第12話 お歯黒さま⑤

「……『お歯黒さま』。もう一度話を聞いて欲しいっす」

扉に手を当てるだけで叩けない。

「あんたの『旦那』を見つけた。答え合わせといこうじゃないか」

丈琉とキャスリンは数歩下がった位置にいた。

「……幻覚でしょうか。おふたりが花を背負しょって見えますわ」

「あながち幻覚でもないんじゃないでしょうか」

明らか口説きモードの2人とついていけない2人。

(壮年夫がいる女性に思いを寄せる2人のイケメン男性、てだけですごく現代女性が食いつきそうではありますが……)

現実は………。


───ギィ。


徐に扉が開き、暗がりの奥に人の気配がする。否、異形である。

『ダンナ様はドコに? 』

ユラユラとしていた。形を保ちきれていない。言い知れぬ違和感を感じた。

「……『沢渡兼悟』、サンで間違いないすか」

『!! 』

おっさんがライバルで複雑なのか眉間に皺を寄せている。否、異形相手なのでライバルは多種多様。然れば彼のそれは『我慢』だ。変わらないままならここで暴走していただろう。彼だって変わりたいのだ。だかそれ以上の言葉が紡げない。きっと頭の中では飛び出したい気持ちでいっぱいなのだ。

「俺たちを案内してくれた男性が彼だ」

「すごく、親切だったっす」

『ケンゴ、サン……』

ピタっと動きが止まる。

「お伺いします! 少し前に4人組の若い男性を見ませんでしたか? 彼が案内して来たと聞きましたが」

関連づけで聞いてみようといだのはまさかの丈琉だった。大本命の仕事にかすりたいのは分かるが。

『……キオクがアイマイで、いつかはワカリマせんガ、時折男性が訪ねテ八来るノデス』

普通に話してくれた。

「時折男が……」

2人の顔がものすごい顔ことになっている。

『普通のお話ヲしてクダサルのデスガ、途中カラ”ダンナ様”の声ガスルノデス。気がつくとダレもいないノデス』

違和感の理由が少し開けた気がした。。これが確実ならば沢渡は真っ黒だ。

「丈琉、キャスリンを視界に入れないまま、この場から一旦離れろ」

「それは危険では……?! 」

「居なくなれって言ってんじゃねぇよ。

「……はぁ、分かりました」

丈琉は深々とお辞儀をした。

「『お歯黒さま』、私は失礼しますね」

メガネオタクイケメン退場。扉閉めた。

「姫、沢渡さんのところに行きましょう」

「? はい。大丈夫ですの? 」

扉を閉めたことを言っているのだろう。

「閉じ込める等はなさらないですよ。失言は真人さんがいますし、梨翔さんも頑張ってますから。姫は私に合わせてください」

足早に沢渡氏が見える位置まで行く。

「ここからは話しながら行きましょう。半分くらいになったら作戦開始です」

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