第2話:ヤニカス、極振り女騎士になる。

今になって気がついたが、セカラフでの俺の見た目アバターが女になっていた。


大部分はリアルとあまり変わっていないが、キリッとした顔立ちと軽い山を想起させる平均より大きめの胸、後頭部上でくくった大きなポニーテールにどことなくあれを思い出す。


「……女騎士だ」


昔流行ったあれである。


宮子を問い詰めると、


「だって、なんとなくお父さんにイタズラしたくて。それにお婆ちゃん似だから絶対に似合うと思って……………怒ってる?」


まぁ怒ってはいない。煙草が吸えればそれでいいからな。


「え? ドン引き……」


なんとでも言うがいい。それに、また新しくアバターを作ればいいしな。


「あ、そうそう。不正利用対策で同じ人から二人目は作れないようになってるから」


は?






◇◇◇◇◇






「ふぅ、スゥ―――――困った」


VR喫煙を始めてから2週間、毎日幸せな時間を過ごしていた。それは曇天だった空に一筋の光が差し込めたように、俺の日常に自然にハマッてくれた。


しかし、そんな毎日にも限りがあることを失念していたのだ。


「煙草を買う金が無ぇ……」


いやいや待てと、言いたいだろうそこの無喫煙者諸君。初期資金一万エル、つまり100箱分を吸いきったのかと。


その問いには半分正解、つまり及第点をやろう。俺の財布にはまだまだ金が残っている……………











―――――残金1500エル程。


ちょっと待った、言い訳をさせてほしい。いや、言い訳ではなく俺の主張を聞いてほしい。


通常喫煙というのは、一日に数本がいいところだろう。皆もそれを当たり前と認識しているはずだ。しかし、ヘビースモーカーを舐めないでほしい。


いつも吸っている数+今までセーブした分を合わせてどのくらいになると思っている!! そもそも俺は真のヤニカスではない、1日に1カートンなど吸えるはずか無いだろう!!




年甲斐もなく惨めな部分を晒してしまった……とにかく、早急に金が必要だ。




「それで、私のところに泣きついてきたってわけね」

「あぁそういうことだ」

「しょうもな……まぁいいわ。それで? お金上げればいいの?」

「いや、せっかく買ったんだから自分で稼いでみたくてな、手ほどきをしてほしい」

「へぇ……私もお父さんと遊びたかったし、丁度いいわ。じゃあで会いましょう」




と、言うわけで今に至る。


「ねぇお姉さん、いい狩り場知ってるんだけど今から行かない?」

「……」

「聞こえてんの?」

「……? もしかして俺のことか?」


なんかチャラそうなやつに話しかけられた。


「オレっ娘! いいねぇ」

「悪い、今待ち合わせをしてるんだ」

「じゃあその友達も一緒でいいからさぁ」


なんだろう、妙に神経を逆なでされる感覚……


「おと……ヤニちゃん! おまたせ、行こう!」

「……?」


また誰かに話しかけられたようだ。ライトブルーのボブに直剣を背中に差している彼女のネームタグを見ると……


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みゃーこ Lv12

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「もしかしてお前みや「それ以上はネットリテラシーに反するよ、とにかく行こう」

「もしかして君が連れ? 今からいい狩り場を」


性懲りも無く話続けるチャラ男の言葉は、宮子……みゃーこの鋭い視線で遮られた。


そのまま圏外に移動する道を進む傍、雑談のようなものをする。


「ヤニちゃん、あぁいうナンパに引っかからないようにね」

「馬鹿、男をナンパして何が楽しいんだ?」

「今の見た目を考えて」


……そうだ、今俺は女なんだった。


「……で? さっきから言ってる『ヤニ』ってなんなんだ?」

「おとう……貴方の名前だよ、ぴったりでしょ? ヤニちゃん?」


ヤニ煙草ちゃんか……実の娘に言われるとショックだな……


「それで、ヤニちゃんはどんな戦い方をしたいの?」


あぁ、そういえばこの世界の説明をまだしていなかったな。


『セカンドライフオンライン』、通称セカラフは中世ファンタジーを題材にしたVRMMOである。プレイヤーは何をするにも自由で、戦闘を楽しむもよし、生産職を極めるもよし。ストーリーやクエストもあるが、受けるのも自由やるのも自由である。


「技術が必要そうなものは無理かな」

「ふぅん? 確か何かしらの武道やってたよね」

「合気道をかじってた」

「この世界じゃ役に立ちそうにないね、ならオーソドックスな剣士かな」


名前だけ見て確認していなかった『初心者用支援袋』の剣士のカテゴリをタップして展開する。片手剣と盾スタイルだが、なんとなく大盾にした。


「タンク目指してるの?」

「いや、なんとなく」

「直感は大事だよ、ならステ振りはVIT高めの方がいいかな」


ステ振り? と尋ねると、どうやら個人の技能をポイントを使って決めれるらしい。


悩むところだが、盾役に必要そうなVITとSTRに等分することにした。


「ヤニちゃん……」

「昔は違かったが、今は何かに突出しているやつが新しいものを生み出すんだ」

「……ま、本人がそれでいいなら構わないけど……」


ようやく戦闘ができるのだろうか。メインコンテンツ喫煙以外にも楽しみができるかなとワクワクする俺だった。

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