突き破ったらすぐマデリンちゃんがいる場所のはずなんです。でも、『異様に静か』なんですよ。警戒だけはしておいて下さい。あ、だけど戦うのはあたしだけになります。何せ、『レイス』なのでこちらの国の方は戦えないんですよね? 」
「そうだけど……、戦えるの? 」
「あたしソレ専門家なんで。戦わずに済む方法を最優先に考えますから。もしものときです。真っ先に
「女性に戦わせたくは無いけど、専門家なら仕方ない。無理はしないでね」
ガチもんの王子様だな、拝んどこ。
「では、馬車でお待ちください」
あたしは穴に足を掛けた。お行儀が悪いとは言ってられない。
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