第8話 風の姉弟と生霊②
あたしが手を伸ばした先には何も無かった。だが、暫くすると不自然な動きで空間が歪み始める。まるで、いやいやをするかのように。
「なんだ、ソレ……」
あたしの
今回も盛大に青ざめる人が2人。
「これくらいかな。一人で行くから着いてこないで。て、ついて来れないんだけどね」
空間に手を掛け、片足を乗せたところで肩を掴まれた。
「いやいやいや、なんでだ。ついて行かないとだろ」
「無理なんだってば。あたししか入れないから」
「出来るようにしろ」
「出来るわけないでしょ、勝手なこと言わないで」
「勝手なことをしているのはおまえだろう」
堂々巡りなやり取りをしていると裾を引っ張られた。
「あの……場所ならわかります」
本当は行きたくない、そんな顔をしている。
「ぼ、僕が行けばっシャル姉さまは解放され、るはず、です……」
相手はファルを一方的に好きなんだろう。こんな嫌われるやり方をしてでも。しかし、さっきの話と辻褄が合わない。
ここには怨念の気配が色濃く残っている。さっきの会話は咄嗟に直訳して一番近くて聞いたこあるアンデッド系がレイスだったんだけど……。いや待って? そもそもあたしの頭の中のレイスってどんなんだったっけ? あ、そうだ。骸骨がフード被ってるか、人のシルエットのフードの頭の部分から目のような光が2つ並んでるやつ。確か幽霊系の……あ、前者はリッチか。魔法使いが死んでゾンビになって、中身は生前のまんまというか本人ではあるけどストッパーが効かないとか悪役にされがちよね。……違う、レイスだ。一見死神にも取れる。なんだっけ? 現代人の癖でCoocle(※検索するとグルメサイトさんやお年寄り向けの自転車の名前が出ますが関係ありません※因みにCoocle MAPなるものがあり、国名などは飛べるので誰かが頭で遊べるようにと現実に酷似したWikipediaを作成された方がいたようで、ご興味があれば検索してみて下さい)の検索をしていた。
(つなが……った? )
表示されるや否や、スマホを見た。二人を見てまたスマホを見た。
「なぜこれがここに……あたしの……」
「なんだこれは」
「? 」
あたしはストラップタイプだった。検索結果に『思念が実体を伴って……』と見えて混乱した。あたしもレイスなの? だってスマホがある理由づけを考えなければならないから。理屈が通らないことは苦手だ。そもそも検索結果は明らかにあちらの世界のもの。
数テンポ遅れて2人が覗き込んでいる。
「これはスマートフォン。電話を主体としたいつでもどこでも通話や文字での連絡ができるもの、かな」
「映像も出せるのか? 」
「え? この画面内なら動画も可能だけど」
───ブォン
目の前に4Kほどのスクリーンが現れ、砂嵐が表示されていた。
「え? 」
「これはシグナルフィールドという魔法だ。通信が必要な時に使われる」
「……配信、出来ちゃう? 」
あたしはあんな状態(閑古鳥)でも配信を続けたいらしい。
「ハイシン? 」
「誰でも見られるやつ」
「ああ、『シグフィー』か」
略したら可愛くなったな。
「それなら───ファルに聞くといい。『トップシグナー』だからな」
振り向くと、リーファルはこちらをずっと見ていたようだ。
「……はぁ。話してしまった方がいい。同年よりずば抜けて賢い子だからな」
確率上げに忙しいわね。
「あ、名前を教えろ。キャスリンとは呼びたくない」
腹立つな、コイツ。
「あたしは咲華楽真智」
「サハラマーチ? 不思議な名前だな」
「真智だけでいいわよ。こちらの並びだと真智咲華楽ね」
「マーチか」
既視感しかない呼ばれ方なんだけど……。
「……リン姉さまではないのですね? 」
「ごめんね。2日前目覚めたらここにいたの」
「姉さまじゃないならなんで……助けるって言ったの」
コイツもか。
「あたしが引き受けたことは必ず遂行する。絶対よ。大切なんでしょ、リーシャルちゃんが」
「……うん」
「なら助ける以外選択肢はないわね」
トップシグナーはトップライバーってことだろうし、ガチ恋の過ぎた行動の可能性がある。
「言っておくけど、あたしは25歳のお姉様よ」
「え、おば……」
「シャラップ! 未婚女性に言うのはデリカシーがない。紳士でありたいなら……わかるわね? 」
二人を睨みつけた。
「で、連れていきなさい。強行突破しようとしたけど正規ルートがあるならそっちがいいわ」
はたと気がついた。検索が出来るなら通話出来たりする?
「待って。確かめたいことがあるの。スマホが何故あたしのとこにあるかわからないけど、話したら解決するかもしれない」
異世界通信? ちょっとワクワクするわね。一瞬悩んである人に掛けた。
───トトトト……トゥルルル……トゥルルル
「掛かった! 」
ややあって。
『はい』
「真人? あたしだけど」
『……マジかよ』
~真人サイド~
───トゥルルル……トゥルルル
「んあ? だれだ? は? 『真智』? ……姫さん、これあるか? 」
「それはさきほどタケル様が見せて下さった機械ですね。どこにあるのでしょう? 」
真智はポケットのないカジュアルスーツだったので困惑している。
「あ! ストラップだ。首に……掛かってねぇな。お歯黒さまんとこに落としたか? 」
「しっかり閉まってたっす」
「ちっ、しゃーねえなあ」
スライドして出る。
「はい」
『真人? あたしだけど』
「……マジかよ」
3人がにじり寄る。
「真智さんなんですか?! 」
「真智パイセン?! 」
「マーチ様?! 」
~真人サイド終了~
『真智さんですか?! 』
『真智パイセン?! 』
『マーチ様?! 』
梨翔と……知らない声が2つ。
「あたしも状況分かってなくてさ。目が覚めたらキャスリン姫って人の中にいたのよ。で、あとで説明するけど、訳あって
『はー、マジか。丈琉、ドンピシャ。姫さん中に真智がいる。よく聞け。おまえの中にキャスリン姫がいる』
「キャスリン?! 」
「リン姉さま?! 」
「ちょっとあんたたち! 」
『まさか……フリックと、ファルですか? 』
スマホに顔を近づけてきて狭い。
「映像に出来ないのか?! 文字しかないぞ! 」
「待ってよ! 切り替えるから! 」
あたしはビデオモードにした。直ぐさまドンッとあたしの顔がご開帳でビックリして落とし掛けた。
『私がいます。あなたがマーチ様なのですね? 』
「うん、あたしが真智よ」
『まず聞かせて下さいませ。なぜ、リーファルが1人なのですか? 』
確信をついてきた。
「……リーシャルちゃんはレイスに攫われたってさ」
『レ、レイス、に……』
「フリックくんに聞いてるわ。あなたのお母様がレイスに攫われたこと。当時はあたしはいなかった。でも今はあたしがいる。前に進むわよ、姫」
『……! 私もあなたのお話を聞きました。あなたがいて下さったらと……うぅ』
涙ぐまれた。あたしの顔で泣かれても困る。
「おい、キャスリンを泣かせるな! 大丈夫だ、キャスリン」
『泣くこたねえぞ。真智に任せろ。決めたらテコでも譲らない。出来ねえことは言わない』
「あらあ? そんなに絶大な信頼寄越すなんて珍しい~」
『うるせぇよ』
『真智パイセンなら問題ないっす』
『流石真智さんですね』
メガネが丈琉って人らしい。真面目そうだ。
『丈琉さん、ちょっといいですか? 』
「はい! 何でしょう?! 」
『あたしの勘があなたなら欲しい答えくれそうなんで』
『ふふふ。知識ならお任せ下さい。博士号まで持っており、ヲタク知識まで完備しております! 』
見た目通りだなー。
「うんうん。そのヲタク知識貸して」
『……レイス、ですか? 』
「?! そう! 最低限は齧ってるからわかるけど、何かちょっと違う気がして、丈琉さんなら分かるかなって」
すごい、話がわかる。
『違う、はアレですね。ゲームや小説での扱われ方が違う、ならばそちらの世界もそちらの世界なりの解釈のレイスがいるだろうと』
「そう! そうなの! 」
『まず、違和感をお話ください』
「レイスってその、あたしたちの扱う率高い霊や怨霊が多くて、フード被ってるイメージのやつ」
『そうですね』
「あと、一番めんどくさい生霊」
『ああ、我々の世界では個別だけれどもMikipediaでは一纏めにレイスとされていますね。混乱される気持ちわかります』
「で! しゃべれるやつもいると。なんかファルくんが場所知ってるみたいなんだけど……」
『リーファル様、何かわかるかもしれません。話して頂けますか? 』
『大丈夫ですよ、ファル。この方々はレイスのスペシャリストです』
この人、誰にでも丁寧だな。
「え? はい、リン姉さま。お2人を呼びに行く前、シャル姉さまとここでいつものようにピクニックをしていて、ファンの皆様から頂いたお菓子を食べようとしたんです。そしたら……見覚えのないベリーキッシュが混ざっていて。シャル姉さまはベリー系に目がないですから。違和感に反応する前に口に入れてしまったのでバスケットごと投げて吐き出させたんですが、マデリンのレイス《思念体》に見つかってしまいました。そのまま姉さまは拐かされてしまい……返して欲しければ僕に会いに来いと……」
ガタガタと震える小さな肩に触れる。
分かる、分かるよ。体験談は聞いたことある。ガチ恋、同担拒否。その手の相手は何するか分からないヤンデレ族だって。
『マデリン嬢、お知り合いですか? 姫』
『ファルのファンの1人としか認識できていません。すみません』
『知ってらっしゃる、それが大事ですから。フリック様、リーファル様は』
あたしは振り向いた。
「俺もキャスリンと同じでファンにいたなとしか」
「ファルくん……辛いだろうけど話して。
目を見開いている。
「マーチ……姉さまはスキャニングの魔法を持っているの? 」
「似たようなものかしらね」
『……それは相性が悪かったのか、弾かれてしまった魔法です』
ずいっと無言でフリックくんが横に来た。離れたり近寄ってきたり忙しいな。無意識にキャスリンに反応しすぎでしょ。
「……俺も相性悪かった。使えるのは大魔道士である『左大臣』
ふん、どこまでかソのじいさんと勝負ね。
「表のような戦闘力があたしとの比較で表示される」
「おまえより強い相手だとわかったら? 」
向こう側ではすごい嬉々とした丈琉さんが見える。キャサリンもあたしの顔で同じ表情をしていて怖い。
「『チューニング』って言ってるでしょ。さっき穴開けたみたいにあたしに合わせる。あたし優位の土俵に強制的に上がらせるのよ。
『そういうこった』
「あたしへの問は一旦終わり。マデリンちゃんの話をお願い。
ファルくんは頷いてくれた。
「マデリンは……マデリン・ヘリアド・エアダールと言って……」
『エアダール?! 』
『ご存知ですか? 』
「エアダール帝国。帝皇女か。面倒な……」
お姫様かー。
『帝国というだけあり、軍事国家ですわ』
マデリンのレイス《思念体》と言っていた。
『……レイユーシア国にレイス《思念体》を操れる方はいますか? 』
丈琉さん、ソレ! あたしもソレ! (語彙力崩壊)
『レイスに手も足も出ない我が国では脅威に感じている者ばかりです。表立って扱うものはいません』
公式ではいない。ならば……。
「『レイスはドッペルゲンガーのような分身体の可能性がある』」
あら、ハモった。丈琉さんが頷いてくれている。たぶん、おなじこと考えてるわね。
『レイスは
『モンスターとは違うと? 』
『キメラなどは近いかもしれませんが』
だとしたら……。
「エアダール帝国にも魔法ってあるんでしょ? 」
「あるはずだ。詳しくは知らないし、仲がいいとはお世辞にも言えない」
フリックくん辛辣う。
『……申し訳ありません。父が不甲斐ないせいですわ』
あ、あーうん。あたしは目を逸らした。あのパパはなぁ、うん。
『そのことも関わって来そうですね。真智さん、やはり……』
「帝国がレイスの
『「「?! 」」』
内部に、身内にスパイがいるなんて嫌だよね。あたしもそんなめんどくさいのやだ。
「まぁ、憶測ではあるから状況と鑑みてやってくよ。あ、ファルくんに聞いてこっちでも配信してみようと思う」
『……仕事配信進めた手前言い難いんすけど、不審者扱いされた真智パイセンがキャスリンさんの体でやるのは詐欺になるっす』
ちょっとぉ?!
『おまえ、2年やって個リス1人もいないのにすげー心臓に毛が生えてんな』
あんたもか! しかし、今回は許してやろう。
「ふ……キャスリン姫、今じゃなくてもいいけど、いつまで通話できるか分からないから言うね」
『……出た。お節介』
遠くで真人がボヤくけどこれがあたしなんだ。
「王様はキャスリン姫を本当に愛して心配してる。目覚めたらあたしで申し訳ないくらい泣いてたよ。今話せたんだ。希望を持ってさ、次会えたら笑いかけてあげてよ」
『……そう、ですわね。まぁ、こちらの世界にも楽しいことがあります。少し見て回ってからでも遅くありませんわ』
流石知識欲おばけ。
「きっとあたしたちは入れ替われたからこそ、解決出来ることがある。必要な相互知識もあるから相談しながらあたしたちの力を効率よく使っていこうよ」
『はい、こちらはオハグロサマでしたわね』
あ、忘れてた。
「『お歯黒さま』! そう! 梨翔が居るから分かるよ! 触れる! 」
キャスリンの目の色が変わった。
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