第3話:ヤニカス、初討伐した肉で料理をする。
「———そっち行ったよ、ヤニちゃん!」
「ま、任せろッ!」
ツノが生えたウサギめがけて右手の剣を振り抜く……が、間合い管理が難しく、体毛を掠るだけで当人、いや当ウサギはピンピンしている。
「何度言ったらわかるの? 最初から先端を狙うんじゃなくて、近づいてから根本だよ!」
「そう言われてもなぁ……」
ここで娘の言う
「むう……」
「不貞腐れないの、その顔でやっても可愛いだけだよ。近づくことが難しいなら近づいて貰えばいいじゃん、教えたでしょ?
……そうだった。貰えるものは病気と借金以外はなんでも貰うが、歳だけは取りたくないなぁ……
「
戦技を発動させ、ウサギを煽る。
接近してきた所を……おりゃ!
「あぁ……………」
「くっそぉ!」
この距離でも外すのかよ!
娘よ、哀れみの目線を向けないでくれ。
そうこうしている間にウサ公の突進!!
「
突進の威力も借り受け、こちら側からも思いっきり盾を突き出すことで、強力な一撃を与えるッ!!
「キュゥ……」
「……初ッ討ッ伐ッ!」
おぉ……とみゃーこが拍手を送ってくれる。
「まさか盾で倒すなんてね。って言うかバッシュの使い方間違ってるし……とにかくおめでとう!!」
「ありがとう」
盾で殴る……その行為にかなりしっくり来た。いつも会社で中間管理職としてメイン盾貼ってるからかな……
「ふぃー、一服一服〜」
「戦闘のたびに吸ってたらいつまで経ってもお金集まらないよ」
「むぐっ、こ、これは初撃破おめでとうの一服だから……」
「……その次は?」
「……これからも頑張ろうの一服」
グッ、っと両手を胸の前で握りしめて、頑張るぞのポーズを取る。
「なんか感情豊かになってない?」
「お父さん、こんなに自然に触れる機会最近はなかったから……」
最近は休みすら取れず、給与明細の残業代の欄を見ることを楽しみに生きている。部長からも有給取れとせっつかれているが、新人教育をしている立場でどう休めと言うのか……
「……大人って生きづらいね」
「大丈夫、毎日一つでもいいから楽しみを持つんだ」
俺はそれが宮子が日々話してくれる今日の出来事だった。
「……馬鹿じゃない?」
「ははは、このゲームを楽しみにしてもいいかもな、ハマりそうだ」
「はいはい。今の討伐ポイント、AGIに振っておいてね」
親としては、耳を真っ赤にしてくれるだけで嬉しいよ。
◇◇◇◇◇
「さて……」
折角だから、先程倒したウサギから入手した肉で料理をしてみてはと、みゃーこから言われた。
現実世界と遜色無い物理エンジンとやらを使っていると言われたが、どうなのだろうか。
「ふむ」
まずは娘から譲り受けたアウトドアセットを、アイテムボックスから取り出す。何も無いところから粒子が発生し、形を取る光景には違和感を感じるが、ゲームらしくていいじゃないかと思うようにした。
ウサギ肉の方も、すでに肉の状態で取り出せた。我ながら心臓が弱いので、解体からやれと言われたら卒倒する自信がある。これはゲームの利点だろう。
何を作ろうか迷うが、手持ちの調味料や材料が少ないし、簡単な焼き物にすることに。
まずは両面に塩胡椒を擦り込み、下味を付ける。料理酒に付けることも考えたが、血抜きはしっかりと済ませてありとてもフレッシュなので省略する。
何かアクセントはないか、と考えたのは先ほど取った回復草だ。形的にヨモギに似ており、香りも立つので微塵切りにして塗り込むことにした。
フライパンにバターを敷き、これまた先ほど取った活力草———まんまニンニクを一欠片刻んで香りを移す。
食欲を刺激する匂いがして、油の跳ねが落ち着いてきたら頃合いだ。
———ジュアァァァァ……パチパチ……
油が焦げる香りが漂う。
寄生虫なんかも考えて長めに焼く。これだけリアルな世界だから、そういうのがあってもおかしくないからな。
フライパンを傾け、下に落ちてきた油をスプーンで十数回回しかけ、蓋をして少し寝かせたら……………
「完成だっ!」
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ホーンラビットの回復草焼きLv.7
回復効果
リジェネ効果
防御力上昇
スタミナ上昇
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「いい匂いがするー!」
「みゃーこ、食べよう」
……そうだ、自分で取った食材だから、あの挨拶が欠かせない。
「この世の全ての食材に感謝をこめて……………いただきます!」
「ヤニちゃん大袈裟〜」
刃を入れると、ぷつッとした感触と共に肉の中に留まっていた油が顔に跳ね、隣からはゴクッと喉を鳴らす音が聞こえる。
———あぁむ……
「!! うまい!」
淡白な味わいの中にぼんじりを噛んだときのような濃厚な油。ニンニクの香りがより食欲をそそり、宥めるようなヨモギの爽やかな香りにいくらでもおかわりを求めてしまう!
「ちょ! みゃーこ、食べるの早い!」
「
……なんか、いいな。
娘とこんなに話したのはいつぶりだろうか。
まだ高く登ったままの太陽を見ながら、宮子が小学生ぶりのピクニックを楽しんだ。
「ね、ねぇ、お、俺の分も残して……」
「えぇー?」
なお、たくさん食べて昼ごはんが食べられず、家内に娘共々怒られたのは苦い話だ。
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