第6話 血の儀式

宙太ちゅうた、戻りなさい!ここに来てはいけない!」


星恋せいれんの叫びが森の静けさを裂き、宙太の心に深い不安を刻んだ。しかし、その声が彼に届くよりも早く、冷たい気配が背後から忍び寄った。振り返ると、そこには銀色の仮面をつけた男が立っていた。仮面の表面には星雲を模した複雑な模様が刻まれ、隙間から鋭い金色の瞳が覗いている。その視線はまるで宙太の心を貫くようだった。


「星恋、血の儀式を続けろ。この少年の命が惜しくばな。」


低く冷たい声が響き渡り、宙太は何が起きたのか理解する間もなく仮面の男に捕らえられた。力強い手が宙太を持ち上げ、彼の体は宙に浮かび上がる。見えない力が彼を包み込み、まるで鎖で縛られたかのように身動きが取れなくなった。


仮面男の冷たい声が響き、星恋は凍りついたように動けなくなった。その手に握られたナイフが震え、彼女の目には涙が浮かんでいる。


「宙太を離して!私は何でもする!だから…弟には手を出さないで!」


星恋の呼吸は荒く、声は震えていた。しかし、仮面男は微動だにせず、冷酷な声で命じた。


「ならば続けろ。ほこらを目覚めさせるのだ。それが我らとの契約だ。」


その時、宙太の愛犬のシエルが低い唸り声を上げ、仮面の男に飛びかかった。シエルの青い瞳が月光を反射し、小さな体に宿る勇気がその一撃に込められていた。だが、仮面の男は素早く手を動かし、目に見えない力でシエルを弾き飛ばした。


あるじへの忠誠心は見事だが、無駄な抵抗だ。」


仮面の男は冷たく呟くと、低い声で呪文を唱えた。


「フェーズロック・バリア起動」


男の冷徹な声が響いた途端、光の模様は固定され、シエルを囲む透明なシールドが完成した。その表面には、微細なエネルギー粒子が流れるように輝いており、光の流れが絶え間なく動き続けている。シエルが鋭い爪でシールドを引っ掻くと、粒子の流れが一瞬歪み、波紋のように広がるが、すぐに元の形状を取り戻した。


「このバリアは、次元間位相を利用したものだ。お前のような下等生物には突破は不可能だ。」


仮面の男は冷笑を浮かべながら、バリアの動作を見守っていた。


「シエル!」


宙太は叫んだが、声は届かなかった。シエルは何度もバリアに体当たりを試みたが、見えない壁に跳ね返されるばかりだった。


「時間を無駄にするな。弟を助けたいなら、祠に血を捧げるのだ。」仮面の男の言葉に、星恋は震える手でナイフを構えた。彼女の視線は宙太に向けられ、その目には「ごめんなさい」という想いが滲んでいた。


そして、彼女は覚悟を決めたようにナイフを手のひらに押し当て、赤い血を祠に捧げた。その瞬間、地面が激しく震え、祠から青白い光が放たれた。亀裂が大地を駆け巡り、森全体が揺れ始めた。


「これが…祠の目覚め…?」


星恋が呟いたその時、仮面の男の冷たい声が森に響いた。


「素晴らしい、我らの計画通りだ。」


突然、祠の中心からさらに強い光が放たれ、宙太の周囲の空間が激しく歪み始めた。彼の視界が一瞬暗くなり、次の瞬間、宙太は目の前に広がる未知の光景を目にして息を呑んだ。


「これから、何が…起きるんだ…?」

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