第4話 配信準備
(ん? 今日はやけに視線を感じるな)
祈はギルドに入ってから感じる複数の視線を疑問に思いながら、受付に向かって歩いていく。
その途中で顔見知りの男に話しかけられた。
「よお、なんだか大変なことになってるみたいじゃねえか」
「松門さん、こんにちわ。今日も調子良さそうですね」
「おう! まだまだ現役で続けていくぜ!」
話しかけてきたのは松門という老いを感じる白髪混じりの頭髪とそれとは反対に活力漲る大きな体をした男だった。
「無理しないでくださいね。そういえば大変なことってなんですか?」
「なんだ知らねえのか。俺も若いやつらから聞いたんだけどよ……」
松門さんが「大変なこと」について話そうとしたとき、僕と松門さんに近寄る足音を聞こえた。その方を見ると専属受付係である
「もしかしたらあの件のことかもな」
「あの件?」
「まあ、俺じゃなくて柊ちゃんに聞いたほうがわかりやすいだろう。じゃあなー」
そう言い終えると手を振って去っていく松門さん。なんのことかわからないがどうやら大変なことが起きているみたいだ。
改めて僕のそばに駆け寄ってきた柊さんに挨拶をした。
「柊さん、お疲れ様です」
「よ、縁木さん、お疲れ様です。今お時間よろしいでしょうか?」
柊さんは僕が冒険者になったころから付き合いのある受付嬢だ。ちょうど同じころに受付嬢になったこともあり、仕事の同期のような存在だと思っている。
「大丈夫ですけど、なんでそんなに慌ててるんですか?」
「縁木さんに関わる重要なお話があります。事情説明もしたいので応接室に移動しましょう」
重要な話というのはピンとこないが、柊さんの慌てぶりからしてかなり逼迫した状況みたいだ。柊さんが提案した通りに応接室に移動して事情説明をしてもらう。
「……昨日、助けた子がダンジョン配信をしていて、そこにエリに戦ってもらっていた僕が映ってしまった、と。なんか昔、同じようなことがあったような気がします。規模は全然違いますけど」
昔、いつも通り召喚獣に戦わせて自分は戦わないところを謎のイケメンに目撃され、糾弾されたことがある。
そのときは個人間のやりとりで事は済んだが、今回は世間に広がってしまったようなので沈静化は難しいだろう。
「縁木さんもすでにギルドに入ってから複数の疑惑の視線を感じたと思います。ギルドとして、この事態を早急に解決したいと考えているのですが、それには縁木さんのご協力が必要不可欠なんです」
「協力することに関して異存はありません。でも解決する必要ありますか? 僕は基本的にソロで活動してるから悪評が広まっても別にどうってこともありませんけど」
「実はギルドにかなりの数のクレームが来ていまして……」
柊さん曰く――
「未成年冒険者が搾取されないようにするのがギルドの役目なのにそれを見逃すのか!?」
「あのクズ野郎の情報を出せ!」
「ギルドはあの犯罪者をどうにかしろ!」
――というものから――
「美少女冒険者ちゃんを紹介してください!」
「ダンジョンじゃロリにご主人様呼びOKってホント?」
――など意味が分からないものまで。一日の間にとんでもない数のクレームが殺到しギルドの電話受付が麻痺しているらしい。
「そんなことになってたんですね。世間には暇な人が多いんだな~」
「こういったこともあり、縁木さんにご協力をお願いしたいんです」
「そういうことなら勿論、協力しますよ」
「ありがとうございます。では早速、縁木さんの悪評払拭に協力してくれる方がいますので、その人にあってほしいんです」
「……もしかして隣の部屋にいる人ですか?」
さっきから隣の部屋でこちらの様子をチラチラと伺う気配をうっすらと感じ取っていた。おそらくこの人物が協力者だろう。
「さすがですね。では入ってきてください」
柊さんがそういうと隣室につながる扉が開かれ、その人物が応接室に入ってきた。僕にはその人物に見覚えがあった。
その人物は昨日、僕が助けた冒険者の女の子だった。
「君はえっと、涼風さんだったっけ?」
「縁木さん!」
「えっと、はい」
急に大きな声で名前をびっくりしてしまった。そういえば僕、名前を教えたっけ? と思ったが多分、柊さんに聞いたんだろうと推測した。
涼風さんは僕の名前を呼ぶと頭を勢いよく下げた。
「ごめんなさい! 私のせいで縁木さんに迷惑をかけてしまって。命を助けてもらったのに……」
「ああ、そっか。配信してた子って君か」
「!? は、はい。その節は本当に申し訳ありません」
「いや、謝罪はもういいよ。それより柊さん、彼女が協力者ってどういうことですか」
謝罪する涼風さんの頭を何とか上げさせて椅子に座ってもらおうと四苦八苦しながら、柊さんに質問する。
「これは私たちからの提案なんですか、縁木さん。配信をしませんか?」
「配信? 配信をしてエリたちを召喚獣だって知ってもらうってことですか」
「はい。その他の方法も考案したのですが、配信をして縁木さんの実力を世間に知ってもらうことが一番悪評を払拭できる方法だと思います。あとから言い訳ができないほどに徹底的に、です」
「なんか柊さん怒ってます?」
「怒らないはずないじゃないですか。縁木さんは日本が誇る最強の冒険者さんなんですよ。そんな凄い人がバカにされたままなんて許せませんよ」
「あはは……えーとそれでその配信と涼風さんがどう関係してくるんですか」
気まずい話題が出てしまったのですぐに話の向きを修正する。
今のところ配信することに異論はないがどうして涼風さんが、という疑問が出てくる。
配信の仕方や作法についてレクチャーしてもらうのだろうか。
「私がお願いしたんです。少しでも恩返ししたいから。私の配信チャンネルを使って配信をすれば、きっとたくさんの人たちに見てもらえて誤解を解くことが出来ると思ったんです」
「なるほどね。でも君は大丈夫? 配信チャンネルとかっていろいろと規約がありそうだし、君が不利益を被るようだったら別に協力しなくても……」
「いいえ! 私にやらせてください!」
「そっか。じゃあお願いしようかな」
「はい! 任せてください!」
勢いにのまれたような気がするが中々悪くないんじゃないだろうか。
例え、自分の配信チャンネルを開設して配信しても、作り立てのチャンネルの配信を見る者など少数だろうし、それだと多くの人に僕の召喚獣やその実力をしってもらい悪評を払拭するという目的を達成できない。
そういった点から考えると涼風さんの提案は十分に魅力的だ。
「では配信内容について意見を交えましょう。何度も同じような配信をするのは縁木さんに負担がかかってしまいますから、一度の配信で悪評や誹謗中傷を吹っ飛ばすようなインパクトのあるものを考えましょう」
そうして僕は涼風さんと柊さんとで意見を言い合って配信内容を決めた。
かくして僕、縁木祈は涼風さんのチャンネルを借りて釈明配信をすることになったのであった。
【D.D.D所属配信者】涼風有栖について語るスレ
1 ただの名無し
誰かあの変態クズクソ野郎についてわかったやついる?
2 ただの名無し
その話は特定スレでやれ定期。ここは有栖たんについて語り合う紳士のたまり場です!
3 ただの名無し
紳士のたまり場っていうとなんか怪しく聞こえるよね。それはそれとして有栖たんが助かってホントよかった。ホブゴブリンにやられそうになったときはマジで息止まったわ。
4 ただの名無し
マジそれな。助けてくれた美少女に感謝。
5 ただの名無し
あの子名前なんていうんだろう。凄く可愛かったけどもしかしてD.D.Dの新規メンバーとか?
6 ただの名無し
新規メンバーについての情報まだでてない&時期外れで違うんじゃない。まあ新規メンバーでいてほしいってのはわかる。可愛かったからな。
7 ただの名無し
美少女のスクショガン見してて思ったんだけど、あの子の装備ってどこのだろう。俺、一応【鍛冶師】なんでそっち系の知識は結構あるんだけどわかんなかったんだよね。
8 ただの名無し
ガン見してたのか……そういうのあんま書き込まないほうがいいぞ。そういう視線を気にして配信者やめちゃった子だっているんだから。
9 ただの名無し
装備は俺も気になってた。あの子ぐらいの年齢の子が着る装備作ってるとこの商品みてみたけどそれっぽいのがない。
10 ただの名無し
ホブゴブとの戦闘見てると結構攻撃くらってたのに、戦闘後の映像みると傷が全くないのってどういうこと。今の装備ってそんなに性能良いの?
11 ただの名無し
見たことないな。でもかなりの業物ぽかったし良い値段するんじゃないかな。
12 ただの名無し
ここまでで誰もクソ男の話してないのな。
13 ただの名無し
しないっていうかできない。特定スレ覗いてみたけどほとんど情報見つかってなかったな。目撃情報すらもギルド内でチラホラレベルだし。
14 ただの名無し
あの可愛い女の子の情報も少ないみたいだしマジで謎の存在だよな。
15 ただの名無し
おい、お前らヤバいぞ。
〈 URL:✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕ 〉
16 ただの名無し
! 有栖たん昨日の今日で配信するの!?
17 ただの名無し
しかも昨日助けてくれた人にお礼って、これって美少女にってこと?
18 ただの名無し
そうだと思いたいけど、もしかしてクソ野郎にもなのかな
19 ただの名無し
有栖たんにロリコンの魔の手が!
20 ただの名無し
有栖たんはロリじゃねえ。〇すぞ。
21 ただの名無し
過激派がおる……それにしても心配だな。配信絶対見よ。
22 ただの名無し
何かが起きても俺たちじゃどうにもできないけどな!
23 ただの名無し
今はまだその時をただ待つのみ……
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