第2話 磯端健成は、最強の装備が欲しい。


僕には、自慢のお兄ちゃんがいます。


大成兄ちゃんは、「ゼランティア大陸」という異世界に転生して、勇者として名を馳せ、そしてこの間、日本に生還したんです。



僕は、毎晩お兄ちゃんから、「ゼランティア大陸」の話を聞いて、

にいちゃんはちょっと、匂いとかで苦戦したのかなあと思いましたが、

僕も、お兄ちゃんの意思を継ぎたいな!と思ってます。


「にいちゃん!!にいちゃん!!」


「はいーなんですかー?」


「俺はやっぱり、ゼランティア大陸に行きたい!!匂いとかもうどうでもいい!」


「あ、そう・・・。ちなみにー・・・なんで?」


「俺は人間として成長したいんだ!ゼランティア大陸で!」


「まあ、君の人生だし好きにすればいいともうよ?・・・でも、おすすめしないけどね。」




[異世界の真実、兄が語る現実]


「なんだよ。俺間違ってること言ってるか?」


「いや、考え方としては立派な部類だと思いますよ?向上心を失ったら人間終わりですから。ただー・・・ゼランティア大陸はー・・・

 やめた方がいいんじゃないかなー。」


「なんでだよ!強い敵と戦う!仲間を信頼する!これで人間は成長できるだろ!?」


「ええ。それはできると思いますよ。」


「じゃあどうして!?」


「ケンちゃんね、強い敵と戦うには、ケンちゃんがいう通り強くならなきゃいけないよね。」


「うん!最強の装備を集めて、強敵を倒す!!そしてちゃんと埋める!!」


「はいそれです。最強の装備。これがいかんのですよ・・・。」



[異世界の真実、兄が語る現実]


「どういうことだよ!?」


「・・・ちょっと紙とペン貸して。・・・

 ・・・にいちゃん、最終的にこの『ラグナロクの鎧』を身に纏って戦ってました。こんなデザインの鎧でした。」


「・・・すげえ・・・かっこいい!!かっこいいよ兄ちゃん!!」


「・・・本当にそう思うかい?」


「思う!なんか、強そう!!ザ 勇者の鎧って感じする!!」


「君はこの鎧を見て、本当に何も感じないのかい?」


「とにかく強そう!ドラゴンの炎もこれなら耐えれそう!って感じる!!」


「・・・俯瞰でみればそうなのか・・・お兄ちゃんね・・・この『ラグナロクの鎧』を見るだけでジンマシンが湧くんだよね・・・。」


「なんでだよ!世話になったんだろ!?これで強いモンスターと戦ったんだろ!?」


「ええ。まあ。やりましたよ。戦ってる時は確かに助かりましたさ。ただ!常に戦ってるわけじゃないからね!?」


「どういうことだよ。」


「ケンちゃん・・・突然だけど『ブリーフ』っていうパンツ・・・知ってる?知らないよなーもう知ってる人誰もいないよなー・・・。

 お兄ちゃんはね、この『ブリーフ』をぎりぎり経験してきた世代なんだ・・・。いわば『ブリーフ最後の民』『ラストオブ・ブリーフ』と呼んでくれて良い。」


「ブリーフブリーフうるさいな・・・。」


「この『ブリーフ』がね・・・地獄だったんですよ。もーなんだその・・・蒸れて!!

 中が痒くて!!

 お兄ちゃん幼き頃、人目を盗んでこっそり掻いてた・・・。」


「汚ねえな!!」


「でもそのくらい痒かったんだもの!!その後『トランクス』が出てきた時は感動したもんだよー・・・

 すげえ!!通気性って、すげえ!!って・・・で、この鎧です!どうですか!!」


「・・・いやどうですかと言われても・・・」


「最悪ですよ!?通気性は。通気性と防御力ってトレードオフの関係ですからね!?しかもこれの最悪なところは・・・

 圧迫するんだよねそのー・・・男性のデリケートな部分をさ。それでもー蒸れて痒くて・・・」


「我慢しろよそれくらい」


「体の痒い部分数時間も我慢できますか!?それで集中して戦闘なんてこなせますか!?

 しかも考えてごらんなさい。『最強の鎧』ですよ?」




[異世界の真実、兄が語る現実]



「うん?」


「掻けども叩けども効果ないんです!固すぎて!!!強度強すぎて!!!痒くても鎧の間に指とか入んねーからさあ、

 ワンサイズ大きい鎧にしてみたら今度は肩が凝るわ、あちこち擦れて痛いわで・・・最悪でしたよ!?」


「俺は魔法で鎧ってできてるのかと思ってた・・・」


「魔法だとしたら、そのMPは?どこから供給されるんです?永久機関ですか?そんなものあったらねえ・・・

 何も転生者なんて必要ないわけですよ。」


「大丈夫!俺は痒みなんて感じない!!使命感があれば大丈夫!!」


「・・・ヴォルカンの砂漠・・・」


「え?」


「冒険では必ず、砂漠は通らなければならないんです。これはどういうわけか、そうなんです。

 砂漠って・・・知ってますよね?」


「知ってます。」


「砂漠にね・・・鉄板を持って行って・・・その上で卵を割ったらどうなると思う?」


「・・・え?目玉焼きになっちゃう・・・?」


「お兄ちゃん、なーんにも知らないでこの鎧着て砂漠に行ったら・・・そうだなあ。

 あれは・・・例えるなら電子レンジの中ってこんなんだろうなあ・・・って。お兄ちゃん全身火傷しちゃって・・・

 その時の痕見ます?」


「・・・結構です。」


「砂漠は怖いよー・・・いくもんじゃないよー・・・。かといってじゃあ、Tシャッツ短パンで行ったら良いとはならないんですよ。

 今度は全身、日焼けしちゃうから結局大火傷なわけです。だからねー厚い布を全身に纏って移動することになるんだけど・・・

 そん時にこいつ(鎧)がさあ!!!運ぶのに重くて邪魔でさあ!!!ほんと!何度捨てようと思ったか!!まとめると、つまり」


「つまり?」


「そういう苦行を受けたいんだったら、異世界はアリ。」


「・・・ ・・・たいせー。オイ、たいせー。」


弟の健成は、兄の大成に肩パンをした。健成は論理が行き詰まるとこの癖が出る。


「全身蒸れて数時間痒みに耐えられる覚悟が決まったら、また話をしにきなさい。お兄ちゃん新潟の塩引き鮭食べるから。」

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