第5話:ヤニカス、カレーを振る舞う。

「ヤニさーん!」

「ハナリィちゃん、ここだよ」


煙草を摘んだ左手を大きく振り、自分の存在をアピールする。


「他のメンバーは?」

「遅れます! ちょっと聞いてくださいよ! 今日20時から狩りを始めるって伝えてくれたのに誰一人ポーションの準備をしてなかったんです!!」

「ははは」


あの後、何事もなく元通りになれたようで良かった。そこら辺は若者のバイタリティを感じる、おじさん感動しちゃうよ。


「や、ヤニさんそれ煙草ですか? 吸っていいんですか!?」

「吸えてる時点で俺は20歳を超えてるよ」


流石にVR煙草にも微量とは言えど依存性があるため、20歳未満の人しか購入し、使用することは出来ない。


「へぇー、ほんとに女騎士が煙草咥えてるよ」

「! アイラさん、遅いですよ!」

「他メンバーが揃う前に到着してるからセーフセーフ」


アイラさんはハナリィちゃんが所属しているギルド、伝説伐の副団長だ。


「この前はうちのゴタゴタに巻き込んじゃって申し訳ないねぇ」

「自分から首を突っ込んだからな、大丈夫だ」


その後も……


「お待たせヤニちゃん」

「みゃーこ、なんかいいものあったか?」

「ボチボチ。あ! 貴女がハナリィさん?」

「はい、ハナリィです! 初めましてみゃーこさん!」

「みゃーこでいいし敬語もいらないよ」

「そう? ならそうさせてもらうわ」


今時の女子って距離の詰め方凄。


「これで全員揃ったな。今回臨時のメンバーとして参加してくれるヤニさんとみゃーこさんだ。俺たちはこれからリグラス平原でレベリングを行う」


ツワブキさんが今日の予定を話す。


「そして……ヤニさんにこれを受け取って欲しい」

「うん?」


見ると、かなりの業物と見受けられるロングソードだった。


「いいのか?」

「構わない、むしろあの事故を解決してくれたお題としては安いくらいだ」


準備はいいな、とツワブキさんが仕切る。


「それじゃ、出発!」

「「「「おお!」」」」


総勢5人の冒険が始まった!






◇◇◇◇◇






「ボア行った!」

「ヤニさんお願いします!」

「任せろ、頑強アイムストーン!!」


全長1メートル程の中型猪の突進を、戦技を使って身を硬くし耐える。


———ガガァ!


「ふぬ! 要点ポイント!」


低レベルで堪えるには無茶があったのか、慌てて他の戦技を発動させる。


要点ポイントは、自身の両足をその場に固定するスキルだ。大きな負荷を掛けない限りはその場に留まるが、スキル枠を一つ使ってまで発動するような戦技ではないため、初心者用とされている。


「ナイスだヤニさん」


その後は特に危険なことはなく、あっという間に休憩の時間となった。


「一服ぅ」


はふぁぁぁ……


「美味しそうに吸いますねぇ、ヤニさん。私も試してみたくなります」

「辞めておけ。それに、あれは駄目な吸い方だ」


ツワブキさんの中で俺の好感度がダダ下がりだが、気にしない気にしない。


「ご飯にするか」

「いいですね!」


サクサクっとキャンプの設営を済ませる。


「どうだ? 使い心地は」

「まだちょっと重いが、これから馴染んでくるだろう」


戦闘が続き、俺のレベルは一気に4つ上がっていた。軽くSTRに振れば問題なく使いこなせるだろう。


「それは良かった」

「あぁ、こんなに立派なものを貰ったからな、今度は俺の番だ」


焚き火に鍋を置き、先ほど倒したボア肉を薄切りにして油で炒め、程良きところで皿に上げる。


次いで微塵切りにした玉ねぎを入れ、軽く水を加えながら飴色になるまで炒める。


玉ねぎを炒めるコツは、薄く薄く広げることで水分を蒸発しやすくすることだ。水を入れる理由は……知らん、でもこの方が早い。


賽の目に切ったジャガイモ、銀杏切りしたにんじんを炒めたら、湯むきしたトマトをたくさん入れ、潰しながら混ぜる。


そこに水を入れ、煮込む……のは、時の粉末というアイテムを入れることで短縮。野菜ベースのいい香りが漂ってくる……!


楊枝が通るようになったら頃合いだ。クミン、ターメリック、コリアンダー、ローリエの葉を入れて、塩胡椒で軽く味を整えたら……


「出来た」


ゴトっとテーブルの上に鍋を乗せる。取り出した瞬間から漂うスパイシーな香りが食欲に直接語りかける。


「まさかこれは!」

「そうだ、カレー……風スープだな」

「カレー風?」

「まだまとまったスパイスが無いんだ。今できる最大限の物がこれというわけだ」


特にガラムマサラとオールスパイスが足りない。ちなみに、ガラムマサラが複合スパイスで、オールスパイスは単体スパイスだ、間違えないように。


コメにたっぷりかけて……


「いただきます」


———ふぅ、ふぅ……はぐっ。


口に入れた瞬間ピリリとした辛さが口内を刺激し、それをトマトの酸味と飴色玉ねぎの甘味、他の野菜の旨味といい感じにブレンドされることでマイルドになっている。とても美味い!!


スプーンが止まらない! 見ると、他の人たちも皿ごと食べる勢いでかきこんでいる。


「ヤニさん! すっごく美味しいです!」

「いっぱい食べろ、しっかり晩御飯の分は残してな?」

「ふぁい!」


……かなりの健啖家だな、ハナリィちゃんは。






のどかだ……


「そろそろお開きにするか」

「もうそんな時間か。ヤニさん、にゃーこさん、今日はきてくれてありがとう」

「またやろうねぇ」

「やりましょう!」


あったかいなぁ。


「あぁ、また今度—————」
















瞬間、見えたのは薙ぎ払われる伝説伐の姿だった。




「—————は?」


目の前に居座るのは美しい白い竜。それを認識した瞬間、俺とにゃーこは吹き飛ばされた。

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