第9話 お歯黒さま④

『『お歯黒さま』! そう! 梨翔が居るから分かるよ! ! 』

キャスリンの目の色が変わった。レイユーシア国の人は触れないから、物理も魔法も効かないレイスに怯えていた。触れるなら?

「触れるのなら、魔法が効きますわね」

『待って、倒すのが仕事じゃないの。お歯黒さまはすべき対象だよ』

「何言ってんすか! 真智パイセンは殺されちゃったのに! 」

『あらあ? お歯黒さまと結婚したいんじゃなかったの? 』

「う……、『危害を加えられ、危険と感じたら処理をする』決まりっす、ぐすっ」

報われない。

『あたしはここにいる。殺害に失敗したと仮定しなさい。まず、こと。きっとそれがキーになる』

旦那という盾があれば同じ目には合わないだろう。

『真人はいざって時の活路を開く担当、丈琉さんは結界師だったわね。いざって時は張って。梨翔はその感知能力をフルで起動していざって時がないようにキメなさい』

「あの、私は……」

『初めてだろうから、まず相手に触れるとこから。霊視チューニングって言えば体が反応する。そしたらはずよ。何をすれば良いのかをね』

ハッとする。

に合わせる。の土俵に強制的に上がらせ、霊視チューニングしたらこちらのカチカク……?」

『よく出来ました。勝ち確は勝ち確定。よし、次はどちらか解決したら連絡しましょう? すぐ行動しなくちゃ。じゃねえ』


───ツーツーツー


「次繋がるかわからねえのに気楽なもんだよ」

「……きっと繋がりますよ」

「なんでだよ? 」

「あのスマホ、なんでと思います? たぶん、ついさっきまで姫の首にぶら下がっていたんです」

「自ら……飛んでったとでも言うのかよ? 」

「だって、霊視チューニングしたっていってらしたじゃないですか」

「て、その時? 」

「あの型、廃棄型なんですよ。10年近く前のはずです。システム更新などで容量が足りていないはずなのに動いていた……」

「本来ならもうご臨終しているはずのスマホを使い続けているって言いたいのか? 」

「ええ」

「だったらアイツ、携帯代支払い続けてるの無駄じゃん~」

茶化す真人に丈琉は溜息を着く。

「だから、霊視チューニングで形を保っているだけの、あれも一種のレイスなのかもしれません。真智さんのための」

「意志を持つってか? 」

「……だったら、本当の相棒はあのスマホっすね」

解散してどこかに行っていたはずの梨翔が帰ってきていた。

「そう悲観しないでくださいよ」

「そうだぞ。みんな最初はお荷物みたいなもんだ。アイツだってあんなにテキパキしてたわけじゃねえ。何の相談も説明もしないで、ゴリ押しで解決してやがった。同期なのによ? 完全に自分の力把握して上手く使えてるかもしれねぇけどさ。大体のやつが経験で、使っていく中で、力を把握して上手く使えるようになってくんだよ。表に出てやってる時点で体力と精神力削る仕事してんだ。1人だとどうなるか……わかんだろ? 」

自分たち能力者も1人の人間で、メンタル管理まで1人でできる訳では無い。普通の企業では当たり前に自力でやらねばならないが、それだって危うい。更にこの仕事は能力暴走も少なくない。自己判断が命取りになる場合だってある。人間は往々にして無理をしがちだ。できると分かれば限界まで頑張ってしまう生き物。真智は典型的なそれだ。人の何倍も視えるし、予測演算も早い。それが仇となる場合も少なくない。真人は何度も見てきた。止められるほど彼女のことをまだ知らなかったし、あの行動力は常軌を逸していたため、手も足も出なかった。離れて友人となってやっと知り、見えてきた本質。彼はそれがよかったと思っている。彼女と組んだことは間違いではなく、必要経験だったのだと。離れてから丈琉と組んでからは仕事が絡むことはなかった。おなじチームだから近況はわかる。何度もマッチングを繰り返しては相性がいい能力者を選定していた。真智の能力は必要不可欠だったから。段々柔らかくはなったが、梨翔に辿り着くまでは皆数ヶ月と持たなかった。能力の差に悲観して実力を出せない者、実力差で嫉妬をしてメンタル不和で迷惑を掛ける者など様々だった。1年続いている梨翔が真人自身よりも合っていることは明らかだ。言ってはやらない。意地悪などではない。ほんの少しの嫉妬と、彼がそれに自分で気がつかねばならないことが理由だ。今はまだ、大人としても未熟だと分かっていているはずだ。相性のよさはが出来ること。無意識に他人主義病を発動させればいい。だから必要なのはワガママな人間だったと今ならわかる。ただワガママではなく、人間味と伸び代が要求される。彼ならばそれを利用したあざと作戦が出来るはずだ。勘が誰よりも鋭い利点を利用することにより、より良い着地点が目指せる。今のままでは無理だけれども。

「相棒っていう存在は、自分に無いものを補い合うために存在します。恋愛だとしても、仕事だとしても、ですよ」

「2年目のくせにアイツに躊躇なくワガママ言える時点でイカレてんだろ」

ニヤリと笑う。

「んで? 首尾はどうよ? コミュ力おばけくん? 」

「……沢渡のおじさんが怪しかったっす。なんか要領得ない感じで、はぐらかそうとしてたんで。知ってそうな高齢者やおじさんおばさんも。話しぶりから沢渡のおじさんがグレーすね」

「私も聞いて参りました。村の方々は大半の方がオハグロサマの所在を方々ばかりでしたわ」

話している間にキャスリンも向かっていたようだ。

「『お歯黒さま』の所在を知っている人は少ない。こちらの動向を気にしてか、やけにお喋りになっていましたね」

「……当たってみるか。砕けたくは無いがな」

「当てずっぽうにはならないっす」

真智の安否を知ってたからか、梨翔がハッキリ言う。

「俺の勘が沢渡のおじさんだって言ってるっす」

そろそろ2回戦目を始めよう。

「あー! あのクソ上司、丸投げしやがって! 」

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