冒涜の霊廟⑤終幕
落下の衝撃を蹴りで相殺するなんていう荒技をして、諸々のダメージを修復しているカエルを眺めていると背中を軽く叩かれる。首を動かして後ろを見れば、呆れの色が目の中に浮かんで薄く苦笑いのような笑みを浮かべているファナがいた。
「全く随分と馬鹿げたことを、というか無茶苦茶なことをしたな?」
「……今回ばかりはする必要がないことをしたというのは事実だから、反論は一切出来ないな」
「そうだろう、そうだろう。まぁそれは後で弄るとして、もう死んだのか?」
「まだだ、そっちは?」
「こっちも「ん、終わった」「終わりましたよぉ」まだだと言うつもりだったんだが、終わったらしい」
「くはっ」
相変わらず締めきれないというか決めきれないファナの姿に笑いを溢しつつ、この場でやらなけらばならない仕事を終わらせていないのは俺だけだということに気付いたのでさっさと目の前のカエルにトドメを刺そうと思う。
「それじゃあ、俺も終わらせるとしようか」
「剣はいるか?」
「いらん」
再生を終わらせて体を起き上がらせながらこちらを睨みつけるカエル。
普通だったらあそこまでボコボコにしたら多少強い生物だとしても、怒り湧き上がらせるより恐怖とかを浮かべて逃げ出すものなんだがな。
……どうにも俺への敵意というか殺意というか、俺を殺す事に執着しているような感じがするな。目覚めて以降は俺を殺そうと動き続けていたし、ファナが無理をするだけの攻撃で邪魔をしてから俺の下に来るぐらいには執着しているみたいだしな。
まぁ、どうでもいいか。
攻撃に出られる前に殺してしまおう。グッと足に力を込めて土埃を巻き上げないように気を付けて走って、そのまま跳び上がってカエルの頭の上へと向かう。反応という気付かれて頭の位置をズラされると面倒なので、即座に力を込めて頭部の尚且つ脳が存在している部分に向けて蹴りを叩き込む。
通常の打撃は持ち得る特性上通用せず、差し込み引き千切るという確実にダメージを通すのもこの瞬間に使うには時間が掛かり過ぎる。それに、そもそも通常の打撃であっても衝撃の流れる方向を指定してしまえば通用するからな。
「じゃあ、死んでくれや」
衝撃の方向性を調整した蹴りを叩き込む。仕組みを理解してそれに対して適応した一撃を用意さえすれば、こうやって簡単に頭を消し飛ばせる。
………何でそんなあり得ない光景を見たかのような目をしているんだ?
「こっちも。これで終わりだが……どうした?」
「……打撃は通用しないんじゃなかったのか? 普通に通用して打ち抜いているが」
「あぁ、完全に吸収とか無効化しているわけじゃなかったからな。鎧通しと同じ要領で叩き込めばこう出来るわけだ」
「ふむ……どんな仕組みだったんだ?」
「あー、言葉じゃ説明しにくいな。それにここに長居する理由も必要もねぇだろ、死体をさっさとバラして獣人たちの灰の埋葬だけしてしまおうぜ。それに関しては帰り道で実演しながら教えてやるよ」
「分かった。それなら、さっさと始めて終わらせるか」
「あぁ。誰かルルを呼んで来てくれ」
「ん、今ステラが呼びに行ってる」
「話が早くて助かる。フォンは?」
「灰を埋める用の穴を掘ってる、勝手に場所を決めたけど良かった?」
「それは全然問題ないが……それじゃあ、俺らは先に解体するところから始めるか。こんなデカいのをルル一人に任せるのも悪いしな」
最低でも二千メートル越えの巨体。それの解体をルル一人に任せては時間が掛かるだろうし、疲れるだろうからな。知識も技術もないとはいえどバラバラにして素材を回収しやすくすることくらいなら出来るだろう。
どれをどう使うのかは知らんが……まぁあんまり傷を付けないように足とかを斬り落として、内臓とかを傷付けないように輪切りにしたらいいだろ。
「リオ、ナイフを貸してくれ」
「ナイフ? はい、これ」
「助かる、それじゃあまずは足を斬り落とすか」
「了解した、私は後ろ足をやって来よう」
「ん、じゃあ私は」
「俺と来てくれ、短い刃物を使うのは初めてだから色々と教えてくれ」
「……分かった。教えて上げる」
嘘だろみたいな目で見られたが、残念ながら嘘じゃないし本当に使ったことがない。というか使おうとしても戦闘スタイルに合わないし、力を入れて握り締めた瞬間に持ち手が砕けたから使えなかったとも言える。
だからどんな力加減で使えばいいのか知らないし、どうやって刺してどうやって切るのかというのも知らないんだよな。知ろうとしなかったのかという質問はなしだ、必要ねぇだろそんなもんとか思っていた時があったし長かったからな。
「まず、そんなに力は入れない」
「おう」
「それで差し込む時は骨とか硬いところを貫くのには向いてないから、こうやって軽く刺し込んでからスーッと動かしていく」
「切れてないぞ?」
「……刺さらないんだけど?」
「やってみても良いか?」
「ん、やってみて」
「……入ったぞ?」
「…どうして?」
「…さぁ? まぁ、ここからどうすればいい?」
「……そこから無理しないで曲線を描くようにして下に引いていく」
「曲線で下に? こうか?」
「そう。下までいったらもう一回上に戻して、刺して下まで引いていく」
「これを繰り返すのか?」
「ん、そう」
「なるほど、じゃあ少し待っていてくれ」
「? どうかした?」
「まだ生きているらしい」
「……え?」
リオにナイフの使い方を教えて貰っていると、カエルの心臓あるであろ部分から生物の気配を感じ取ったのでナイフを刺した状態で置いといてそちらに向かう。
内側に休眠状態の本体が存在していたのか、それとも死ぬ直前で適応するために進化をして体を繭にして再誕したのか。どちらにせよ、こういう力を手に入れて巨大化した魔物ではよくあることだ。似た事例で言うとドラゴンの劣化であるワイバーンの劣化の芋虫のような姿をしたワームの加齢個体、それを殺して解体中に内側からドラゴンが出てきて死亡するなんていうことだな。初見の時は流石に驚いた。
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肉体の最適化
二つの手に二つの足、頭は一つ、大きさは180程度。
能力の最適化
アンデッド使役は破棄、機動能力と攻撃能力を重視。
耐性の強化
衝撃の緩和ではなく完全吸収、斬撃の完全無効化。
思考力の強化
獣人の脳全てを使用、魔物の適応性を使用、生存本能の強化。
感情の選別
恐怖の感情を破棄、絶望の感情を破棄、喜楽の感情を増幅。
巨大な体に見合った巨大な心臓の内側。膨大な命を喰らい魂を消費することなく溜め込んでいた肉体の中心であるその中にて、先程フェルノの一撃で脳を巻き込んで頭を粉砕されたグギは目覚めて肉体を再構築していた。
従来の魔物の中でも番を見つけられなかった上位個体や加齢個体が単為生殖、それを変質させた死をトリガーにした自己蘇生と進化を両立する能力。
多数の生命を喰らってその上で一切消費しなかったグギであるが故に行えるその能力を行使し、ダメージのフィードバックから対フェルノ用に最適化と強化と破棄を行い新しい存在として再誕する超常の力。
そして、心臓の内側で再誕を果たしたグギは強化を施した肉体の調子を確かめるように死した自身の前の肉体を内側から引き裂きながら外へと這い出る。
自身の生涯の標的であり一度己を殺した存在であるフェルノを殺す、そのために外へと這い出して空気を吸い新しくなった目で標的を探す。
「ミツケタ」
言葉を出してグギは二本の足で補足したフェルノの元へと疾走する。その速度はゴッという音と共に衝撃波を周囲に発生させる音速超えの、通常の生物では決して出せず出せたとしても肉体が耐え切れない異常な速度。
不意打ちであるのならばフェルノですら反応が遅れてしまう、そんな突き詰められた究極的な速度で疾走しその手を広げてフェルノの首を刈り取ろうとした。
だが
「殺し合いに二度目はねぇよ」
先程まで目の前にいて、掴み取ったのならば目の前にいる筈のフェルノの声が自身の上から聞こえてくる異常事態にグギは混乱し周囲を即座に確認する。
それにより視界に捉えられたのは縦半分に引き裂かれて地面に崩れ落ちる首のない自身の肉体。そして振り上げられて今にも視界の全てを埋め尽くさんと振り上げられている、ほんの数分前に目に焼き付いた自身の命を奪い去った足だった。
恐怖と絶望の感情を破棄してしまったが故に、グギの最後の瞬間まで頭の中を埋め尽くしたのは避けようがない死が迫りくる現実への理解だけであった。恐怖で意識を失うことも、絶望で逃避することも出来ないまま、死を迎えるその瞬間までグギははっきりと意識を残し続けたままであった。
※※※※※※※※
《グギ最終形態の姿》
黄土色のカエルが人間の形になっただけ。
戦闘能力に関しては、目覚めてから三時間程経過していれば魔王軍幹部の中でも中堅どころくらいの実力はあったりした。
《主人公とファナの実力に関して》
この世界で見れば上澄みの中の上澄み。
同じ人間という種族で見れば単純な戦闘能力で言えば並び立てるのは両手の指で数えられる程度で、上回っているのは例外条件下の一人を除けばいなかったりする。
世界単位で見れば上の上には入ってるけど、トップ10にはギリギリ入れるか入れないかくらいの実力。トップ5の文字通りの最強格にはまだ届いかなかったりする。
質問
①主人公の勇者時代の過去編は見たい? 概ねは魔王軍幹部との戦いかファナと信頼関係を築き上げていく話になるけど。
②魔王軍幹部とか今回のグギの設定とかは見たい? 今これを書いている時点では設定だけは作ってあるけど、本編に乗せるつもりはない予定ではいる。
出来たら答えてください。見たいって意見が多かったら書きます、そんなことは良いから本編を進めろダボハゼっていうなら書きません。
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