第3話 誤解
〈 ダンジョン中層 平野部 〉
:有栖ちゃん頑張れ!
:救援まだ来ないのかよ! もう結構時間たったろ!
:中層だからいると思うんだけど
:来ないんじゃいないのと一緒だよ!
:見るの辛くなってきた
「あはは……ちょっと不味いな~」
悲惨な気持ちになっている視聴者たちを何とか元気づけようとなるべく明るい口調で喋ろうとするが、度重なる攻防で体は傷つき所々から血が出ている。
ホブゴブリンにも何度か双剣の一撃を与えたがどれも有効打にはなっていない。
長時間の戦闘で疲労が蓄積して足取りが重い。
(そろそろ限界かも……!? やばっ)
ホブゴブリンが大技を放つために大剣を構えるのと同時に赤いオーラをまとうのを見た有栖は咄嗟に回避行動をとるが疲労から足がもつれ、回避が一瞬遅れる。
ホブゴブリンの攻撃をギリギリで避けることに成功するが、その衝撃で吹っ飛ばされ地面を転がる。
急いで体勢を直そうとするが、そこにホブゴブリンの追撃が襲い掛かる。
異常な強さを持つホブゴブリンとの戦闘を綱渡りするかのように繰り広げていた有栖の致命的な状況にコメント欄の動きが止まる。
スローモーションのように映る振り下ろされた大剣の動きを見て、これから自分に起こることを想像し、有栖は恐怖から目を閉じる。
瞬間、鼓膜を大きく震わせる甲高い音が鳴り響いた。
恐る恐る目を開くとそこには――
「あ、あなたは……」
――白い鎧に身を包む水色の髪をした少女が悠然と佇んでいた。
……ほんの少し前のこと。
「デバイスに送られてきた情報だとこの辺りなんだけど」
祈はすでにデバイスに届いた情報を頼りに救援要請が出た場所に来ていた。さらに正確な場所を割り出すためにスキルで強化した嗅覚を十分に活かす。
「エリ。どう、何か見える?」
召喚獣であるエリは僕よりも目がはるかに良いので救助者を探してもらいながら、平野を駆け抜けていく。
すると何かを見つけたのかエリが服の裾をつまんだ。
「マスター、あそこを」
エリが指さした方向に目を向けるとそこには、大剣を振り下ろそうとするホブゴブリンと大地に倒れている冒険者がいた。
このままでは間に合わない、一瞬でそう考え、行動に移す。
「エリ! 投げるよ」
「はい!」
片手で抱き上げていたエリを【狼人剛力】で強化した筋力で思いっきり投げる。
投げられた勢いで真っすぐ飛びながらエリは救助者に振り下ろされる大剣を防御すべく小盾を構える。
大気にぶつかりながら、弾丸のように飛んでいくと目前に迫った大剣を装備した小盾で弾き、空中で一回転し着地する。
「あ、あなたは……」
「マスター! この方の治療を!」
救援要請を出した者――有栖の怪我の有無を確認すると、大剣を弾かれたことで標的をエリへと変えたホブゴブリンにショートソードを向け、戦闘を開始した。
危機一髪の状況に現れた水色の髪の少女の存在に、有栖は頭を混乱させながら呟く。
「あの子、強い」
「君、大丈夫?」
「えっ、とあなたは……」
:救援きた!
:誰か知らないけどナイスゥ!
:てかあの子可愛くない?
:マジそれな
:お前ら有栖たんが助かったってのに呑気すぎ
「あー、結構怪我してるね。ちょっと待って【
【技能模倣】でコピーしたスキルを解除して、改めてスキルをコピーする。僕は一度に一つしかスキルをコピー出来ないので、こんな面倒くさい手順を踏まなければいけない。
それはそれとして目の前にいる女の子に声をかける。
「君が救援要請を出した子でいいのかな」
「は、はい。そうです。あの助けていただいてありがとうございます」
「冒険者の先輩として当たり前のことだから気にしないで」
:気にしないでって言ってるけど助けたのはあの女の子だけどな
:傷治してくれたじゃん
:美少女こなかったら間に合わなかったぞ
:マジ美少女。誰かあの子のこと知らない?
:この人はパーティメンバーかな
:その子紹介してください!
:浮気か。有栖たんがいる前で
女の子の怪我を全部治したので戦いを任せているエリのほうを見てみると、意外なことにホブゴブリンを相手に苦戦しているようだった。
あれ? と不思議に思う。エリのジョブは【守護騎士】なので攻撃が得意ではないが、それにしてもただのホブゴブリンにここまで苦戦するとは思えない。
何か理由があるのかと思い、戦いを観察していると女の子に話しかけられた。
「あの、すみません。加勢したほうがいいんじゃ……」
:ほんとそれ
:なんで棒立ち
:パーティ組んでるんじゃないの
「そうしたいけど、あのホブゴブリンの強さが気になってね」
「あのホブゴブリンは【
「【剣闘士】? レアジョブの? それでもまだちょっと強いような……」
そう考えているとある可能性を思いつく。
「えーと君は……」
「あっ私は涼風有栖っていいます」
「涼風さん、質問なんだけど、もしかしてこのあたりにモンスターいなかったんじゃない?」
「! どうしてそれを」
「多分、あのホブゴブリンは他のモンスターを倒してレベルアップしてると思う。普通、モンスターは共闘したり群れたりするけど、【剣闘士】みたいな特定のジョブを持つモンスターは他のモンスターを倒してより強くなろうとするんだ。あのホブゴブリンもそれだと思うよ」
そう涼風さんに説明している間もエリとホブゴブリンの戦いは続いていた。さすがにここまで長引くと心配になる。【召喚士】のスキルでエリに念話を送る。
『エリ、大丈夫? ほかの子、召喚しようか?』
『マスター! ご心配ありません! すぐに勝利を収めて見せます!』
(う~ん。これは召喚すると後で涙目になって「私、役に立ちませんか」ってなるパターンだな)
前にそれで本当に泣かれてことがある。ここはエリに任せて、静観してたほうがいいな。
「加勢しなくても大丈夫みたいだよ」
「え!? でも、もしあのホブゴブリンの攻撃があの子に当たったら」
「エリは防御特化のジョブだから仮に攻撃が当たってもノーダメージだよ」
それにエリは戦闘経験が豊富だから攻撃をいなすのはお手の物だ。あのホブゴブリンの攻撃を受けることはまずありえない。
祈は
しかし、そのことを知らない多くの者たちは――
:は? 防御特化だから攻撃が当たってもいいとか頭おかしいんじゃないか
:このホブゴブリンのことも詳しいみたいなのになんで戦わないの
:装備的に前衛じゃないにしても後衛として加勢できるじゃん
:こんな可愛い子に戦わせて自分は戦わないのマジでクソ
:有栖たん助けてくれたからメッチャ良い人だと思ったのに……
:あんな美少女がぼこぼこにされてるのに酷い
自分に対する評価が知らないところで下落していることに気付かずにエリが戦い終わるのを待つ祈。
しばらくしてついにエリの剣撃がホブゴブリンを倒す。
倒されたホブゴブリンの体が黒い霧となって消え、そこには冒険者の収入源であるドロップアイテムが落ちていた。
ドロップアイテムを拾い急いで祈のもとに駆け寄るエリ。
「マスター、遅くなってしまって申し訳ありません」
「大丈夫だよ。よく頑張ったね」
:ますたあぁあぁあ?
:マスターって呼ばせてるのか(ドン引き)
:きも
:頑張ったね、じゃないが
:おい誰か切り抜きして拡散してくれよ
:もう切り抜かれてるよ
「じゃあこれ、どうぞ涼風さん」
「えっドロップアイテム!? でも倒したのはその子なんだから受け取るわけには……」
「私はドロップアイテムを必要としないので大丈夫です」
「あのホブゴブリンには結構ダメージが入ってたから涼風さんが受け取ってくれると嬉しいよ」
:お前が倒したわけじゃないだろ
:てかもしかしてこの子が倒して手に入れたドロップアイテムこいつが吸ってるんじゃないか
:はっ寄生かよ。クズ野郎じゃん
:ギルド仕事しろよマジで
:ホントそれ。未成年冒険者が搾取されないようにするのが仕事でしょ
:てかこの子何歳? 見た目有栖よりも年下じゃね
:それだとダンジョン入れないよな?
:高ランク冒険者が同伴すればイケるけど……
:じゃあこいつ推定中学生に戦わせて搾取してるクソクズ野郎になるじゃん
:はい通報しました
「それじゃあ僕たちは外にでるけど涼風さんはどうする?」
「え、あ、私はまだここにいようかなあと」
「そっか。じゃあここでさようなら」
「無理しないように頑張ってください」
「あっはい。さようなら~」
涼風有栖はまだ少し混乱していた。危機的状況から救ってくれた少女と青年に感謝していたし、お礼もちゃんとしたかったが名前を聞き忘れてしまっていたのだ。
だがこれは偶然であったが幸運だった。祈の名前が配信に乗らなかったからだ。
少ししてから状況を整理できてきたのかポツリと呟く。
「凄かったな……あ! そうだ配信……ってええぇ!! コメント欄が凄いことになってる!?」
この日、縁木祈という存在は悪い意味で世間に認知されたのであった。
召喚獣(美少女)に戦わせていたら、女の子をこき使うクズ野郎認定されたので釈明配信する ~ち、違う!僕の召喚獣だから!←余計に炎上~ 一円零銭 @1n0se
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