異世界の真実、兄が語る現実

@SBTmoya

第1話 磯端健成は異世界に行きたい。

僕には、自慢のお兄ちゃんがいます。


大成兄ちゃんは、「ゼランティア大陸」という異世界に転生して、勇者として名を馳せ、そして1週間前に日本に生還したんです。



僕は、毎晩お兄ちゃんから、「ゼランティア大陸」の話を聞いて、

そこで起きたこと、強力なモンスターとの戦い。仲間との出会いや別れを聞いて、

僕も、お兄ちゃんの意思を継ぎたいな!と思ってます。



「にいちゃん!!にいちゃんにいちゃん!!」


「はいーなんですかー?」


「決めた!!俺もいくよ!ゼランティア大陸に!!」


「え?ああ。そう。」


「にいちゃんの意思を継いで、俺も勇者になるんだ!!」


「・・・ ケンちゃん。」


「止めてもダメたよ!俺の覚悟は決まってるから!」


「まずはね、話を聞きなさい。あのね。・・・やめときなさい。」


「嫌だ!冒険が俺を待ってるんだ!」


「そうじゃないのそうじゃないの。まあまあ、座りなさいな。」


「え、ゼランティア大陸の話を聞かせてくれるの!?」


「うーん・・・あまり、話したくないんだけどね。多分、ケンちゃんが思ってるような場所じゃないのよ。」



[異世界の真実、兄が語る現実]




「にいちゃん・・・やっぱりそうか。」


「何。」


「嘘だったんだろ!異世界転生したなんて!」


「いや、それは本当です。私はゼランティア大陸で冒険の日々を送ってました。」


「じゃああっちか!ゼランティア大陸には、各地に魔法の柱が立っていて、青いドラゴンが空を飛んでて、万物の真実を水面に映し出す湖があるって言うのが、全部嘘なのか!!」


「いやいや、それも本当です。怖かったよおドラゴンは・・・。」


「ゲームみたいな場所だったんだろ?DQとか、FFの6までみたいな世界だったんだろ!?」


「そうだよー。地面がぬかるんでてね・・・。見たことない植物とか鳥とか、そこらじゅうにいたよ。」


「それが俺の思ってる世界と違うって、どう言うことだよ!!」


「ゼランティア大陸はね・・・。臭いよ?」




[異世界の真実、兄が語る現実]



「はあ?」


「臭い。臭いのあそこ。最初に転生した場所がノルドランド王国っていう国なんだけどね・・・そこでにいちゃん、まず、なんて思ったと思う?」


「え・・・転生者としての使命を果たせるかとか?」


「違う違う・・・」


「どうやったらこっちの世界に帰れるだろうとか?」


「違う違う・・・にいちゃんが思ったのはね。『なんでインフラ整備してねえんだここ!?』って、そう思ったのよ。」


「イン・・・フラ・・・?」


「にいちゃんは転生した瞬間からピンチでした。なぜなら、その・・・『もよおしてた』からね。

 そこでまず私は、町の人に話しかけたんです。

 町の人は『ここは、ノルドランドの町です』って言ったのをはっきり覚えてるけど、にいちゃんは、

 『そんなことより、トイレどこですか?』って聞いたんだよ。そしたら町の人なんて言ったと思う!?

 『トイレ?なんですかそれは?』だよ!?それでにいちゃん思い出したんだけど・・・

 あーそう言えばそうだよな。RPGでトイレって見たことなかったよな・・・ってね・・・」


「え・・・それで、どうしたの?」


「もーNGSですよ。」


「NGS?」


「野糞。」


「嘘だろ!?」


「お兄ちゃん、男でよかったなーって、思いましたよ。

 いやもちろん、後で探したらトイレ・・・というかまあ、処す場所?みたいなのは、あったよ。」


「あったんだ。」


「壺だったけどね?」


「壺!?」


「後で説明するけど、異世界には基本的に下水がないのよ。かといってあれだろ?バキュームカーとかが来るわけじゃないだろ?

 じゃあ、この壺どうするんですか?って聞いたら、溜まったら庭にまく みたいなこと言うんだよ!?

 それってどう言うことかって、結局野糞と変わらないんだもの!!

 臭かった!ほんと臭かったー。ノルランド王国は臭かった!!あと彼ら、手とか洗わないから、もー臭くて臭くて!

 お兄ちゃんあまり人と関わらないようにしてた。」


「でも!でもにいちゃんはその後ノルランド王と謁見して、転生者として魔神フーバスを倒す使命を与えられたんだろ?」


「うん。それは、まあそうです。でもその使命も、ケンちゃんには勧められません。」


「なぜ?突然の転生者としての使命を受け入れられなかったから?」


「いえそこは、受け入れましたよ。そんなとこ突っかかってもねぇ。何も始まりませんから。」


「外のモンスターが強かったの!?考えてみれば、にいちゃんは転生したばっかりで強くないもんね。」


「あー。まーその辺は・・・なんとかしましたよ。コツコツとレベル上げとかすればそのー、倒せなくもないからね。」


「じゃあ何が勧められないのさ!」


「外はね・・・臭いよ?」




[異世界の真実、兄が語る現実]



「また匂いかよ・・・」


「だってそうなんだもの。これね。あれーなんでだろう・・・ってずっと考えてたんだけど、途中からはっきりわかったよね。

 道中が臭いのはね。『レベル上げという弊害』です。」


「どういうこと?」


「モンスターをやっつける。すると、やっつけたモンスターがお金をくれるシステムは・・・まあ百歩譲ってお兄ちゃんは受け入れました。

 問題は、やっつけた後の事、案外誰も考えてないんだよね。」


「え・・・モンスターの亡骸ってこと?」


「そう。転生者って、今ではものすごい数いますからね?みんな転生したがるもんだから・・・。でも、だーれも後始末の事考えてねえの。

 よくて、食っちゃうとかだよ。でもお兄ちゃん胃腸が弱いから、その手のジビエは胃が受け付けなかったね。

 結果、外はそういったそのー・・・御遺体だらけで。もうとんでもない匂いが充満してるわけです。」


「違うモンスターが死体を食うんじゃない?」


「そのモンスターも転生者は狩りますよ?血の巡りが悪い世界なんです。」


「燃やすとか埋めるとかは?」


「いや火は重要だよ?これは現世でも転生先でもそうなの。まず火なのさ。

 火がなくなったら真っ暗だからね。生死に直結するわけです。だから燃料は無駄にできません。」


「いや、魔法・・・」


「完全にもやし切るのにどのくらいの火力プラス時間イコールMPがかかるとお思いか?勿体無いんですよ。だから基本、みんな放置するんです。

 それで一握りの良心が残ってる人が、

 埋めていくわけですよね。そういった御遺体を。もちろん、そういう訳で、下水が掘れないんですよ。もー地面にいろんな死体が埋まっちゃってるから。

 陸も地中もくっさいわけです。」


「じゃあ、益虫、害虫みたいに、モンスターの死骸を掃除してくれる良いモンスターがいるんだよ!で、そのモンスターはやっつけちゃいけない決まりになってるの!」


「そんなこと誰か教えてくれましたか!?私が請け負った任務は『魔神フーバスを倒せ。以上。』でしたよ!」


「暗黙の了解なんだよ!」


「なんでそんな重要な事わざわざ暗黙の了解にするんですか!?下手したらフーバスを倒すことより重要ですよそれ!」


「・・・俺はてっきり、モンスターって倒したらフワって消えるものかと思ってた・・・。」


「・・・それを言い出すと・・・モンスターだけが都合よく死んだらフワって消えるんですか?という話でね?」


「どういう事?」


「たまに思うけど、モンスターと動物の違いって、なんですか?私が転生先で食べれそうなのは豚さんか牛さん、あとは魚ぐらいでしたけど、

 彼らをタンパク質に変える過程で、フワって消えちゃったら困りますよね。そう都合よくできてないんです。まとめると、つまり。」


「つまり?」


「異世界は、臭い。」


「・・・ ・・・たいせー。オイ、たいせー。」


弟の健成は、兄の大成に肩パンをした。健成は論理が行き詰まるとこの癖が出る。


「匂いに我慢できる覚悟が決まったら、また話をしにきなさい。お兄ちゃん、チーズタッカルビ食べるから。」

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