第10話 舞台裏にて①

「ちっ、携帯灰皿忘れた」

島袋幸成はタバコを加えてライターと携帯灰皿を探し、ライターのみ発見されると舌打ちをする。

ズイっと錆びた缶を差し出された。

「あんたが島袋さんだろう? 」

「あ、櫛田さんですね。お世話になってます」

「……俺は詳しくは無いが、甲斐さんと川口さんの話が聞こえてきてなぁ。あんたを外勤出来ないと言っていたが……あんた元々前線にいたクチだろ? 」

島袋は黙っていた。火をつけ、ゆっくりと吸い始める。

「でなきゃ……ここまで来ない」

フッと煙が漏れた。

「───アイツらからしたら大したこと出来ないですよ」


────島袋幸成。常にサングラスを手放さない。20年前に協力した能力者の1人。元は神社の次男坊だったが、長兄より優れた能力を隠し、面倒を避けた。その為、匿名希望として実績も知られていない。全ての生き物の中に数字が見え、演算化された世界の中にいる。ほんの少しでも相手の演算式不備があれば侵入・論破・撃破が可能。すべてである。一度ひとたび 彼の視界に入れば隠し事もできない。10年前の変動時に負荷により一部脳を損傷。以来、特殊サングラスにより遮断し、舞台を下りる。


「外勤よりに向いてるんで、間違いじゃないですね」

サングラスを外し、島を睨みつけた。

40をとうに過ぎているはずだが、シワもなく若々しい。この部署は顔で選んでいるのかと思われるくらい、島袋も美が過ぎた。金髪オールバックで少しプレイバック感があるが……。

(思った通りだな。島全体は薄っぺらいが1箇所だけ集合体がある)

眼孔がカメラのように動く。

(異形と……変な被ったやつがいるな。人間が被る皮なんざ繋ぎ目があるんだよ)

この距離をものともせず、更に回る演算式を高速化させて行く。ミクロサイズの隙間を見つけた瞬間に切れ目が入る。崩れるように他の演算式があらわになった。

(ビンゴ! こりゃカテえわけだ。いくつ壊しゃいいんだ? )

島の外皮からならバレないだろう。

(俺の予測演算もドンピシャだったし、終わる頃には『ハゲ島』に戻っちまうかもなあ。……ん? なんだ、今の)

違和感を感じて正体を探す。

(咲華楽? ……何だよこれ……。ねぇ繋ぎ目とかあるかよ?! しかも変な呪文みたいな文字になってっし、ことになってっし何なんだよ?! )

演算式は動くが中の文字が読めない。首に手の形の様なの演算式が止まっている。まるで別の未知の何者かが彼女の中にいるかのようだ。

(可愛い後輩を死なせたら元も子もねえだろ……)

サングラスを掛け直す。

「……櫛田さん、3度目の出航頼みます」

「あんたも帰ってきてくれよ」

「アイツらを連れ帰るために俺が行くんです」

頭の片隅で微かな痛みを感じた。持参した大きなアタッシュケースを開けると───。

「……あんた、逆に死にに行くつもりか? 」

アタッシュケースの中身はすべてモンスターエナジー。彩りも豊かに入っていた。エナジードリンク、栄養ドリンクは1日一本を推奨しており、連続摂取も効果が切れる6時間空けてからの摂取が求められている。24時間フル活動したとして、4本までである。それ以上の摂取は死に至るので抑制するようにお願いされている。強制は出来ないが死亡ニュースも少なくは無いので、販売会社さんにも迷惑になるので、用法用量を守って飲みましょう。エナジードリンクはジュースではなく、栄養補填剤である。コーヒーなどにも含まれるカフェインが多量に含まれており、カフェイン過多で毒に変わる。薬も飲みすぎたら毒になるのとおなじだ。

「俺の能力は神経使うんですよ。燃費が悪いですよね」

「彼らだけ帰ってくるんじゃ意味が無いからな」

「……了解しました。人生の先輩には敵いません」

アタッシュケースから5本取り出し、アタッシュケースを預けた。

「これだけで終わるよう、エンジンかけていきます」

「だから一気飲みするなと言っとるんだが……」

島袋もやはりまあ脳筋らしい。

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