SGS010 従属契約の意味を知る

 副長はどこまでも親切だった。まず防具屋へ行き、そこでオレにハンター用の防護服を買い与えてくれた。軽くて刃物が通りにくい革製の上着とズボン、それとブーツだ。荒天用のフード付ポンチョも買う。


 それから衣料品店へ入った。どうやら女性専用の衣類を扱っている店のようだ。副長がすぐに向かったのは店の奥にある下着コーナーだったので、オレの方が恥ずかしくなった。


 オレと一緒に下着を選ぶときの副長は嬉しそうだった。下着のパンツとシャツ、ブラ、靴下を買った。革製の服などの防護服を着るときは下着を身につけておかないと、肌が痛くなるのだそうだ。


 着ている服がいつも同じワンピースではかわいそうだと言って、副長はワンピも買ってくれた。ちなみに、通りを歩く女性たちを見ると、大半が頭から被るワンピースを着ている。この街では女性はワンピ姿が普通なのだろう。


 お金は全部、副長が支払ってくれた。まぁ、オレに払えと言われても、一文なしだから、どうしようもないが。


 買い物からの帰り道、オレは副長の後ろを歩きながら疑問に思っていたことを聞いてみた。


「副長、どうしてこんなに親切にしてくれるんですか?」


 副長は立ち止った。振り返ってオレの目をまっすぐ見つめてきた。


「おまえが気に入ったからさ。これはいつか返してもらうからな」


「どうやって返せばいいんですか?」


「さあな。おまえがハンターとして優秀で一人前になれたら、おれの専属従者として狩猟のパーティーに入れてやる。おまえにハンターの才能が無かったら、おれの家で専属従者になって体で返してくれればいい」


「え……、あの、それって、どっちにしても副長の専属従者になれってことですよね……」


 自分の顔が真っ赤になっている気がする。いくら親切にされたからと言っても、男とそういう関係になるなんて絶対にイヤだ!!


「おれの希望はそうだが、今のおまえは隊長と従属契約をしている身だ。だから、今すぐは難しいだろうな。

 隊長が戻ってくるのは2カ月後だ。そのときまでは、おまえには誰も手を出せない。だがな、隊長が帰って来ておまえの味見を終えたら、おれはおまえを隊長から買い取ってやるよ」


 オレは思わずその場に座り込みそうになった。慌てて副長が支えてくれた。


 従属の契約って、女の場合は男に好きなようにされてしまう契約ってことなのか? そんなの絶対にイヤだ!


「あの、今さら聞くのも変ですけど、従属の契約ってどういう契約なんですか?」


「おまえ、そんなことも知らずに契約したのか?」


「はい。あのときは、頭がぼーっとしていて……」


「そうか。死んだはずの人間が生き返ったのなら、そうかもしれないな。従属の契約というのは、契約主、つまりオーナーの命令には絶対服従するという契約だよ。だから、オーナーがおまえと交わりたいと言えば、おまえはそれに従うことになるんだ」


「え……。もしそれを拒んだらどうなるんですか?」


「拒むのは自由だが、たぶんオーナーはおまえを奴隷商へ売ってしまうだろうな」


「奴隷商へ売るって……。でも従属も奴隷も、同じようなものでしょ?」


「いや、ぜんぜん違う。奴隷のオーナーは奴隷に対する生殺与奪権を持っている。だからオーナーは奴隷を傷付けようが殺そうが自由なんだ。だが従属契約のオーナーのほうは、従者に対して生殺与奪権は持っていないんだ」


 なるほど、生殺与奪権の違いか。それは確かに大きな違いだ。


「だけどな、オーナーは従者を転売したり奴隷市場へ売ってしまう権利を持っている。だからオーナーの命令には逆らわないほうがいい。気に入られるよう努力することだな」


「もし逃げたら?」


「首輪をつけているから逃げ出すことなんてできないぞ。逃げ出した従者や奴隷は5日後に従属の首輪によって殺されてしまうからな。首輪を外そうとしても、その場で電撃魔法が発動して殺される。おかしなことは考えないことだ」


「それなら従属の契約をしてしまったら救いようがないってことですか?」


「いや、そんなことはない。従属契約の束縛期間は15年なんだ。それが明ければ自由ってことさ。その15年間で技能を高めて独立できるようになればいいんだ」


 そう言えば、あの爺さんもそんなことを言ってたな。


「ここに来る前に言われたんですけど、いつかは一人前になって、ギルドに入れって」


「そのとおりだ。色々なギルドがあるのは知ってるだろ? 身分が低い者は、そのギルドで親方を紹介してもらって、親方に従属契約で弟子入りするのが普通なのさ。うちのサレジ隊でも半分くらいはそういう連中だ。15年間みっちり修行して独立していく者も多いよ。まぁ女の場合は家事や男の相手もしないといけないから、たいへんだがな」


「その……、男の相手というのは?」


「そりゃ、夜のお相手さ。うちの隊には男の隊員が十七人いるだろ。女は三人、ラウラとリリヤ、ロザリだけだ。しかし、ラウラは隊長の専属従者だから、おれたちは手が出せない。だから、おれたちの相手をするのはリリヤとロザリだけだ。男には十日に一回くらいで順番が回って来ていたんだが……」


 副長の話を聞いていて、自分がどういう立場に追い込まれようとしているのか分かってきた。自分の鼓動が速まっている気がする。


 そんなオレの気持ちに構うことなく副長は話を続けている。


「おまえが隊に入ってきたからな。七日に一回はできるようになるって、みんな喜んでいる。ここだけの話だが、サレジ隊は報酬も待遇も最悪ってことでハンターの間では有名なんだが、たった一つだけ良いところがある。それは男の隊員たちへ個室と女をあてがってくれることなんだ。女を楽しむには何日も順番待ちをしなきゃいけないがな。ともかくそれがあって、うちの雇われ隊員たちは隊への不満は我慢してサレジ隊に留まっているんだ。今度、おまえが新たに来てくれたから隊員たちの楽しみが増えたし、順番待ちの日数も減った。隊員たちはホントに喜んでるんだぞ」


「そんな……。ウソでしょ?」


「いや、ホントのことだぞ。サレジ隊の隊員たちは不満タラタラなんだ。サレジ親方も奥さんも弟子たちに辛く当たるからな。弟子の中にはおれと同じような雇われ隊員たちが半分くらいいるんだが、まるで従者や奴隷と同じように扱き使われてる。そのせいでサレジ隊はどのハンター隊よりもキツイと言われてるんだ。そんな中で隊員たちは女を楽しむのが待ち遠しくて堪らないのさ」


「いや、信じられないのは男の隊員たちの話じゃなくて、女の従者側の話なんですけど……」


「ああ、そうか。おまえはそっち側の立場だからな。今の話はウソじゃないぞ。サレジ隊では女の従者は男の相手を毎晩することになるからな。ちょっと大変だと思う。だが、慣れれば楽しくなるさ。まぁ、おまえの場合、隊員たちの相手をするのは隊長が戻ってくるまではおあずけになるが……」


 そこでオレは思わず「ちょっと待って!」と声を上げてしまった。


「どうしたんだ?」


「そんなこと、毎晩してたら、妊娠……赤ちゃんができてしまうでしょ!?」


「そんな心配はいらない。避妊の呪文があるから大丈夫だ」


 頭がクラクラしてきた。

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