第4話:ヤニカス、名探偵になる。
「……ふう」
今日もこの世界に来てしまった。
煙草という楽しみもあるが、やはりモンスターを討伐した時の快感、あれを味わってしまえばもうこの世界の虜だ。
「ふぅむ」
と、いうわけで今いるのは始まりの町の武器屋。昨日の戦闘で煙草代を差し引いても余りあるエルが手に入った。なので武器の強化に来たのだが……………
「……どれがいいんだ?」
どの剣も全て同じに見える……いや、名称は知っているが。
「
どれもしっくりこないなぁ。
折角STR……筋力値という意味だと知ったが、それに極振りというものをしているらしいので強力な武器を使いたい。
「……お」
ブースの一角のあからさまにこじんまりとしたスペースに、あるものを眺める。
「盾」
なかなかにかっこいい。昨日の一幕があってからか、どうにも盾に対する意欲が上がっている気がする。
ふと、やりたいことがあって、悩んだ末に新しい金属製の盾を購入。娘には引かれるかも知れないが、子供の時から流行ってた……とはいかないが、印象に残っていた戦法ができそうだ。
「嬢ちゃんかわいいね。これサービスだよ」
「……ありがとうござます」
何故だろう、悪い気はしない。
あとは雑貨屋や薬屋で調味料や冒険に必要そうなものを買い、入浴中の宮子を待つだけとなった。
先ほどサービスしてもらった武器油で盾を手入れしながら待つこと数十分……………と流そうとしたのだが。
「なんでよ! 私はやってないわ!」
「お前しかいないんだよ! さっさと売った金を返せ!」
「強化用のジェムまで売りやがって!」
「団長の推薦で入れたのが間違っていた!」
「横領女!!」
どうやら仲間内のごたごたのようだ、退屈凌ぎに静聴することにする。たまたま耳に入ってきたんだ、盗み聞きではないだろう。
……横領という単語を聞くと、二年半会社の金を横領し続けた挙句、バレそうになったから共有フォルダにMEMSを感染させ起動したクソ新人がいたことを思い出す。
何故だ、何故よりによってMEMSなんだ。
出張先で大音量でNyancatが流れ出した俺の身にもなってくれ(その時に使った個人用パソコンは無事死んだ)。
「これは私が稼いだお金よ!」
「嘘だ、急にそんな大金が手に入るか!?」
「バロアの森で
「そんなのいくらでも言えるだろう!」
なんか本当っぱいなぁ。
「失礼」
「あぁ?」
男性陣の中で一際ガタイの良い人に睨まれる。めちゃくちゃ怖い、内股で足ガックガクなのを悟られないように声色を整え、話す。
「聞いていたところ、どうやらこの子の話も嘘には思えなくてな。個人的に興味があるので協力させて欲しい」
「あぁ? 部外者のお前に語ることなんて無い「昨日の23時からギルドハウス内の共有ストレージの資源が全て消えた。それで最近大金が手に入ったという彼女……ハナリィに疑いの矢がたったわけだが、お前らにここまでしろとは言っていないよな?」
どうやらギルドとやらの中でも偉い立場の人が来たようだ。
「団長のツワブキだ。協力感謝する」
「確認だが、売った先を確認する術はないのか? もちろん、幸運の星を」
「オークションで売りに出されたことは記録に残るが、売主と買主の情報は残らない」
「共有ストレージはギルドハウスに入れば誰でも使えるのか?」
「いや、ギルド内でも高い管理権限を持つものが与える権限が無ければ無理だ」
「ふむ……………」
何故だろう、この出来事にすごく心当たりがある。
「……………あ」
「何かわかったのか?」
「大体な。質問だが、その権限は誰が持っているんだ?」
「新人のハナリィ以外の全員だ。小規模なギルドだからな」
「それは団長のあんたの権限も取り消せるか?」
「あぁ、出来るはずだ」
「なら、彼女には無理だ」
俺が最終的に下した回答に苦言を呈するものが一人。
「待てよ、じゃあ犯人は誰なんだ?」
「答えは……………誰でもない」
唖然とする皆の前で俺の推理を披露する。
「誤爆だったんじゃないか? 全員のストレージへのアクセス権限をフルリセットした奴がいた、それでアクセスできないことを空っぽと勘違いしたとか?」
昔クソ上司がやりやがったことを思い出した。フォルダへのアクセス権限を消したことを知らん顔で通しやがって。
その後、誤解も解けてお礼をもらうことになるが、それはまた後のお話。
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