拝啓、記憶の中の君へ

夢うつつ

第1話

 今日、あなたに会える…

 いつも意地をはって言えないけど…大事なこと…今日は、今日だけは素直になって伝えよう…



「すぐに戻ってくるから。中で待っててくれ」

 部屋の前に着いたとたんドアが開く

 待っててくれた…?と一瞬心が踊るも、実際は上着も着こみ、今にも走り出しそう…

 そんなに焦って…どこに行くの…?

 誰のところへ行くの…?やだ…今日は…

「いや…待たないよ…」

 上着の裾を握って止めようとする…

「すぐ戻るから…それかまた今度…」

 私の態度に少し驚くも、いつものようになだめてくる…

「いやっ…待たないってば!」

 男の前に立ち塞がりいっそう強く上着を引っ張り

「行かないで…」

 小さく、泣きそうな声で呟く…

 顔は上げられず、男の表情は見えない…



 男は少し異変を感じ思考を巡らせるも、行かなければいけないという考えは変わらなかった…

「中で待っててよ。朝までには戻るから。これ…預けておくから…」

 男はそれで納得してくれとばかりに家の鍵を渡し、走り去っていった…


 女は玄関の前に崩れ落ち、声を殺し肩を震わせる…

 しばらくしてゆらりと立ち上がると男の家に入り、しばらくすると出てきて鍵をかけ、鍵をポストにいれるとそのまま夜の闇に消えていった…


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